第11話 母と娘の関係は?

「お母さん、ただいま」

「ぇ、あ、おかえりなさい、真矢ちゃん……」


 真弓さんの不意をつくように言葉をかけて、真矢ちゃんは僕から離れる。


「今のは練習だよ、練習。

 ハグ、よくやるじゃん、テレビで。

 それの練習」


 そして真矢さんの考えがまとまる前に答え《嘘》を与えてしまう。

 そうすれば、


「あ、そうだったのね。

 お母さん、何が何だ判らなくて、混乱しちゃったのごめんなさい」


 っと、考えを放棄し、真矢さんは受け入れる。

 人間と言うのは思考する際、楽な方に流れるというのを使った、上手い手である。


「お母さんこそ、なんでこんな時間に」

「ぇ、あ、その……」


 モジモジと恥ずかしそうに両人差し指をぐるぐると回しながら、


「……真矢ちゃんを待つっていっていた和樹さんが起きてたらお話ししようかなぁって」

「ふーん、私のことはいいけど、和樹さんとは話したいんだ」

「だって真矢ちゃんは自立してるから、安心だもの。

 和樹さんとはそのえっと……」


 顔を赤らめて伏せる真弓さんが可愛い。

 まるで少女のようだと感じてしまう。


「エッチな事、したかったんじゃないの?」


 逆にストレートにそんなことをいう真矢ちゃんは八重歯をだして、真弓さんに威嚇するように言う。

 大人びた凛々しさが漂い、自分というモノを確固たる姿はカッコいい。女の子にカッコいいってなんだよ、っと僕は自分で突っ込みを入れつつ、


「ちょっと、真矢ちゃん……さすがにそれは無いでしょう。

 僕等は結婚を前提にお付き合いをしてるけど、まだ見合い日も入れて数日だ。だから……」

「和樹さんはちょっと黙ってて」


 ピシリと黙らせられる。

 異や意見を言わせない、確固たる貫禄が出てくる。


「どうなの、お母さん。

 朝、和樹さんの布団に潜り込んだ件といい!

 ねぇったら、ねえ!」


 そして畳みかける様に真矢ちゃんが言うと、


「……はい」


 涙目ながら、真弓さんが認めてしまう。

 そんな姿の真弓さんも可愛いと感じつつ、僕なんかを男として求めてくれるんだと、素直に嬉しくなり、ちょっと下半身を緊張させてしまう。

 僕の視線が、真弓さんの豊満な胸に行く当たり、やはり僕も男だということで三十六歳で枯れていない事実に嬉しく思う。


「和樹さん?」

「いえ、何も考えてません」


 真矢ちゃんが笑みを浮かべながら、怒りを目に灯しながら僕に釘を刺しに来る。

 下半身もステイゴールドしてくれる。


「言ったよね、お母さん。

 いつもいつも、毎回毎回、男を作るたびにエッチな事ばっかり考えて……!

 そんなんだから私はいつも出ていくしかないって。

 私はちゃんとした人なら交際を認めると言って、和樹さんはちゃんとしている人だから認めた。

 なのにお母さんがそれを壊してどーするのよ!

 せめて、少しは同棲生活をやりこんでからにしてよ!

 色情魔じゃるまいし!」


 っと、正論を述べる真矢ちゃんに、シュンっとなった真弓さんが可愛く、


「ごめんなさい」


 っと、ポツリと敗北宣言をする。


「判ればよろしい。

 それにお母さん、明日も早いんでしょ?

 早く寝たら?

 和樹さんも、明日は仕事でしょ?」


 っと、気を掛ける様に僕ら二人に声を掛けてくれる。


「確かに、僕もそろそろ寝るとします」

「そうね、私も寝ます。

 ……あと、真矢ちゃん」


 真弓さんがポツリと小さい声で次の言葉を追加した。


「おかえりなさい、それとお疲れ様」

「……!」


 そんな一言だけであったが、真矢ちゃんは眼を見開いた。

 そして頭が整理出来た所で、もう一度、真弓さんをみようとしたさいには、母親の姿は廊下に消えていた。


「……なによ、今更」


 っと、一人、気持ちをどこにぶつける訳でも無く、言葉を捨てた。

 だから、僕はそれを拾い上げる様にして、言葉にする。


「真弓さんも母親だってことだと思うよ。

 心配しないわけ無いんだよ。

 今まではそれを言えなかっただけで」

「……ふん、和樹さんが言うならそう捉えてあげる」


 そう自分の言葉を拾いなおしてくれた真矢ちゃんはどこか嬉しそうだった。

 そんな彼女を微笑ましく思いながら、僕も自分の部屋へと戻るのであった。

 

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