第27話
「…手前ェは」
「俺はこの地にいる魔人の長だ」
彼は静かに、しかし圧倒的な存在感を放ち、そこに姿を現した。
彼がハニカムを手にすれば、一体どれほどの膨らみを見せるだろうか。
その体から溢れ出る魔力だけで、こんな集落など消し飛ばしてしまえそうだった。
「…やはりあんたがリーダーか。で?魔族の長は、ついにこんなケチな夜襲までかけるようになったか」
「…………」
魔人の長は否定せずに、頭を下げた。
「頼む。その子の命だけは助けてくれ」
魔人の長。それすなわち魔王の中の魔王である。生まれた時代が違えば、世界を統べていたであろう存在だ。
そんな男が、たったひとりの人間の少女へ、頭を下げている。
「う……?」
魔人の少年が目を覚まし、その光景を見る。
「その子の命と引き換えに、この首を差し出そう。だからどうか、その子の命だけは見逃してくれ」
「な、何言ってるんだよ、親父!!」
少年はレアの腕から離れようともがくが、ビクともしていない。
「頼む」
「止めろ、止めてくれ、親父!!」
彼らのやり取りに、レアは歯軋りする。
こんなのまるで、人間同士の取引みたいじゃないか、と。
「ただひとつ弁明をさせてくれ。その子は功を焦り、こうして奇襲に走ってしまっただけだ。その子の性質ではないし、我らの総意でもない」
「…だろうな」
私はかしこいから、この状況を理解していた。
今までの戦闘からもわかることだっただろう。
場の均衡を崩せるのは、良い意味でも悪い意味でも、新しい要因だ。
「地面に両手をつけて首を差し出せ」
「……わかった」
少女の指示に素直に従い、魔人の長は平伏した。
「止めてくれよ、親父!」
少年は自分の愚かさを嘆いて、涙を流した。
「望み通りにしてやる」
少女が腕を振りかぶる。
それはいけない。悲しさしか生まない暴力だ。私はそのノットビューティを許さない。
だから、止めます。
止めるんだけど…
「その愛、実にビューティ…」
誰もが他が為に命を掛け合い、それを理解しているからこそ迷いが生まれる。
ビューティだ。ビューティすぎるんよ。
マジ尊いンゴ……
美しさのあまり顔面が大洪水で前が見えない。
ああ、でも止めないと。
でもでも、少女の腕を掴むのは難しい。
私は朧げな視界のまま、目にも止まらぬすばやさで、ふたりの間に割り込んだ。
「暴力は、ノットビューティ…」
振り下ろした少女の拳が、割り込んだ私の頬を直撃した。
めめたぁ、と頬が歪み、首が傾き、胴体が折れる。
おや、なんだこの威力は。と疑問に思う暇もなく、足が浮いた。
私は少女に殴り飛ばされ、ばぁん、と地面をバウンドした後、ごろんごろんとその辺を転がった。
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