第21話

朝露が煌めき小鳥が羽ばたき、世界が目を覚ます。

人々は穏やかに動き出し、今日また訪れた平和に笑顔を携えながら、おはよう、と挨拶を交わし合う。


そこは聖都ヒエロソリュマ。

ハチミツ色のレンガ屋根と豊かな水源を持つ、裕福な都市。


特定の神を持たず、生きとし生けるものすべてに神が宿ると教えている「白魔道士協会」の総本山だ。


その都市の誰もが清廉潔白。誰もが正義。

ごく稀に犯罪に走る者がいても、それもごく少数で、規模も小さなものばかり。


今日も平和な青空だ。

と、人々が空を見上げたそんなとき。


「あれは何だ?」

「鳥か?」

「魔道具か?」

「いや、あれは……っ!」


「私だ」


我、至れり。


ずしん、と街の広場に私は着地した。


道中、歩くのが面倒になったので思いっきりジャンプしてきちゃった。

てへぺろてへぺろ。


「な、何者ですか!?」

「私の名前はクリストス。愛の伝道師だ」

「ああ、愛の……そうですか」

「なんだ。愛の伝道師か」


近くの人たちを納得させた後、ばたばたと遠くからも杖を持った人がやってきた。


「おい!今、人みたいなのが落ちてこなかったか!?怪我とかしてないのか?え?愛の伝道師?ああ、なら、よかったよかった」


ふぅ、と一息ついて、杖を持った男も去っていく。

ここは聖都ヒエロソリュマ。白魔術士の温床。

愛の伝道師といえば大体許してもらえるビューティな世界。


「美しい…」


私が頬を染めながらそう言うと、街の人たちもうっとりと頬を染めた。


「ええ、美しい…」

「ラブ・アンド・美しい…」

「おお、ビューティ」


私はニヤニヤしながら協会の本部へ向かった。


そういえば、昔パーティを組んでいた戦士から「ヒーラーは変人ばかり」と聞かされたことを、なぜか今さらになって思い出したが、なぜ今になって思い出したのだろうか。


私はかしこいのだが、わからなかった。



白魔道士協会の教会堂は、相変わらず美しい造形美をしていた。


「おお、ビューティファサード。おお、ビューティファサード」


壮大な白い壁に、炎や水を模した造形が陰影のみで表現され、上部には空色のステンドグラスが煌めいている。


派手さはなく、ただ壮大である。


使い込めば込むほど美しくなる銀のスプーンのように、ここ数千年の間で、また貫禄が増したように見えた。


私は外壁の前にいる衛兵にうやうやしくお辞儀をした。


「失礼、ビューティ」

「オーケー、ビューティ」


そして、招かれるまま教会堂の中へと足を踏み入れる。


石造りの簡素な道は、小枝を束ねただけの箒で何度も何度も掃除を繰り返した結果、細かな傷を残している。

人が何千年もここで生きた証である。


右手は吹き抜けになっており、芝生の中では白い猫がすやすやと寝息を立てていた。


そんな静かな道を歩んでいると、やがて本堂への門が見え、衛兵と会釈を交わす。


「最初はぐー」

「あっち向いてホイ」


あちゃー、と衛兵は額に手を当てた。


「汝、ビューティ?」

「イエス、ビューティ」


衛兵は頷くと、扉をゆっくりと開けた。


軋んだ木の音を立てて扉が開くと、中にはどこか偉そうにしている男性が、肩肘をついて寝転がりながら、果物をむしゃむしゃと食べていた。


「ふぅむ、汝がクリストスか。おい、頭が高いぞ、頭を垂れよ」

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