1-2

トヲルはシオンに促されるまま、見知らぬビルの階段を登る。


「なぁ、オイ、シオン。どんどん先行くなって。・・・というか、こんなとこ入っていいのか?」


「ダメに決まってるじゃん?でも心配ないよ。人なんて滅多に来ないから。」


「やっぱダメなのか・・・。また補導とか嫌だぞ、俺は。」


トヲルは、素行の悪い学生ではない。バイト代も家に入れているような苦学生で、授業もそれなりに真面目に受けるタイプだ。だが、以前にシオンのトラブルに巻き込まれ、不本意ながら補導されたことがある。


トヲルは、今でもシオンのこういう性質は好きになれなかった。だが、存外情に厚く、どうにも憎めないタイプでもある。学校外でも付き合いを続けているのは、腐れ縁でしかないのだが。要するに悪友だ。


「大丈夫だって。前から、こういうビルは調べてあるんよ。ギガントマキナ用にさ。・・・で、インストール終わった?」


トヲルは、シオンからギガントマキアのインストールメモリを受けとっていた。本来はネット経由で、大した手間もない。だが、未承認の怪しげなアプリなので、それなりに手間がかかってしまうのだ。


「終わった・・・、かな?"READY"って出てるけど、これでいいのか?というか、容量小さいなこれ。」


「ああ、データそのものはサーバー側にあるからな。最近は極超高速通信網のおかげで、俺ら側にあんま負担ないんだよ。あと、既存の電子ペットのリソースやらを流用してるらしくてな。」


「既存アプリの改造?それってマズイんじゃないのか・・・?」


「まぁまぁ、堅いこと言うなよ。・・・話してる間に着いたぜ。屋上だ。」


屋上への扉に、鍵はかかっていなかった。


屋上には、腰ほどの高さの柵があった。簡単に乗り越えられるということは、そもそも屋上への出入りを考慮していないのだろう。


「・・・うーん、◯◯区方向の交差点。・・・って、いた!!オイ、トヲル見えるか?見えてれば、インストール成功なんだけど・・・。」


「見えてる・・・?何を?どれのこと?」


トヲルはその屋上の中で、その何かを探す。・・・だが、何も見つけられない。強いて言えば、薄汚れた床があるだけだ。


「そこじゃない。あっちだ、あっち!」


トヲルはシオンが指し示す方向を見る。それは屋上の中ではなく、遥か向こう。


「あっち・・・?何もないぞ?」


「え?インストールがうまくいってないのかな。・・・ほら、あっこの交差点のとこ、動いてるの見えない?」


「・・・ん?んんん???」


トヲルは、自身の目を疑う。すぐには気付けなかった。・・・それが、あまりにも巨大過ぎて。


「・・・はぁ!?まさかあれか!?あのデカいの!?あの・・・、え!?あれ、もしかしてロボットなのか!?嘘だろ、デカ過ぎんだろ!?」


そこは、少し遠い場所だった。


だが、明らかに巨大なものが、交差点の中に立っている。その巨体は近くの平均的なビルより少し大きめで、胸から上だけが見えていた。ロボの正確なサイズは分からないが、10階建のビルぐらいはあるのではないだろうか。


このロボは、メガネを通して見える虚像だ。あくまでも電子データでしかないのだが、その映像のリアルさは現実感を狂わせる。最早それは、動くビルだ。


「ああ、良かった。見えてんじゃん。そうそう、それだよ。それがギガントマキアのロボ、"ギガント"だよ。」


「いや、デカ過ぎんだろ・・・。って、ここからじゃ微妙に見にくいな。」


「まぁしょうがない。近くまで行きたいところだが・・・。ここからじゃバイクでも乗らない限り、着いた頃には終わってるよ。・・・でも、動きがないな。もしかしてまだ始まってない?」


「真っ赤で、刺々しいデザインだな。ロボって、ああいう感じなのか。」


「いや、デザインは色々あるよ。あの釘姫くぎひめってのは、敏捷性特化の刀使いなんだよ。速さで撹乱して、一撃で仕留めるってスタイルだな。」


「へぇ・・・。でも、たしかに動きがないな。」


「まぁでも、デカいロボを戦わせるゲームってのは、イメージできたろ?待ってれば、そのうち始まるさ。」


「それで、ギガントとシルフはどう関係してんだ?シルフの女の子が、あれに乗ってんのか?」


「ああ、いや、ギガント=シルフなんだよ。シルフはギガントの心というか、擬人化した姿というか。だから、瑤姫ちゃんにもギガント形態があるんだぜ。」


「へ、へぇ・・・。」


「・・・って、ちょい待ち。コール来たわ。」


シオンは電話の相手と話す。


「・・・うん、ああ。え!?終わっちゃった?一瞬で?マジか・・・。」


電話を切るシオン。そのガッカリした表情で、察するトヲル。


「終わってたのか。」


「ああ、1対5だったのに瞬殺だとよ。もちろん、釘姫が1の方な。」


「そうか。残念だな。・・・って、アレ。なんだ?」


「は?・・・んんん?」


それは釘姫のはるか後方。黒い影のようなものが、物凄い速さで近付いていた。そして、釘姫へ向かって、何か巨大なモノを突き上げる。


だが、釘姫はヒラリと身を躱し、それを刀でいなす。


「お、新規乱入か?・・・なあオイ、シオン。ああいう・・・。」


「・・・おおおおおおおおおおおお!!!?」


突然叫び出したシオン。屋上の柵から落ちそうなほど、前のめりになる。トヲルはビックリして、シオンの肩を押さえる。


「な、ななな、なんだ!?どうした急に!?」


「あ、あれ!!黒騎士だっ!!」

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