芸能とらいあんぐる~新人俳優と長身モデルと地下アイドルのお話~

もみぢ波

第1話 合格



「オーディション合格したんですか!?」


机に手を置いて、大きく体を前に出した少年の名前は遊馬あすま 夕鶴ゆづる。芸能事務所に所属して早1年と言ったところだ。


「はい。映画ですね」

「うわぁー、緊張する」


夕鶴は冷や汗をかいていた。オーディションに合格したとはいえ、監督から直接指導してもらったわけでもない。そのオーディションに手応えを感じられずにいた。


「他の配役って決まったんですか?」

「決まってますよ。2人いるみたいですが、どちらも演技未経験だとか」


夕鶴は胸を撫で下ろした。夕鶴は新人俳優とはいえ、もちろん稽古はしている。未経験者よりかは自信があった。


「誰なんですか」

「モデルの周防すおう つむぎと知ってるかな〜、地下アイドルの近衛このえ 礼華らいか

「え!紡くん!?!?」


夕鶴は勢いよく食いついた。後者は正直に言うと分からなかったが、前者は知らないなんて有り得ない。夕鶴は紡の大ファンだったからだ。俳優業に就いたのも、紡に会いたいからという理由が大半を占めている。


「紡さんのファンなんですか」

「はいっ!!」

「じゃあ、礼華さんの方も知ってるんじゃないですか?よく一緒に雑誌載ってますし」


(嘘だぁ。いや、俺は紡くんのことしか見てないし、有り得るかも。ていうか、地下アイドルで地上波出ちゃうのどうなの!?ファンからしたら遠くなっちゃうよね!?まぁ、それでもモデルしたり、演技までするんだから相当才能があるのか……いや、凄いや。これで紡くんにお近づきになれる……!!!)


「顔、歪んでますよ」

「ひどいっ!」


とは言うが、実際に顔を見れば酷い顔をしている。頬が緩みきっていた。マネージャーはその顔に苦笑する他なかった。




夕鶴には日課がある。それはネットの掲示板を見ることだ。『周防 紡のファンスレ』なんて言う掲示板を見て1人でニヤついているのだ。今日はなんとなく近衛 礼華について調べたくなった。夕鶴の本棚に大事にしまっている雑誌を漁れば、まるで礼華のファンかのように彼女の写るものが出てきた。マネージャーが言っていたとおり、紡は礼華とよく仕事をこなしていたのだ。さすがに視野が狭い。



023

今日も礼華ちゃんとチェキ撮った。そろそろ認知されるかも?


024

>>023

甘すぎだろwwていうか、最近モデルの周防とばっか仕事してね?


025

ここで言うことじゃないと思うけど、付き合ってると思う


026

>>025

え、礼華ちゃんと!?


027

>>026

それ以外に誰がいるんだよ


028

でも、礼華ちゃんはあんまり好きそうじゃないけどね。どちらかと言うと、周防さんの一方通行みたいなのは感じる。


029

たしかに。周防さんって自分の宣伝とかあまりしないけど、礼華ちゃんとのお仕事はちゃんとするしな。


030

>>029

尻に敷かれてるんじゃねぇの


031

>>030

夫婦かよw


この掲示板を見る限りでは相当仲が良いらしい。しかも、紡が礼華のことを気に入っているというのだ。あったとしても、反対だと思っていた。夕鶴は混乱しながらも、雑誌に載っている礼華の顔を見つめた。


(アイドルだし、ないとは思うけど、紡くんと付き合っていたりしないよね???)


夕鶴は会ったこともないのにその礼華という少女に嫉妬した。夕鶴は紡のことが好きで、紡は礼華のことが好き。とんだ三角関係だ。夕鶴は頭を抱えながらベッドにダイブした。




夕鶴はまだ知らない。三角関係の底ができていないことに。もう1つ線ができることで三角関係が完成するということに。

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