第31話

「…同じ化け物同士、あんたとは理解し合えそうな気がするよ、クリストス。また、会いましょう」


その瞬間、レアが地を蹴る音がした。

殴りかかる。

レアの鉄拳が振り抜かれる直前、イスラは軽く微笑んだ。


「無駄よ」


その一言で、レアは跳躍前の場所と体勢に戻された。

レアが転移させられた?

テレポート……?

何だその魔法は。


「うっ!?」


体勢を無理やり変えられた反動で、レアが転ぶ。


「私が止める」


スロウ。

一定範囲内の物の時間の流れを遅くする魔法。

それを展開したはずなのに、彼女は楽しそうに、微笑んだ。


「じゃあね」


かちり、と彼女の魔法陣が後光のように映し出される。

教会のステンドグラスのような、万華鏡のような、懐中時計のような、鮮やかな紋様だった。


イスラの黒装束がひらめいたかと思うと、彼女は光の輪を残してふわりと消えた。


逃げられた。

私ともあろう者がいながら。


あんな魔法、かしこい私でさえ聞いたことも見たこともなかった。


私は守りきれなかった人たちを見下ろして、己の不甲斐なさを悔いた。


「誰だ」


私は彼女の去った場所へそう問いかける。


「この世界を混沌に貶めようとしているのは、誰だ」

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かしこさの種を育て幾星霜、我、至れり ナ月 @natsuki_0828

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