第16話

「く、クリストスさんっ!?」


タルっ腹の男が戸惑う。

魔人のほうはにやりと口元を歪ませて、右手に剣を、左手に炎の魔術を作り出した。


「お望み通りやってやるよ。調子に乗った人間様をよぉ!」


彼の打ち出した炎は私の身を燃やし、剣は斬首するかのように打ち立てられた。


「クリストスさーーんっ!!」


その炎と剣を受けたとき、私の胸には深い悲しみが満ちていた。

なんて悲しい力だろう。なんて切ない熱さだろう。なんて……ノットビューティなのだろう、と。


「こ、こいつ、無傷だとぉ!?」


つう、と涙が流れる。

どれほど深い憎しみや悲しみがあれば、これほどの暴力が生まれるのか。

たった一度の攻防では理解しきれなかったほどに。


「お前ら、全員でかかれぇー!」

「おおおっ!」


魔人がここぞとばかりに特攻を仕掛ける。

向けられる鉄の刃、魔術、その全てに私は涙をこぼしながら両手を広げて、こう伝えた。


「おいで」


ノットビューティな者たちよ。

今こそ愛を教えよう。


何本もの剣が私の体を貫こうとした。

いくつもの魔術が私を押し潰そうと展開された。

大地はめくれ、余波で人の子は吹き飛ばされ、街を守っていたブリキの装甲が音を立てて落ちた。

炎の波が身を焦がし、流水が渦を巻き、岩を割く嵐が吹き、大地が私に牙を剥く。


「はぁはぁ…こんだけやりゃ、いくらなんでもカタついたろ…」

「何者だったんだ、あの人間」

「敵勢力のトップクラスの実力者かもしれん。ここで仕留められたのは行幸だ…」


もうもうと立ち込める攻撃後の粉塵を風の魔術で振り払い、私は空を見上げていた。


「なっ…」

「生きている…だと」

 

涙がこぼれないように、手を胸の前でクロスさせ、空を仰いでいた。


彼らの攻撃を受けて、私は彼らの悲しみと怒りを理解したのだ。


だって、私はかしこいから。


かつて人間たちに良いように狩られ、いたずらに迫害を受けてきた魔族たち。

考えればわかる。

駆除対象だった彼らに自我が芽生え、戦うだけの力があれば、奮起するだろう。


彼らは愛のために戦っている。

美しくも、ノットビューティ。


「なぜ死なないんだ、お前!」

「私のせいめいならば、どんな攻撃にも耐えられる…君たちの胸の悲しみ、しかと受け取ったよ」

「う、受けてねぇ。弾いてるじゃねぇか。ふざけんな!」

「なるほど。一理あるな。では…」

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