第11話
「懐かしいな。まだあったのか」
私はかつて世話になっていた冒険者ギルドを訪れていた。
これほど文明が発展してもなお、冒険者という仕事はあるらしい。
ギルドの入り口を開けると、中はガヤガヤと活気に満ちており、酒と鉄の酷いにおいが充満していた。
「冒険者ギルドへようこそー!」
男どもが発する雑音と異臭を突き抜けて、爽やかな声が私の耳に届いた。
カウンターの向こうには、笑顔の素敵な給仕服のお嬢ちゃんが立っていた。
「適当に安い酒を頼む」
「はーい、よろこんでー!」
私はカウンター席に座り、辺りを見渡した。
周りから、少しだけ不審な目でじろじろと見られているのを感じた。
「お待たせしましたー!」
「ありがとう」
出てきたビールを飲んで、一息つく。
うまい。
昼前に飲む酒の旨さたるやいなや。
ギルドの喧騒も、涙がちょちょ切れそうなほど懐かしくなってきた。
「ここは変わらないな」
「お兄さん、ウチのギルドの方ですか?」
「ああ、元な」
「そうだったんですね!失礼しましたー。その格好、白魔道士さんですか?」
受付のお嬢さんは私の服を物珍しそうに眺めながらそう聞いてきた。
種を蘇らせた私は、もちろん白魔道士だ。
やや複雑な話になるので割愛するが、白魔道士とは、白魔道士協会の一員という位置付けになっている。
私のローブは、白い生地の端にかすかに模様が描かれている、下位の白魔道士のローブだ。
「今ではデザインも変わってしまったか」
「あ、いえ。よほど真面目な方以外は、白魔道士の方も私服なんですよ」
「なんと!?」
よほど真面目ということは、上位の白魔道士のみ正装でいる、ということなのだろう。
私はかしこいから、お嬢さんが気を使ってそう言ってくれていることもわかる。
わざわざ下位の白魔道士が正装でいたから、私は周りから変な目で見られていたのだ。
しかし、白魔道士の神への信仰、その体現ともいえる装束を「自由」だから着ないなどと…
「まぁ服装はどうでもいいか」
脱ぎ脱ぎ。
ローブを上半身だけ脱ぐ。腰のベルトで固定されているのでばさりとスカートみたいに下ろし、中に着ている黒いインナー姿になる。
堅苦しいとは思ってたんだよね。
「うんうん。ヒーラーさんなら引く手数多ですよ!お仕事探してますか?」
「いや、私は世界の美しさを皆に伝えたいんだ」
「へ~!なるほど!美しさですね!そしたら色んなパーティ組んで、広めなきゃですね!」
「なるほど。それも一興だ」
もっと大きく広める方法もあるだろうが、布教活動とはひとつひとつ丁寧に広めた方が解釈違いを最小に抑えられる。
世界は美しい。
この見解に歪みがあってはならない。
「それではひとクエ、行っちゃおうかな」
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