血の一滴まで、あなたのもの
川木
はじまり
第1話 食料として買われた
交通事故にあってこれ死んだわ、と思ったら異世界に転生していた。ど田舎の貧しい農村に生まれた。今時ど田舎でもスマホの電波はあるはずだし、なんか魔物とかいるらしいので異世界に間違いないっぽい。
異世界転生したら、一度はしたい知識チート。と言うことで小さい時から周りをよく観察して言葉や文化を習得し、ある程度成長したら家のためにと前世知識で家業の農業をよくしようと頭を捻ったり小銭を稼いだりしてみたところ、気味が悪いと売られました。
そんなことある? 私のおかげで収穫量増えて家も豊かになったと言うのに。まあ、家族とは言え私も親として見れてたわけじゃないし、何も知らない親からすれば家族を奪った悪魔もどきと思われても仕方ないか。
切り替えていこう。
私は外から見たらまあ普通に見える馬車にいれられ、これから直接売られるらしい。馬車の中は質の悪い布で粗隠ししているけどちょっと臭いし、めくると変な染みとかある。人買い専用馬車なら、ここでもらしちゃった子とかいるんだろうな。比較的マシな御者席に近い出入り口に陣取った。後ろ側は逃げられないようにか完全に蓋をされている。私以外に五人いて、その子たちは身を寄せ合うように奥に陣取っている。臭くないのかな?
入り口は風もあるし、そもそも馬車に乗ったことなんてないから割と楽しい。御者をしている人買いに話しかけるとうっとうしそうにしながらも、暇だからか色々話してくれた。その人が言うには私たちは高貴な人のところに売られると言う。じゃあこの六人は同期? なのか。
ねぇねぇ。高貴な人ってどんな人? と言うかそんな偉い人に会うのに私たちこんな元々着ていたつぎはぎだらけのボロの服なの? せめて水浴びさせて。汗かいちゃった。あとお腹減った。
あ! 手をあげるの!? これから高値で売る商品に!? そんなことしていいんですかー!?
これでも私なりに情を持っていた親に売られちゃった絶望でちょっと態度が悪かったかもしれないけど、一応水浴びさせてくれたし、顔合わせの時にお腹ならして管理不足を指摘されないようにとカチコチだけどパンをくれた。直通でもう向かっているから着替えとか石鹸とかはないから、まあ仕方ないだろう。
これでもまあまあいい人買いさんだったんだろう。偉い人に買われてどうなるのかわからないけど、私みたいな女の子だけじゃなくて男の子もいる。年齢も見た目もばらばらだし、えっちな慰み者にされるわけじゃなさそう。普通にお仕事するならもちろん頑張るし、第二の人生まだまだこれから。頑張ろう!
「ほぇー」
連れてこられた先は、思っていた以上にすごいお金持ちの家だった。と言うか、城じゃん。すご。
思わず見上げて間抜けな声がでてしまう。
「ぐずぐずするな、さっさと歩け!」
「はーい」
五人の同期はびくびくしながら人買いの後ろについている。と言うか普通にこの人買いさんは声が大きくてすぐ手を出す系の雰囲気あるおじさんだし、そもそも顔も恐いのに、何でみんな後ろについてるんだろう。
私がお願いした水浴びの時、お前らもしろって馬車から出された時もおじさんの手から逃げようとしていたのに、今は後ろについてるなんて、ちょっと変な感じ。もしかしてこのお城の持ち主はみんな知ってるくらいもっともっと恐いおじさんだったりするのかな。ドキドキ。
おじさんが訪問をつげるとお城の中からメイドさんが出てきた。こういうの執事さんじゃないんだ? にしてもメイドさん、お人形さんみたいに美人さんだなぁ。こんな人がいるなら、私たちは本当に小間使いとしてって感じなのかな?
メイドさんはにこりともせず案内してくれた。所詮人買いとこれから自分の部下になる子供にふる愛想はないってことか。カッコいい。クールメイドさん。
にしてもほんとに、どこもかしこもぴかぴかで、床も大理石とか? 私たち貧乏人の靴は布で作られたサンダルみたいなやつだ。滑りそう。一応人買いさんは革靴でコツコツ音を立ててる。あれ、そう言えばメイドさんも革靴っぽいのに音しないな。
も、もしかしてこれは、戦うメイドさん!? 足音を立てずに歩く技術! と言うことはもしかして私たちもそう言う感じの教育を受けたりするのかな。諜報員とか、子供のころから修行するのが定番だもんね。うーん、暗殺とかは嫌だし、できれば才能ないから家事手伝い専門でってことにならないかな。あ、私の料理知識チートでなんとかシェフをめざそう。よし!
と、お高そうな立派な建物に委縮しつつ未来のビジョンをたてていると、ようやく大きな扉の前で一度立ち止まった。こ、この中に私たちの買主が。緊張している私たちに人買いのおじさんは、余計なことはしゃべるなよ、と小声で注意してから中に入った。
「へへへ、お待たせしてすいやせん。お約束のものをお持ちしました」
人買いおじさんはそうわかりやすくぺこぺこしながら、玉座みたいなところに座っている偉い人に膝をついてそう言った。
は、はえぇぇぇ!
とまた間抜けな声が出そうだったので口を押さえて耐えた。でも、だって、こんなの凄すぎでしょ。
玉座に座ってる偉い人は、めっちゃ美人さんだった。光の加減で金とも銀ともとれる薄い色の長い髪は天からの光りみたいに輝いていて、同じくらい色素の薄い肌は真っ白で、切れ長の美しい真っ赤な瞳がすごく色っぽくて、口元の妖艶さも含めて、ザ大人の女! みたいな感じでめっちゃ色気のある美人だった。
服装は女王様みたいな真っ赤なノースリーブのシンプルなワンピースっぽいドレス。特別宝石とか身に着けてる訳じゃないけど、ゴージャスなオーラがばりばりだ。ハリウッド女優とかも生で見るとこんな感じなのかな。とにかく、オーラが凄い。
玉座に座って足を高く組んでいるのだけど、玉座の位置がここから数段上なのでちょっと膝下が見えているのがまた色っぽい。赤いヒールがまたよく似合う。
ちょっと勝ち気で偉そうな感じも、へへー、女王様、何でもします! とついつい言いたくなる感じだ。こんな人のところで働くなんて、私、すごくやる気出ちゃうな! 殺人以外ならスパイとかでも頑張っちゃうかも!
「うむ。御苦労。もういいぞ。帰れ」
「お送りいたします」
あっさりとおじさんはメイドさんと出ていった。
にしても声も麗しいと言うか、あ、はい! ってとりあえず肯定しそうになる圧がある。綺麗な声には間違いないけど、やっぱりこう、貴族! 王様! みたいな感じだ。
って、あら、あわわ。と言うかよく見たら他の子も膝ついてたのか! 立ってるの私だけだった。ど、どうしよ。今からでも膝付いた方がいいのかな。
「お前たち、立つがいい」
「……」
と思ったら立っててよかったみたいだ。女王様ったら優しい。と思ってたらみんな立たないな。
仕方ないのでそっと顔をよせて小声で声をかける。
「立ってって言われてるのに立たないのも失礼だし、立ったほうがいいんじゃない?」
「……」
何故か睨まれた。え、もしかして一回言われても断ってもう一回言われるのを待つパターン? ど、どうすれば。と言うか、普通こういうのこそ人買いのおじさんが教えるべきじゃない!? 教育がなってないよ人買い! だから私のせいじゃない!
「ふむ。よかろう。楽にするがよい。お前たち、ここに何のために来たのか、わかっておろうな」
立っていても座っててもいいってことかな? やさしー、と思ってるとなんか、あれ、もしかして知ってないと駄目な感じ?
小間使いの為に売られたんだと思うけど、ちゃんと聞いてないし。と言うか答えていいのかな?
「お前、立っているお前だ。答えてみよ。自由に発言することを許す」
「あ、はい! えっと、えへへ。すみません。さっきの人買いさんから聞いてなくて。小間使いとして買われたのかなって思ってるのですが、違いますかね」
「ふっ。そうか、無知で鈍い娘だ」
あらっ、なんか罵倒されてしまった。綺麗なお姉さんなので嫌味じゃないし、えへへって照れ笑いしたくなる感じだけど、見た目通りちょっときつそうな感じ。怒らせたら鞭とかつかってきそう。優しそうだけど失敗したりしないように気を付けよう。
「ならば名乗ってやろう。私はライラ・ガートルード・ヘイワード。この地を統べる吸血鬼である。お前たちは私の食料となるべく売られた。なにか質問はあるか?」
名前長ーって、え、領主様ってこと!? と言うか吸血鬼!? 魔物みたいな見たことない色んな生き物がいるってのはわかってたけど、そう言う人間以外の種族もいる世界観だったのか! 知らなかった。と言うかこのお姉さんが吸血鬼で血をすわれるとか、ちょっとえっちじゃない? どきどき、とか考えてる場合じゃない! えっと質問!? 情報量が多すぎて何から聞けば、えーっと。
「血を吸われるのって痛いですか?」
あ、やば。痛いって言われたら嫌みたいになるじゃん。それに吸われるって決めうちしたのもどうなんだろ。食料となるべくってことは、食料なるために血を綺麗にしたりとかあるんだよね。そんな簡単に食料にならないよね。やだ、自意識過剰。
焦る私に、でもこんな私みたいな小娘は珍しくないのだろう。女王様はにんまり笑った。あー、そんな表情も美しい!
「どうだろうな、痛いかもな。だったらどうする?」
「え、えーっと。麻酔とかは」
「麻薬で痛みを紛らわせるか、だが血の味が変わるからな」
「あ、そうなんですね、すみません。じゃあ、うーんと、我慢します。美味しい血になれるよう、頑張ります!」
痛いのか、ちょっとやだな。と思ってしまったけど、駄目だ。このままじゃじゃあ役立たずいーらない、となってしまう。と気付いたのでやる気ありますアピールした。
今は季節は秋。収穫が終わり、それぞれ冬支度が始まる時期だ。売られたと言うことは私なしで冬を越す予定をたてているのだから、今から戻ったって生きて冬を越せないだろう。
私はここで頑張るしかないのだ! と言うかね、普通に絶対ここの方が村より環境いいもんね! 普通に考えてこんな立派なところで働くだけで教養とか技能とか必要になるのだ。それが献血義務だけで働けるならこんなにいいことはない。
美味しい血になるためには毎日空腹ってことはないもんね。毎日ご飯食べられて、服だってメイドさん見る限り今より綺麗な服を着せてもらえるだろうし、絶対こっちのほうがいいじゃん! 私、永久就職希望です!
やる気を見せた私に、女王様は一瞬きょとんとしてから、くつくつと笑った。あ、笑顔はキュート。可愛い。
「くっくっく。いいだろう。期待しておく。お前、名前は?」
「あっ、エストです。すぐに名乗らなくてごめんなさい。今後ともよろしくお願いします」
末っ子って意味らしい。シンプルな名づけだけど、私は結構いい名前だと思うし気に入ってる。シンプルで呼びやすい名前だ。
「うむ。部屋を用意している。あとはマドル、そこのメイドに聞くがいい。連れていけ」
「かしこまりました」
こうして私とご主人様の顔合わせは終了した。メイドさんに言われるまま部屋を出る前にちらっと振り向くと、女王様と目が合う。思わず笑顔になってしまう私に、膝の上の指先を軽く動かして応えてくれた。うわ! ファンサされた!
「あいた」
思わず手を振ってしまったのだけど、前を見てなかったのでドアにぶつかってしまった。頭を抑えながら女王様を見ると笑われている。えへへ、と笑って誤魔化しながらみんなに続いて部屋を出た。
いやー、吸血鬼って聞いた時はびっくりしたけど、なんかすごい、良い人そうだったよね! 子供に優しいのはガチ。よく考えたら吸血鬼ってこう、冷酷なパターンとかもあるけど、少なくとも女王様はいい吸血鬼だよね。
売られた時はショックだったけど、なんか、めっちゃいいとこに売られたのかも!
と私は思っているのだけど、他のみんな全然しゃべらないなぁ。他のところは家族が大好きで、まだ売られたショックから立ち直れてないのかな。だとしたら気持ち切り替えてる前向きな私ってうっとうしいよね。ちょっと疎外感感じるけど、まあみんなもその内気持ち切り替えるだろうし、それまでそっとしておこう。
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