13.カトレアと青い蝶【ホラー】

 久々に夢の一部が明瞭に記憶に残ったのでこちらを更新する。


 ただ、今回の内容は「ストーリー」と呼べるほどの長さにもならない不可思議な断片である。


 近頃熟睡しすぎているのだろうか。




 それでは早速。


 夢の中、私はどこかの庭園(だと思う。確実に人の手が入った場所だった)に立っていた。

 恐らく昼頃だ。天頂にある太陽が薄曇りの中から淡い黄金色の光を降らしていたと記憶している。


 しばらく歩くと、見慣れない木が一定間隔で立ち並ぶエリアに辿り着いた。


 芳香につられて木を見上げる。

 カトレアが咲いていた。


 …………待ってほしい。


 まず、カトレアは木に咲く花ではない。

 蘭によく見られる平行脈のでけぇ葉っぱと、しっかりした茎の上に咲く花だ。


 決して、木の枝の先に、何個も花を並べるようなことはない植物だ。


 しかし夢の中ではそうだった。

 恐らく、日常生活でだけのカトレアをよく扱うからだろう。


 私がそんな樹上のカトレアに見とれていると、ふと視界の端を青い何かが横切った。


 蝶だった。

 メネラウスモルフォによく似た、美しい青い蝶だった。


 それで気づく。私とカトレアの木の周りにはいつの間にか沢山の青い蝶が舞っていた。正直ゾッとするほど浮世離れした光景だった。


 それで夢の中の私は……何故だろう、ふとでずにーぷりんせすのような心地になって、蝶の舞う方へそっと腕を掲げたのである。


 この指とまれポーズである。

 トンボじゃねぇンだぞ。


 だがしかし……青い蝶の内の一匹が、私の指先に優美な仕草でとまったのである。

 私は蝶が逃げないようにゆっくりと、その腕を下ろした。


 あんまりにも美しい青だった。

 幻想の果ての楽園にはこういう蝶が飛んでいるのかもな、と思った。


 青い蝶は、しばらくすると私の指先から手首へ、そして腕の中ほどまでに移動してきた。くすぐったかったが、夢の中の私は我慢してそれを見つめていた。


 そして――蝶の尻が持ち上がり、針のような鋭利さを露わにした。


 ――アッこれ、あかんやつだ。


 夢の中の私は、今にも私の腕へ尻の先を刺そうとする蝶を思いっきり腕から毟り取った。


 何故か、夢の中の私は「卵を産み付けられる」と確信していた。

 蝶が、ただ尻を尖らせて構えただけだというのに。


 そこで記憶は途切れている。



 はて……

 まさか夢の中で蝶に卵を産み付けられそうになるとは。


 知りもしないはずのその行為を、確信をもって「産卵だ」と判断した夢の中の自分が不思議でならない。


 あそこはいったい何だったのだろう。

 カトレアが木に咲き狂い、青い蝶の舞う庭園。


 思い返してみれば、異常さの浮かび上がるような場所だった。


 それでも、確かにあの庭園は、美しかったのだ。

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