ひめぎみ共!!
前方
第1話 ジンクス
この歳になると一年というのは昔に比べてあっという間になってしまい、思い返してみると薄っぺらいものだったと感じる。一年を無駄に過ごしてしまった感はぬぐえないのだが、だからといって来年はもっと密度の濃い青春を謳歌しようとも思えない。
一度過ぎ去った青春は帰ってこないというのは重々承知なんだが、毎日の登下校や授業にテスト。そんなものをこなし続けることに精一杯になっていると、青春を味わう余裕なんてものはなくなり、たまの休日もいかに次の学校の日までに平日だらけられなかった分を取り返すかなんていうことに躍起になってしまう。
そんなこんなで高校一年は終わりを迎え、今日から二年生。二年生になると履修する科目が増え、内容もさらに難しくなると聞く。一年生時以上の過酷な学校生活を強いられることを思い気分が憂鬱になる中、新天地にわくわくする感情も芽生えているのも事実。
真鍋新太は高揚した気持ちで通学路を駆け抜ける。
__________________________
家を出て十五分、新太は校門に到着していた。普通なら二十五分かかるところ、二年生の初日ということもあり、テンションの上がった新太は駆け足で来たため十分もの時間短縮に成功した。
しかし、昇降口付近は既に到着した生徒達でごった返しており、とてもじゃないが昇降口を入ってすぐの廊下の壁に貼りだされているクラス表を確認できる状況ではなかった。
いつもならこの時間はガラガラなはずなのだが、それもそのはず、二年生初日。待望のクラス変え発表である。これから一年を過ごすクラスメイトや担任の教師が決まるのだ。普段より早めに登校し、確認したくなる気持ちもわかる。
かくいう新太も、昨日はクラス発表にそわそわしてか、休み中に自堕落な生活を送った結果昼夜が逆転したためか、なかなか寝付けずにいたのだ。
(これは人が引くまで確認できなさそうだな...。)
楽しみにしていただけに、すぐに見れないことを悟り肩を落としていると、不意に後ろから元気な声が掛かる。
「よう!真鍋!!どうしたんだよ肩なんて落として!!落とすのは可愛い女の子だけにしとけよ!」
「...田中か?」
「おう!真鍋新太の大親友、田中壮太ですことよ!!」
この暑苦しいのは田中壮太だ。一年生の時、新太と同じ一年二組の生徒であり、学校内で新太が一番つるんでいるであろう人物だ。日々こんな感じのテンションで鬱陶しく、とても女好きなのだが根は他人想いな奴だ。
だが、そこを差し引いてもやはり暑苦しい。
「新学期早々相変わらずだなお前は。少しは寝不足の俺をいたわって静かにしてくれはしないのか?キンキンくるんだよお前の声が...。」
「これが落ちついてられるかよ真鍋君!!今日は運命の日だぜ。このクラス変えでどれだけ可愛い女の子と同じクラスになって付き合えるかにかかってるんだよ俺の青春は!!」
「可愛い女の子と同じクラスになれたとして、付き合えるとは限らんだろ。」
「冷めてるなぁお前は。本当は女の子大好きなくせに。このむっつりさん」
「正直に女の子が好きだって言うからそのむっつりさんはやめろ。ただ、可愛い女の子と俺達日陰者には縁がないって言ってんだよ。残念だったな。ドスケベさん。」
「日陰者の括りに入れた上にドスケベさん!?...まぁいいやそれよりこんなとこにいねぇで、さっさとクラス見に行っちまおうぜ?俺は今日そのために来たんだからよ。」
「それがな...」
そういうと新太は前方の昇降口の方へと指を刺す。
壮太は新太の指の向く方向を辿ると、尋常じゃない人混みを目にし、新太が校門に突っ立っていた理由を理解する。
「先を越されちまったか...。いつもより早く来たつもりだったんだがなぁ。あと十分早く来てたら変わってたか?」
そう言うと新太の方に向き直り、同じく肩を落とす。
「落とすのは可愛い女の子だけじゃなかったのか?」
「...あんまりだぜ...、」
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新しいクラスにテンションが上がった人混み達をどうにかする術もなく、人混みが落ち着くまで待つことを決めた新太と壮太は、校舎裏に来ていた。
「やっぱり姫井吉乃ちゃんと媛島桜子ちゃんは外せねぇよなぁ!!我が校の美人二巨頭だぜ?あんな美人が同じ年に生まれて同じ学校に来ちまうなんてよぉ!!ぜひ同じクラスになって戯れを拝みたい...。」
「気持ち悪いなお前...、まぁ、でもその気持ちは分からんでもないかもなぁ。群を抜いて綺麗だもんな、あの二人は。」
「おっ?流石むっつりさん...、進んで主張さえしないが共感してくれるとは...。」
「なんだよそれ...。それもそうだろ、コミュニティが狭いことに定評のある俺が、面識ないのに顔と名前が一致してるくらいだ。同じクラスになれば彼女らの発言が、クラスの方針を左右しそうだしな。」
クラス発表の結果をじらされているためか、クラスに対する願望や希望を語らう会話が弾むのを感じる。
確かに可愛い子と一緒のクラスになれれば、日々眼福に満たされることは間違いない。新太自身も可愛い子の一人や二人との出会いを期待していないこともない。
しかし、そんな男の欲望を無くしてしまうほど、一つの不安が新太の中には引っかかっていた。
(可愛い子と同じクラスになるのも大事だけど、コイツと同じクラスになれるかどうか...だよな」
何を隠そう、真鍋新太には友達と呼べる存在が田中壮太を除いて存在しないのであった。
可愛い子と同じクラスになれても壮太と同じクラスになれなければボッチがほぼ確定する。新しく友達を作るということも不可能ではないかもしれないが、入学から一年が経過しており、仲のいいグループがある程度固定されている。
コミュニティが広い奴なら他クラスとの辛味だって当然あるだろう。一年時とは違い、ほぼ全員が初めましてというわけではないのだ。
ある程度固まったグループに今までかかわりのなかった新参の自分が割って入るなんて不可能。
(不安だ...ん?)
不安に悩んでいた新太は一つのことに気が付く。
さっきまでずっとしゃべりつづけていた田中がだんまりしている。急にしゃべらなくなった田中に不信感を覚えてそちらに顔を向けると、そこには苦渋をなめるような歪んだ顔をする田中の顔があった。
「...なんだ、その顔は...?」
「可愛い子と同じクラスになるのも大事だけど、コイツと同じクラスになれるかどうか...だよなって...お前そっちの気があったのか...!?」
漏れていたらしい。心の声が。
「ねぇよ馬鹿!!お前知ってんだろ!?俺にはお前以外に話せるような友達が存在しないのが!」
「お前のその恋心...、無下にするようで申し訳ねぇんだが俺達はあくまで友達で...」
「聞いちゃいねぇ!?気色の悪いこと言うんじゃねぇ!!俺は正真正銘ノンケだよこの野郎!!」
「...はぁ、......むっつりさんめ...。」
「殺したい!!」
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校舎裏で適当に時間を潰し、再び昇降口に訪れると、ある程度込み具合は緩和されていた。
「これならクラス表を確認できるぞ!お願いします神様仏様!!かわい子ちゃんかわい子ちゃん!!!」
「お前はそればっかだな...、」
軽口を交わしながら昇降口に入り靴を脱ぎ、上履きに履き替える。冷静にふるまってはいるが、新太も内心はバックバクだ。この結果よっては一年間の過ごし方がまるっと変わるからだ。
そしてクラス表の前に出て、一組から順に目を通していく。
苗字がマ行なため、表の下の方を確認していくがなかなか自分の名前は見つからない。
自分の名前探しに苦戦を強いられていると隣から声が聞こえる。
「うぉ!?見つけたぜ俺の名前!!三組だ!!」
悲報だった。三組は既に確認済み。現在新太は四組の表に目を通してた。
「真鍋は何組だ?」
「...四組だった。」
「惜しい!!ニアミスだったなぁ!!」
「クラス変えに惜しいも何もないだろ...終わった...。」
「まぁまぁ、話せる奴なんて時期にできるよお前なら。な?気落とすなって。始業式は午前中に終わるだろうから、終わったら残念会だ!」
友達0人が確定し、露骨にテンションを落とす新太を見かねた壮太はフォローする。そう、壮太は暑苦しいが悪い奴ではないのだ。
「...ありがとな。でもいいよ、クラス変え初日は大事だろ?同じクラスの奴らと親睦を深めてくれ。」
「でもよ...」
いつも図々しい壮太には珍しいしおらしさ見せてくる。自分の不甲斐なさのせいで気遣わせてしまったことに、新太はミリ単位の前向きな気構えを見せる。
「俺は俺で頑張ってみるさ。青春なんて眩しいもんになりはしなくても、それなりの学校生活にはしてみせる。」
「...その意気だぜ真鍋!!応援してるぜ!!そんで彼女でも作ってその友達を紹介してくれ!!」
前言撤回だ。コイツは自分のことしか考えていなかった。
(でもまぁ、コイツなりのフォローなのか?)
「...ほんとにいい性格してるよ、お前は...。」
「はっはっはっ!まぁまぁそう言うなよ!俺に可愛い彼女が出来た暁には、お前にもその友達を紹介してやるからよ!可愛い子の友達は可愛いぞ?引かれあうんだよ。能力者みてーにさ!」
と、冗談交じりに話していると、チャイムの音が校内に響き渡る。時計の見れる環境にいなかったからか、いつの間に時間が経っていたのだろう。
「予冷だな。座席も確認しなくちゃだし急ごうぜ。」
「おう!本当なら可愛い子の名前も確認しときたかったんだが、しょうがねぇ、現地確認で手を打つか!!」
「...ほんとにそればっかだな...。」
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クラス発表にひっそりと抱いていた願望は虚しく砕け散り、トボトボと教室に向かった。
しかし、新太を襲い掛かる不幸は留まることを知らなかった。
教室に入ると、戦慄が走った。さっさとクラスを確認し教室に入らずにモタモタしていたせいか、既に何個ものグループのようなものが出来上がってしまっていたのだ。
共通の知人を通したり、座席が近い数人で固まったりと色々だが、どれも今更割って入れるような感じではなかった。
高校二年生、真鍋新太のボッチ生活が確定した瞬間だった。
黒板に貼られた座席表を確認し、自分の座席に向かう。教室の奥から二番目の列の一番後ろの席。後ろの席というのは比較的教師達の目が行き届きにくいためラッキーなはずなのだが、突きつけられた現実達を受け入れるのに精一杯だったため、幸福感のようなものは湧いてこなかった。
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「よぉ!真鍋!!どうだ新しいクラスは?友達ができたかどうかは見りゃぁ分かるが空気感ぐらいはつかめたんじゃないか?」
虚ろになりながら席に座っていると、またしても背後から唐突に声がかかる。もしや友達申請か何かかと一瞬期待をしたが、後から冷静な考えが淡い思考に追いつくのを感じた。
こんなに不愛想に座席に座っているような奴にすすんで話しかけようなんて普通は思わない。それにこの耳に来る感じの声は間違いなかった。
「...やっぱりお前か、田中。空気感?ってお前なんでうちのクラスに?」
「?そりゃぁ休み時間にもなったことだし、報告がてらお前の様子を見に来たんだよ。でもまぁ、その感じからだいたい心中お察ししますがねぇ。」
「うるせぇ、心中察してくれるならもっと気遣えよ。って、休み時間...?ってもうこんな時間か...、」
壮太の登場により、新太は意識をハッキリさせる。
非情な現実に打ちひしがれた新太は、座席に着いてからというものの、ずっとぼんやりしていたのだった。
新担任による自己紹介や今日行う始業式の詳細説明は聞き流し、始業式の際は教室から出ていくクラスメイトの流れに適当に身を任せ、始業式中は上の空だったのだ。
なんとか取り繕うとするが、いつの間にかに過ぎ去っていた時間に新太の驚きは隠せずにいた。
「...おいおい、マジで大丈夫なのかお前?」
「あ、あぁ、なんとかな、それよりもお前、報告がてらって言ってたよな?何を報告しに来たんだ?」
動揺した新太はとりあえず考えるのをやめ、話題と意識をそらす。
すると壮太は、水を得た魚のようにテンションを上げて話し出す。
「それがなぁ聞いてくれよ真鍋!!さっきの校舎裏で同じクラスになりたい女の子として何人か名前を出したのは覚えてるか!?」
「...あぁ、確か姫井吉乃さんと姫島桜子さん?とかだったよな。」
うろ覚えながらに名前を絞り出す。他にも何人かいたが今思い出せるのはそれくらいだった。しかしそれが何だというのだろうか。
「そう!!姫島桜子さん!!!この豊浜高校NO.2に君臨する超絶美人!!!なっちまったんだよ同じクラスにさぁ!!もう眼福も眼福でさぁ!!!ずっと見てるよね!!」
「...幸せな奴だなお前は、こっちは友達すらでき悩んでるってのに...、」
「友達なら何人か話せる奴がいたからさぁ、そいつらとつるんでくことになると思うぜ?」
(コイツはこう見えて意外と抜かりがないんだよな。俺と同じ日陰者なのに俺なんかより全然顔が広い。まぁこんな感じだから誰にでも馴れ馴れしいんだろうな。っクソ!!普段は俺みたいな日陰者とつるんでる同胞の癖しやがって!!」
「...、」
急に声が聞こえなくなり顔を上げてみると、そこには今まで見たことの無いくらい微妙な顔をした壮太がいた。
「...その自虐は悲しすぎるぜ真鍋...、」
漏れていたらしい。心の声が。
「そんなことよりそんなにジロジロ見て、セクハラとかで晒されないようにな。」
「別に撫で触ったりしてるわけじゃねぇんだしなぁ。」
「撫で触る!?なんだその気持ち悪すぎる日本語は...、」
確実に犯罪行為として抵触する行為としてまず出てくるのが撫で触るというのはいくらなんでも気持ち悪すぎる。
この学校で唯一まともに会話のできる友達である壮太がこんなにも気持ち悪いことに新太は危機感を覚える。
割とマジで引いている新太を見た壮太は弁解するためか、それともさらに気持ちの悪いことを伝えるためにかは分からないが口を開きしゃべり始めようとするが、その声は別の声にさえぎられた。
「あの!!!」
教団から放たれた壮太の声を遮った声は教室中に響き渡っていた。
結成初日のクラスということもあり、バラバラだった二年四組であったが、全員の視線が一致する。
視線の先には、視線を集中させるにいたった要因である声を放った男子生徒が、教室の出入り口の方を面映ゆい様子で見つめていた。
出入口付近に何かあるのだと新太はさらに男子生徒の視線の先を辿り、息を呑んだ。
そこには、一人の女子生徒が立っていた。
それも、ただの女子生徒ではない。
端正な顔立ちに括られた象徴的なブロンドの長髪。
校則に触れるギリギリまで崩された制服。
しかし、凛然な雰囲気を醸し出す。
この空間にいる人間の誰しもが、基本的に取り沙汰には疎い新太でさえ分かってしまう程の有名人。
―――――姫井吉乃。
この豊浜高校における、マドンナと言っても差支えのない存在。
そしてその事実は、俯瞰して傍観する新太達にとっては、一人の男子に大々的に送られた死刑宣告であった。
こういう場合、色恋話が好きな女子などが奇声を上げたりするものなのだが、そういった浮ついた雰囲気が一切ない。
彼女に向けて叫んだであろう男子生徒は本題を言っていない。が、何を言わんとしているかは彼の強張る表情と穏やかでない様子を見るに察しはついてしまう。
「...おい、田中...、」
目の前で起こったことの詳細とこれから先の展開が見えた新太は、先程まで談笑していた壮太に視線を送る。
それに気づいた壮太も重苦しく反応し、二人にしか聞こえない程の声量で答え合わせをした。
「...あぁ、公開告白、...そして公開処刑だな...。まぁこの時期はな、」
「...時期?時期ってなんだよ、そんな何かの生態みたいに...、」
目配せで済ませていたが、違和感のある一言に思わず新太は壮太の方に体を向けた。
「いや、その言い方で間違っちゃいない。この時期なんだよ。」
新太はその『時期』という言葉について問いただそうとするも、それは叶わなかった。
新太と壮太が少しの間を話せるほどの時間を流れていた沈黙が破られたのだ。
「俺、一年の頃から、ずっと姫井のことが好きだったんだ!!!」
「......だから何?アンタがアンタの頭の中で何をどう思うのかは勝手だけどね、普通に不愉快だからそういうのやめて欲しいんだけど。」
「......ぇ...?」
再び教室を走るのは沈黙だった。
正直な話、ここまでの展開は容易に想像できた。だが、それにしても突き放し方が人間のそれではなかった。
しかし、悪魔はまだ攻撃の手を緩めない。
「去年はクラスが一緒で席も近かったから話してたけどさ、わざわざ私のクラスに出向かれてまで話すことなんてないから。言いたいことが済んだのなら帰ったら?」
そう言い終えると、悪魔は堂々告白した男子生徒を通り過ぎ、教室内に入る。
あまりの出来事に、新太を含め全員が呆然とする中、新太の隣にいた壮太は、今目の前で起こった出来事に目を見張りながらも先程の新太の意図をくみ取り話し出す。
「お前はさっき、時期って言葉に違和感を覚えてたよな。あるんだよ。姫井吉乃ちゃんが告白される時期ってやつが。姫井吉乃ちゃんにはとある噂...、というよりも『ジンクス』があるんだ。」
「...噂?」
間髪入れずに新太は聞き直す。
姫井吉乃は男子生徒をフるや否や、この教室に入室した。先程までずっと虚ろだった新太は今まで気か付かなかったが、彼女はおそらくこの二年四組の一員なのだろう。
そんな彼女に『ジンクス』なんてものがあるなら、クラスメイトとして一年間ともに勉学を共にしなくてはならない新太にとっては無視できない。
「今聞いただろ?姫井吉乃ちゃんに今告白した奴、一年の頃姫井吉乃ちゃんの隣の席だったんだ。そしてそれはアイツが初めてじゃないんだ。」
「どういうことなんだ?」
「今まであの姫井吉乃ちゃんの隣の席になった男は、俺が聞いた範囲じゃ中学1年から、例外なく全員が姫井吉乃ちゃんに惚れちまって、席替えが行われる頃には全員が告白して玉砕するんだよ。」
聞いていて全く意味が分からなかった。
(...隣の席になったら必ず惚れる?なんだそりゃ、そんな馬鹿なことがあるのか?そして全員が玉砕...?)
「あの感じを見るに、どうやらお前と同じクラスみたいだな。俺も驚いてるんだ。聞いてはいたが、目の当たりにしたのは初めてだからな。実際そのジンクスに鉢合わせちまうとなんつーか、ちょっと怖いな...。つーかお前、大丈夫なんだろうな?」
「...?何が?」
唐突に投げかけられた問いの意味を理解できなかった新太は聞き返すと、壮太は深刻そうに再び聞く。
何かを危惧しているような様子だ。
「座席だよ...、出席番号を元に設定される。お前、姫井ちゃんと近いだろ?出席番号。隣にならなくても、近くになったら危ねぇんじゃねぇのか?」
壮太に指摘された瞬間、全身に悪寒が走った。壮太が姫井吉乃にビビり、しれっとちゃん呼びからさん呼びに変えたからではない。
新太は、壮太が登場するまでずっと虚ろな状態だったため、自分の席の周辺のクラスメイトの顔を把握できていないためだ。
そうやって、新太は決して他人事で済ませられなくなっている『ジンクス』に頭を悩ませていると、
一つの陰がこちらに向かってくるのが視界の片隅に映った。
ツーっと冷や汗が流れるのを肌で感じる。
やがてその陰は、到達する。
そして、金属が軋む音が、新太の右耳の鼓膜を通ったのだった。
恐る恐る音の方に目を移した新太の目には、
――――――――頬杖をつきながら気だるげに本を読む姫井吉乃その人が映っていた。
目を疑う新太の視線に気づいた吉乃は「よろしく。」と一言だけ告げ、視線を戻した。
「......よかったじゃねぇか、話せる人ができてよ...。」
壮太の重すぎる軽口に対し、新太からは渇いた笑いすらも出てこなかった。
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