第103話 未知との出会い

 島での生活向上のため本格的に動き始めた。最初は探索をして何をすればいいかと思っていたけど、船づくりから始まり、木材をつくったり食料を確保したり加工したりと、色々具体的に行動すべきことが見えてきた。

 と言うか島での生活になれてきて、勝手に何かしていいのかなみたいなのじゃなくて、ここが自分たちの島! 何かしなきゃ! なにをしてもいいぞ! ってなってきたのが大きいよね。


 からっといい天気が続き、数日かけて木材が乾燥したので船を作ってくれている傍ら、私とイブは二人で小さい木材で工作をすることにした。


 せっかくなので作業している二人とマドル先輩が見えるよう、二人がいる表側にパラソルと机を出して作業することになった。せっかくのいい天気だし、完全に分断してやるのは寂しい感じがするもんね。


 工作して作った作品は、いずれ街に行く時に売る予定だ。以前ネルさんがしていたのだけど、イブも一緒にしていたらしく席に着くなりさっそく手に取って作業を始めた。その手つきはよどみない。


「へー、イブ、上手だねぇ」

「ん。イブ、こういうの、上手。つくるの、好き」

「そうなんだ。すごいねぇ」

「んふふ。イブ、すごい。エスト、わからない、時、教えるしてあげる」

「ありがとう。私も頑張るね」

「うん。頑張るね」


 なんて会話をしてイブはどや顔をしつつもその手はとまらず、小さな木材から小鳥を作ろうとしているらしいのがわかる。がんがん削って、早くもくちばしのようなものが出てきている。器用なものだ。と、感心しながら、さて私は何をしようか。


 イブは下書きもせずに始めたけど、小さなナイフでいきなり切ってもできる気がしない。下書きをして、大体の形をつくるところからだよね。

 やったことはないけど、こういうのはだいたいどれもやり方は似てるものだろう。粘土で作る時はだいたいの形を大まかに作ってから、細かく調整していくものだ。そうしないと大きさの調整が難しいからね。


「エスト様はどのようにされるのですか?」

「うーん、そうですねぇ」


 まずはデザイン画を描くようにマドル先輩から紙とペンを渡されている私は、モチーフを何にするかから考えることにする。


 そうだなぁ。ここは無難にマドル先輩が好きな犬にしようかな。誰も知らない生き物を作っても売れないだろうし、そもそもそう言うのは難しい。簡単なつくりにしても誰でもピンとくるようなものがいいだろう。

 犬の横からみた図を描いていく。うーん、思ったより足とか細くなってしまった。あんまり細かいと作るの大変そう。顔だけにしようかな?

 あ! 思いついた。もっと小さいのに顔だけ作って、紐を通してネックレス上にしよう。小さい子が喜んでくれるかも。大量生産もしやすいし。


「マドル先輩、こういう感じに顔だけを作っていくのどうですか? 形が同じでも、こうやって色を塗れば、あ、色がないですね。うーん、木目が犬の柄みたいな感じでしていけば、それぞれ個性のある感じになると思うんですけど。目つきとか微妙に変えたり」

「ふむ。……なるほど。あえて目つきの悪い犬に描くと言うのは斬新ですね」


 絵に描いて説明するうちに色々とアイディアが湧いてくる。千歳あめみたいに形を整えたのを切っていけば簡単に増えるのでは?

 あと色も買ってきてもいいけど、色のある石を砕いて絵具って作れるんだっけ? 植物の色とかも潰して出すとかそう言う染料あったような。そう言うのも作れるのかも?


 マドル先輩は私がちょちょっと試しに書いた犬の顔パターンをまじまじと見ている。パターン数を増やしたくて色んな表情を描いたのがマドル先輩の琴線にふれたのかな? いいよね、ぶさかわいいのも。


「ちょっとくらいならぶさいくに描いても、ぶさ可愛いって感じになると思うんですよね」

「ふむ……ぶさかわいい、ですか」

「ぶさいくだけど、それが逆に愛嬌があって可愛いってことです。ほら、美人はライラ様みたいな感じですけど、可愛いって顔が整ってなくても言えると思いません? 笑顔が可愛いとか、動きが可愛いとか」

「そうですね、エスト様もとても可愛いと思います」

「えへへ」


 とストレートに褒められたので照れて頭をかいたのだけど、あれ? この流れでの可愛いは逆に私の顔整ってないと言う意味にも。いや、ライラ様に比べたらね、そうなっちゃいますけど。


「ではまずはこのような形にして」

「あ、はい」


 マドル先輩は私の説明に頷くと、私用だったナイフを手に木材を手に始めてしまう。

 私がするつもりだったんだけど、私の絵を見て下書きなしで迷いなく削っていくマドル先輩を見ていると文句を言えないので、とりあえず試作品と言おうことで見守ることにした。


「こうでしょうか」

「私のイメージだともっと小さいやつだったんですけど、とりあえずこんな感じで」


 たまにちらっと明るい砂浜の上で船の組み立てをしているのを見ながら、マドル先輩と話し合いながら形や顔のバランスや表情を調整していく。


「じゃあこんな感じで、ちょっと喉乾きましたね。そろそろお昼ですか?」


 お話してると喉が渇いてきた。飲み物をお願いしてもいいけど、もうお昼ならわざわざ今持ってきてもらうより食堂に行った方がいいので聞いてみた。太陽の位置も高いと思うんだけど。


「ただいま準備中ですので、お昼まではもう少しお待ちください。待ちきれないなら、デザートに考えていた果物を食べるのはどうでしょう。十分冷えたでしょう」

「果物食べる」

「あっ、イブ。そうだね、食べよっか」


 食事の催促ではなかったけど、食べ物に耳ざといイブが食いついたし、あえて今喉を潤すために果物を食べるのもなんだか素敵なのでそうすることにした。

 今日のデザートはわかっている。なんと、スイカだ。まん丸じゃなくて楕円だし、色味も違うけど中はまごうことなく赤い果実のスイカ。

 この島には自生していたものではない。港町にいた時から家庭菜園の一環として育てていたものだ。外国から来た種と言うことで実物はなかったけど、説明を聞いてスイカだと確信して買った。なんと春に植えて夏に食べられると言うスピード感なので、自給自足の中にいれるのにぴったりだね。


 船で出発した時にはすでに実がなって結構な大きさになっていて、多少かさばりはするけれど水分量が多いし、とってからも日陰で保管していれば結構日持ちするから船旅に連れて行って損はしないだろうと言う判断で連れてきていたのだ。

 早めに食べられなくもないけど、せっかくの人生初めてのスイカなので一番いいタイミングで食べたいもんね。


 そんな大事なスイカちゃんがついに食べごろを迎え、昨日から冷やしていたのだ。くー! 楽しみ!


「じゃあ私、取ってきますね!」

「いえ、私が」


 思わぬタイミングではあったけど、むしろ食事の後よりしっかり味わえていいかも! めちゃくちゃ食べたくなってきた!

 席をたつとマドル先輩がいつものように自分がと言ってくれるけど、このままでは畑にいるマドル先輩にいつものように先手をとられてしまう。


「まあまあ! こういうのは井戸から取ってくるのも楽しみの一つですから!」

「ん! イブも行く! 楽しみ!」

「お、いいね、行こう!」

「行こう!」


 マドル先輩に任せたら、カットされた状態でお出しされる可能性がある。全然それはありがたいのだけど、せっかくのスイカ。もうちょっとこう、スイカ感というか、大きさを感じたい。

 と言うことで挙手して一緒に立ち上がってくれたイブをつれて、私はマドル先輩をその場において畑に向かって駆け出した。


「マドルせんぱーい! まだ出してないですよね!?」

「エスト様、そのように腕をふりながら走ると危ないですよ」


 何百メートルもあるわけではないとはいえ、大きな家を迂回して畑まで行くのに数秒と言うわけにはいかない。なのでとっくにマドル先輩が井戸横にスタンバイして待ってくれている。

 その手には何も持ってないけど、既に別のマドル先輩が持って行った可能性もあるので近づきながら尋ねると、マドル先輩には答えずに注意されてしまった。


「はーい。で、まだですよね?」

「まだですよ。注意して持ち上げてくださいね。ゆっくりですよ」


 井戸を覗き込むとマドル先輩がそう言いながらも私達で自由にしてくれるようだ。私は井戸についているロープを持ち振り向く。

 後ろについてきていたイブは何も言わずとも私の後ろに並んでロープを掴んだ。目を合わせてうんと頷いてから前を向く。


「行くよー、よいしょ! よいしょ!」

「よいしょ! よいしょ!」


 こういう時、イブは全部復唱してくれるから気持ちいい。気分よく引っ張ると、すぐに水桶があがってくる。そんなに大きくなくて桶にぎりぎりサイズくらいだったけど、重さと音的に落ちてはないだろう。楽しみー。


「よいしょ! わー、すい、ん?」


 桶の頭が出てきたので、ぐいっと引っ張って一気に目線まで持ち上げ、現れたスイカにテンションが最高潮になった瞬間、スイカの向こうから何かがひょっこり現れた。


「わあぁっ!! あ、ん? え?」


 丸い何かがスイカの横、桶のロープ部分にしがみついていた。一瞬ネズミかと思ってビビって両手を離して横に一歩逃げてから、でもよく見てみると、ネズミではない?

 茶色い丸い生き物の姿が見えてびっくりしたけど、お鼻がまるくて、つぶらな瞳、とよく見たら可愛いと言うのはおいておいて、なにやら葉っぱで作ったらしい緑の服を着ている。


 もしかして、原住民では?


「す、すみません、びっくりしちゃっ、わああああ!?」


 目の前で桶ごと揺られてちょっと不安そうな彼? に失礼なことをしてしまったと慌てて謝ろうとしたところ、急に横からすごい力で引っ張られ、私は気が付いたら空中にいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る