四十五 幕間 雲を映す空色
春乃はいつも焦っている。
春斗はいつも悲しそう。
その理由はわたしには分からないけれど、それはそれでいいのだと思う。
だって、春斗はわたしの手を引いてくれたし、春乃はわたしの隣に座ってくれたのだ。
だから、もしもの時はわたしが二人を守ればいい。
よく分からないし、何でそう思うのかだって分からないけれど。
たぶん、これからいっしょにいられるはずなのだと、そんな幸せな未来があると思えるから――
理由なんてそれだけで十分だよね。
***
ヴィヴェカが目を覚ましたときには既に春斗は同じ宿の部屋の椅子に腰をかけて眠っていた。すうすうと規則正しい呼吸音に耳を澄ませて、膨らんだりしぼんだりする胸をじいっと見つめる。
まぶしい朝日が窓から差し込んで、灰色の髪を照らしていた。日陰の雪のような色にも見えたし、空に浮かぶ雲の影のような色だとも思った。
そうやって春斗を観察していれば、視線に気がついたのか、あるいは朝日が眩しかったのか、どこか不機嫌そうに眉を寄せながら春斗が目を開いた。
「おはよう」
「……おはよう」
あくびをしながら返された言葉は少しだけ舌が回っていなかった。
ヴィヴェカはくるくると急かすように春斗の座る椅子を回って、それからはたと大切なことに気がついて春斗の腕を引っ張った。
ヴィヴェカが目を覚ましたときに椅子に座っていたと言うことは、春斗は一晩中椅子に座って眠っていたと言うことだ。
それはいけない。それではとれる疲れもとれないだろう。
「別に疲れてねえよ」
「だめ!」
「平気だ。寝ないこともあるんだから、別に支障も……疲れるとか、そういうこともない。現にこうして元気だろうが」
「からげんきっていうんだよ、そういうの」
「多分それは意味がちと違うな」
見せかけの元気、という意味では一つも間違っていないだろう。春斗に抗議の意味を込めたまなざしを向けたが、ため息一つで流されてしまった。
「旅の準備をするんだろう」
柔らかな音に顔を上げた。
灰色の、日だまりに浮かぶ雲のような優しい色が水色の少女を映している。
「――する!」
ぱっと明るい声で返事をすれば、春斗は呆れたように、しかしどこか嬉しそうに苦笑を浮かべていた。
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