第25話 お菓子作り2
私とマドル先輩の飽くなきお菓子作りの探求は始まったばかりだけど、とりあえず初回のスイートポテトは成功とみていいんじゃないでしょうか!
私の適当目分量でもそれなりになったし、それを参考にマドル先輩がよさそうに試したところ全部美味しかった。まあまあね。普通に焼いて食べて美味しいお芋に砂糖とバターいれるシンプルなものなんだから、多少分量が違ったところで不味くなるわけがないんだよね。砂糖が多すぎて甘すぎる、バターが多くてくどすぎる、を避ければ美味しくないわけない。
「ライラ様、私とマドル先輩でお菓子をつくったんです! ぜひ食べてください!」
ということで、さっそく完成品をライラ様に献上することにした。私たちはおやつの時間にたっぷり食べたので、夕食を食べ終わった頃にライラ様が起きてきてくれたのでマドル先輩にだしてもらう。マドル先輩もどこか自慢げに熱々に温めなおしたスイートポテトをライラ様に給仕した。
ライラ様はあまり興味なさそうにそれを見て、フォークをとってつついた。
「そうか。ふむ…………じゃあ」
沈黙がなにやら嫌そうだったけど、ライラ様は一口切り分けて食べた。ライラ様が食事を食べるのを見るのはこれで二回目だけど、ただ食べるだけでお上品。ビジュアルが神なのは一目でわかるけど、ライラ様は一挙手一投足が素敵なんだよね。
「うん……なるほど。悪くはないな。舌触りもいい。芋特有の匂いも香ばしくなっていて嫌味ではない。自慢げにだしてくるだけはある」
「やったー! 大成功ですよ! マドル先輩!」
「そうですね。ライラ様のお口にあったようで嬉しいです」
ライラ様はよくよく味わうように唇を動かして、少し驚いたように目元をぴくんとさせてから口の端をあげた。その良好な反応に、私はマドル先輩を振り向いてばんざいした。するとマドル先輩はすっと私の横に着て、そっと私の手に手を重ねてくれた。
さっき出来上がった時、知らなかったようなのでハイタッチを強引にしてもらったのだけど、どうやらマドル先輩も気に入ってくれたらしい。私はぱんぱんマドル先輩の手を軽くたたいてから頷く。
「やりましたね。えへへ。ライラ様も喜んでくれて嬉しいです」
「うむ。まあ、よくやったな」
ライラ様はそう言ってフォークを置いて、カップを持って飲んだ。カップの中身は紅茶だ。ライラ様も私の食事に立ち会ってくれる前は水分をとることもあまりしないということだったけど、一緒にお茶をするようになってからは私と一緒にマドル先輩のお茶を楽しんでくれている。
今まではお菓子をすすめてもなかなか食べてくれなかったけど、これをきっかけに三時のおやつくらいは一緒に食べられるとうれしいな。
私はもうお昼に散々食べたし、夕食後のお茶中だったのでもう終わりだ。にこにこ笑顔がとまらないまま、ライラ様のおやつタイムを見守ることにした。
「……」
「……」
「……?」
「……食べればいいんだろう、食べれば」
「え、あ。すみません」
にこにこの私と無表情ながら楽し気なマドル先輩に見守られたライラ様は、口を付けたカップを置き、なにやら気まずげに黙った。その妙な間に首をかしげると、ライラ様はまた嫌そうな顔をしながらフォークを手にした。
それにハッと気づいて謝る。強引に食べなきゃいけない圧を出してしまっていたのか。もちろん、食べるライラ様がみたいけどそれは喜んでもらいたいもので、無理強いしたいわけじゃない。
「無理にとかじゃなくて、ライラ様に美味しいと喜んでもらいたくて。嫌ならもちろん食べなくて大丈夫です」
「……別に、嫌とも言ってないだろう。実際、味は悪くない。だがどうしても、億劫でな。人間と違って生きるために必要でもない。栄養にならんわけでもないが、微々たるものだからな」
そう言ってライラ様は二口目を食べてくれたけれど、またスプーンを置いた。ちょっとでも嫌なら強要したくない。どうすれば。というかライラ様が何を面倒がっているのかよくわからない。単純に食べる動作が面倒ってことなのかな? うーん、あ!
「じゃあライラ様、食べるのが面倒なら私が食べさせてあげます。はい、あーん!」
とりあえずこれで食べる動作が面倒なのは解決! ということで私はライラ様のフォークをとって、ちょっとすくってライラ様の口元にもっていく。噛むのが面倒、の可能性もあるので量も少なくしたので完璧!
「……ああ」
ライラ様は面食らったようにちょっと驚いたみたいだったけど、ためらいながら口を開けて食べてくれた。なんだか勢いでしちゃったけど、ライラ様に食べさせるの楽しい。私に向かって口を開けてくれて、フォークの先からライラ様の動きが伝わってきて、なんだかちょっとドキドキしちゃった。照れるなぁ。
「えへへ。どうですか? これなら楽ですよね? それに人に食べさせてもらうと、なんだかちょっと、より美味しくなった気がしません?」
「うーむ。まあ、悪くはないが。もう一口もらわんとよくわからんな」
「あ、じゃあ」
「お待ちくださいっ、エスト様!」
自分で自分の顎をなでながらそうまんざらでもなさそうに言うライラ様に、私は嬉しくなってもう一口とフォークをスイートポテトにさそうとしたところで、マドル先輩の聞いたことない声と共に私の手を掴まれて、私はびっくりしながら振り向いた。
「えっ!? ま、マドル先輩、どうかされました?」
「聞いていません。それはずるいです」
「はぇ?」
表情もどことなく焦ったような感じだし、私が気づかないだけで何かとんでもないことが起こっている!? と思ったら予想もしないことを言われて変な声が出てしまった。
ずるい? とは? 意味が分からず驚く私に、マドル先輩はすっと私の手からフォークをとりあげた。
「ライラ様のお世話は私の仕事ですから。さ、ライラ様。あーんですよ」
「おい、お前までなん……なんだ、お前らは」
「えっ、あっ!?」
いつの間にか後ろにマドル先輩が大集合して列をつくっていた。困惑するライラ様にマドル先輩が並んであーん待ちをしているようだ。
「おや、エスト様のあーんを受けられて私のあーんは受けられないのですか?」
「まあ、いいが。んむ」
「私のあーんは美味しいですか?」
「……悪くないが」
ライラ様は並んだマドル先輩にちょっと困っていたみたいだけど、でも優しいライラ様はマドル先輩の好意を無下にはせず、口を開けて受け入れた。順番に一口ずつ食べていくの、ひな鳥みたいで可愛いー!
「エスト様」
「あ、はい、なんでしょう」
順番にマドル先輩がライラ様に食べさせていく微笑ましいシーンを見ていると、食べさせ終わったマドル先輩が私の後ろにきてちょんちょんと肩をつつかれた。振り向くとマドル先輩はまだフォークを持っていて、ライラ様にあげているのと別のお皿に新しいスイートポテトを持っていた。
「より美味しく味わえるということでしたので、エスト様にも食べさせてあげます。さ、あーん」
「え、ありがとうございまーす。あーん」
思ってもなかった提案だけど嬉しいのでうける。うーん。散々食べたけど美味しい。あまあま。こう、しっかりねっとりあまーいっていうのはこの人生で初めてだからね。適当な思い付きだったけど、スイートポテトでやっぱり大成功かも。元のお芋も美味しいけど、前世の品種改良されたのにくらべると素朴な味だしね。
「エスト様、あーん」
「え、あ、ありがとうございます」
どうやら私にも全員のマドル先輩がしてくれるらしい。右を見ても左を見ても美人メイドさんに囲まれて、ちやほやされてとってもたのしい。のだけど、あの、さすがにぽんぽんいっぱいで苦しくなってきた。お芋はお腹でふくれるから。
「ぷふー。お腹いっぱいです」
「ああ……当分芋を食いたくない」
最終的に二つのスイートポテトを食べたライラ様はお腹を押さえる私を見ながら、げんなりした顔をしていた。それは私もそうかも。
「はい。じゃあ、今度はお芋以外のお菓子を考えます」
「……ほどほどにしておけ」
もうお菓子自体いい、と言われるかなとちらっと思ったけど、ライラ様はそう苦笑するように言うだけだった。ライラ様、思ったより気に入ってくれてたのかな。
もっともっと、ライラ様に楽しいと思ってもらえるよう、頑張ろう。そう、私の前世チートが役立つときがきたのだ!
村では私の農業体験で得た知識をそのままできるだけ真似しただけでも、植え方めちゃくちゃで手入れもほぼなしだったから目に見えて効果はあったので前世知識チートできてはいたけど、全然喜んでくれてはなかったし。やっぱりチートは人を喜ばせてなんぼだもんね!
「マドル先輩、今日は大成功でしたね」
「そうですね。エスト様の発想はなかなかいいところをついています。今後もご教授をお願いします」
「これからも頑張って、ライラ様が喜ぶようなお菓子作りましょうね。次は何がいいですかねぇ」
お風呂にいれてもらいながらマドル先輩と明日からの計画の相談をする。マドル先輩自体は物を食べない。今回味見はしていたけど、美味しいってよくわかってない感じだったので、私の味覚が頼りなのだ! これぞ人間チート。人間であることがチートになるとは。
「年越しの時期ですし、なかなか新しいものがないですよね。どういう食材がありますか?」
「甘芋以外ですと……すぐ手に入る果実はありませんね。野菜はあるのですが、他にお菓子になる野菜はありますか? もちろんお肉などでもお菓子になるなら構いませんが」
「うーん、そうですね」
普通の洋菓子でもいいのだけど、確かにそのまま食べれるものをあえて加工するっていう物珍しさでライラ様も気に入ってくれたんだろうし、変わったのがいいよね。
でも、他にお菓子になる野菜? 人参とか大根? キャロットケーキ、はつくり方知らないし。え、待って。私が作り方知ってる野菜を使ったお菓子とか難易度が高すぎる。
うーん。さっきはお芋はいいって思ったけど、そもそもお菓子作り自体、毎日したら嫌がられそうだし、ライラ様に食べさせられるのはたまにだけだよね。だったら種類が違って全然味が違ってもいいのでは?
「たとえば、甘芋じゃない、普通のじゃが芋がありましたよね。……芋餅とか?」
「どういうものですか?」
「甘くないお菓子なんですけど、じゃがいもと片栗……あるのかな。えーっと、うーんと。小麦粉でもいけたはず! ジャガイモをマッシュして、小麦粉と混ぜて。甘辛いタレでからめて食べます」
「甘辛い? 少しどういう味か想像できかねますね」
と言っても、この世界醤油あるのかな? 田舎暮らしの味なし底辺食はほぼ素材の味のみ、お腹減りすぎて洗った石をなめて空腹をしのいだりしてたくらいなので、前世の味付けが懐かしいとか以前の問題だった。だからここのご飯はどれもとっても美味しくて満足しかないけど、前世と似た食材や調味料があるとか考えたことなかったなー。
果物もあくまですぐには手配できないってことで、確認してもらったら何かあるかもだし、明日から、もっともっといろんなことに挑戦してみよっと! 楽しみだなぁ!
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