見合いをしたら、連れ子にキスされたのだが? ~十六歳アイドル処女に狙われる普通のおじさんの運命は如何に。なお、裏切ってきた会社はざまぁされる~
雪鰻
話が始まる大前提三話
第1話 高校生アイドルにキスをされたんだが?
それは温もりだった。
そしてパイナップルのような匂いが残った。
意表をつかれた僕は固まったまま、それが離れた唇を指でなぞることしか出来ずにいる。
そして、その行為をした少女は『にしし』と笑い、満足そうに、けれども少し気恥しそうに頬を染め、自分の唇に人差し指を当てながら、
「……どうだった?」
そして僕の胸元ににじり寄りように上目づかいで、聞いてきた。
そんな妖艶な行動を取る少女の名前は木原・真矢ちゃん。
僕が一七五センチ、真矢ちゃんは一六三センチと約十センチの差があり、当然の状態な訳だが、どうしてこうなったのだろう。
上目遣いになったのには身長差も確かにある。
だが、それでもその彼女の行動――挑発は男を奮起させる色気があった。
ライトをきらびやかに反発する金髪のツインテール、長い目尻、可愛く整った顔をした高校生らしい幼さの残った笑顔が色気というか、女というモノを感じさせてくる。
ただ彼女にそう言われるフラグは何処で立てたか知らない僕は、
「ぇっとだな……」
再起動していない頭が現実を認識していない。
何が起きたのだろうかと驚くのみで、されたことの事実を受け入れられていない。
そんな僕に彼女は業を煮やしたかのように、ネクタイを捉えて顔を引き寄せ、耳元で、
「私のファーストキスだよ、おじさ……いや、和樹さん。
トップアイドルのキスはどうだったかって聞いてるんだよ?」
パイナップルのような匂いをさせながら近づいてきて、事実を羅列してきた。
そう、キスだ。キスをされたのだ。
小さい身長を伸ばしてきて僕の唇を捉えた、ほんんお軽い啄ばむだけのモノだった。
しかし、僕にとってその事実は重くのしかかり、頭を止めるには十分だった。
「――いや、何で僕にという感想しか浮かばなくてだな」
振り絞った言葉は回答にもなっていなかった筈だ。
しかし、視線を向けた先――整った彼女の顔は、ニシシと、満足そうな笑みを浮かべる。
「ふふふ、それはそれでいいか。
和樹さん!」
「はい!」
突然名前を呼ばれ、情けない社畜癖で返事をしてしまう。
「お母さんより私と結婚して」
彼女は天使のように微笑みながら、悪魔のような囁きを僕にぶつけてきた。
そして抱き着いてくる。
豊満なボディの柔らかさが僕に伝わってくる。
特に胸なんて言ったら……!
「お母さんよりって……知ってるよね、僕が真弓さんと三回目に会った時に当然、結婚を前提にした付き合いをしたいと申し込んだことは」
「知ってるわよ、そりゃぁ、その場にいたモノ」
その言葉に僕はうろめき慌てながら、後ろにひっくり返ってしまう。
当然とばかしに言い放つこの子の気迫に負けたともいう。
「ぷぷぷ、そんなに慌てて大丈夫?」
笑みを浮かべながらも、彼女は僕に手を差し伸べてくれる。
その手を借りながら、僕は身体を起こすと、余裕が出来たのか少し頭の中がスッキリしてくる。
だから、聞く。
「何故、僕なんだい?」
「だって和樹さんが私の運命を変えてくれた人なんだもん!
運命の人だからだよ!」
わけがわからないよ。
そう顔に浮かべると、彼女はニコリと笑って意地悪そうに言い始める。
「十年前、会ってるよね。
あのお母さんとお見合いをした旅館で」
「あぁ、確かに君の母親とは会っていて……君は迷子で……」
「そして迷子の私をお母さんと引き合わせた」
「確かにそうだが……」
ブンブンと彼女は腕で大きくバツマーク。
何か言いたそうにし、我慢できないと次の言葉を紡ぎ始める。
「小さい女の子とあった話しも聞いたよね?」
「ああ、確かに君に聞かれた」
「その女の子との話はどんな話でした?」
「……親に頼りたくないって、ふて腐れてたのを相談聞いて……」
「それでどんなアドバイスをしてくれたっけ?」
「……視野は広い方がいいよ、そしたら世界は開ける。例えば、アイドルになって見返し……あ」
「ようやく、思い出したんだね?
ふふ、私はお見合い社員の状態で最初から気づいてたのに二人とも気づかないんだもん。
私がアイドルになったのはぜーんぶおじさんのおかげなんだよ!」
よくみればその面影が、真弓ちゃんにある。六歳から十六歳、十年も経っていれば、
「大人になったもんだ……」
「胸も大きくなったんだから」
と言いながら、女性であることを押し付けるように腕に抱きついてくる。
ふんわりとした胸の柔らかさと柑橘系の匂いが僕の意識を惑わせる。
「あなたのおかげで、私はお母さんに頼らない生活ができるようになった!
だから、私はあなたに恩返しがしたい!
初恋だってあなただもん!
お母さんは駄目な女よ!
すぐ、お金にうとくなる!
子供のことも忘れる!
私は違う、子供だって出来たらちゃんと愛する!
収入だってお母さんには負けない!」
そして、僕から離れ、くりると回りながらこう言った。
「私と結婚して子供を作って幸せになろう?」
笑顔。
そして周りのカップルがしているように僕の胸へ再び飛び込んでくる。
「ちょ、ちょっとまて」
「はい、1、2、3。
待ってあげた」
僕はそれに対して回答する術はなかった。
だから、
「いきなり言われて、戸惑うばかりだ。
それに今、真弓さんとはイイ感じで進んでいる。
僕だって前向きだ」
事実の羅列しか出来ない。
真弓さんはいい人だ。間違いなくそうと言える。
しかし、僕がそう言うことを知っていて尚、真矢ちゃんは続ける。
「でも、それって見合いであって気持ちはお互いにまだ無いよね?」
「――っ」
言い返せない。
まだ、結婚したいと、そう考える程の愛情はお互いに無い。
見合って、仲良くなって、進めていければいいなぁ程度だ。
とはいえ、ならばこう返せばいい。
「僕も君に対して気持ちが無い。
今日言われて初めてだからね」
気持ちを問われたことをそのまま返してやるのだ。
そうすれば、僕の意思は尊重される筈だ。
「――いい反論ね」
彼女は確かにと頷いた。
僕は一瞬、軟着陸出来たかと油断した。
そうこれは油断だった。
真矢ちゃんが次の言葉を述べるとは予想だにしていなかったのだから、間違いない。
「なら、お母さんと私、比べてよ。
結婚する前提でお母さんと私とお互いにお付き合いして」
僕には考えた末それに、
「……確かに一理ある」
としか言えなかった。
そしてこれがこの物語の主題となる。
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