夜が消えた日
島本 葉
夜が消えた日
その少年は夜が好きではなかった。
一日を区切る夜が近付くにつれて、自由になる時間が減っていくのだ。友人と楽しく遊んでいたとしても、夜になれば家に帰らなければいけない。また家に帰っても、時間が来たら母親に急かされて眠りに就かなくてはいけないのだ。
しかし彼はもちろん知っていた。夜は地球と太陽の運動の関係で発生していて、世界では誰かが必ず昼を享受しているのだ。
──キミの望みを1つだけ叶えてあげよう
だから、彼はその問いに「夜を無くして下さい」と答えた。夜というものが必要には思えなかったのだ。
──本当にそれでいいのかい?
少年は夜が無くても困らないと答えた。
「僕が眠っても、世界はずっと起きている。コンビニはずっと開いているし、ネットの向こうでは、誰かが眠らずに活動しているんだ」
そうしてその日、世界から夜が消えた。
しかし、驚いたことに──いや、それが当然だったのか、人々は夜が消えたことに気付きもしなかった。変わりなく、本当に変わりなく淡々と日々の生活を続けるのだ。時間になれば、部屋を暗くして眠り、スマートフォンのアラームに起こされて活動を始める。時間に区切られたフレームの中で、1日を消化していく。そこには、朝も昼も夜もなかった。
やがて夜が無くなっていることに気付いた人々は、この時間をどのように有効活用しようかと考え始めた。何しろ、暗くならないのだ。これまで人々は24時間の3分の1を睡眠に費やしてきた。そして社会生活もそれに習い、夜になれば休みを取る。しかしそれは大いなる無駄だったのではないのか!
そんな議論が世界中で巻き起こり、果たして、労働は機械やロボット、AIに置き換えられていった。ネットサービスだけではなく、現実の店舗でも次第に営業時間を伸ばしていく。
そうして人々は、次に「いかにして眠らないか」を考え始めた。睡眠を必要とする人間の身体では、変化に耐えられなかったのだ。
やがて人間をいかにデータ化するか、いかに人間を置き換えていくのかを実践していった。
かつて少年だったモノは仮想世界にいた。
日差しが照りつける窓を、分厚い遮光カーテンで遮り、布団の中に
──どうかね? 夜が無くなった世界は?
──こんなのは望んでない。夜を返してください
──それは、ノスタルジィというやつだよ。キミにはもう必要無いモノだ。ご愁傷さま!
夜が消えた日は、記録には残っていない。
完
夜が消えた日 島本 葉 @shimapon
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