鮮明かつ五感がある夢を見る作者の夢日記。

ふとんねこ

1.500ml計量カップ片手に疾走する者。あるいはネコチャンの誘惑。【コメディ】

 随分と愉快な夢を見たので文章にしようと思い筆を執る。

 ジャンルは謎である。個人的に愉快だったのでコメディにしただけである。


 久々に記憶にしっかり残る夢だった。


 バスに乗り遅れそうで全力疾走する話であった。


 帰路だから一つ乗り過ごすくらい構わないが、私の住まいは田舎だからバスの本数は少なく、乗り過ごせば待ち時間が長い。


 そして私は常に少しでも早く家に帰りたい性分だ。



 その夢はいきなり始まった。私は500mlの耐熱計量カップを片手に駅近くの商店街の横断歩道の前に立っていた。


 カップの底には微かにコーヒーの跡が残っていて、500mlも飲んだんだ……と思いながら(実際飲む)私は青信号を待っていた。


 青信号になった途端、私は全力で駆け出した。なかなかしない全力疾走だった。何せ残り時間はあと3分。バス停はまだ遠い。


 駅横のビルを通り抜けると近道だから迷いなく飛び込んだ。そしたら現実には存在しない雑貨屋があり、すんごく好みの茶器が並んでいた。

 しかし「急いでるから……!」と私は素通りしようとした、次の瞬間。



「ネコチャンッ!!」



 有り得ないことだが、商品の並ぶ棚の上にキジトラの猫が座っていた。

 茶器に誘惑に勝った私は突然のネコチャンにあえなく敗北したのである。


 大人しいその子の頭を撫で、モフモフを堪能し、そしてハッとして再び駆け出した。


 ビルを出るとすぐに時計を確認した。残り1分。絶望。


 それでも私は走った。多分その時私はメロスだった。自宅という名のセリヌンティウスのために早く帰らなきゃならないと燃えていた。


 しかし、バス停でも夢特有のミラクルが起こった。いつもの場所にいつものバス停が無い。ハッとして見ればいつものバス停は2つ隣、私は乗りたいバスのドアが閉まる瞬間を見てしまった。


 それでも諦めない。ここは田舎だ。発車したばかりのバスに並走して止まってもらう老婦人の姿は週に3度見る。


 そうだ、私も老婦人になるのだ。ヘロヘロの体力絶望人間だとしても、老婦人より走れるはずだと信じて。



 しかし老婦人はプロであることをすぐに悟る。初心者の私は死にかけのカタツムリみたいな気持ちで元気よく走りだしたバスを見つめた。


 しかしバスはぐるっと回って道路に出る。まだチャンスはあるのだ。


 道路へ向けて進むバスへ向けて私は駆け出した。道路に飛び出す、完全に違反行為であった。

 普段なら諦めるところ、夢の中の私は何故か全力だった。コーヒーのせいだろうか。


 しかしバスは早い。だが待ち受けるのは赤信号。神はまだ私を見捨ててはいないのだと悟った。


 苦しい、だって普段はこんなに走らないもの。私は「俺がナルトだったらこんなに苦労しないのに」と訳の分からぬことを呟きながら走っていた。忍者であるわけがない。私はただの、ネコチャンの誘惑に負けた哀れな走者なのであるから。


 バスに近づく。信号が無情にも青に変わる。神は私を見捨てた、味方はネコチャンだけである……と絶望に沈んだところで目が覚めた。


「…………?」


 訳が分からなかった。


 無駄に疲れたような気持ちで自室の天井を見上げ、起き上がった私はぼんやりと部屋を出て、取り敢えず家のネコチャンを抱き上げた。よい吸い心地。キジトラである。


 ちなみに私は猫アレルギーなので、猫を深く吸ったことによってしばらくくしゃみが止まらなくなった。しかし猫を愛する者故、これくらいは何ともないのだ。


 本当に訳の分からぬ夢であった。以前見た、男たちの料理対決の「残りはスタッフが美味しくいただきました」のスタッフをして「コーンと何かを混ぜたなんかぬちゃっとした美味しい奴」を食い、その感想を「うまい、ナニコレ」で終わらせたあと、何年も前に終わらせたはずの高校の卒業式で「僕たち、私たちは、卒業します」の「私たち」を担当することになる謎の展開の夢以上に疲れた。


 私は定期的に変な夢を見なければならぬ定めにあるようだ。


 怖い夢よかマシだが、無駄に疲れるのはやめてほしい。もっと平和なのはないのか。ネコチャンに埋もれて死ぬ夢とか。


 とまあ、これが先日見た愉快な夢である。


 疲れはしたが、文章化するとなかなかに愉快であった。


 それではこの辺りで締めさせていただく。もしこれを読んで自分が見た訳の分からぬ夢を思い出したら是非聞かせてほしい。

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