第41話 謎の視線

翌日


 スティックパンとヨーグルト、サラダで朝食を済ませた俺たちは朝7時に家を出た。


 朝焼けが玉川上水の木々と俺とぷるんくんが乗っている自転車を照らす。


 朝の緑がもたらす自然のいい香りは清流のせせらぎに運ばれて俺の鼻を通り抜ける。


 前かごに乗っているぷるんくんは不思議そうに玉川上水の風景を見ていた。


 なんかぷるんくんの体の光沢が以前より増した気がする。


 土の香り、木の香り、そして


 花凛の香り。


 昨日の出来事が脳裏にこびり付いてなかなか離れない。


 花凛の胸……ぷるんくん並に柔らかかった。


「何考えてんだ」


 俺は苦笑いしてペダルを漕ぐ足に力を入れる。


 すると、俺の前に二人の男女が通り過ぎる。

 

 昨日見かけた学生カップルだ。


「この時間帯だと人少ないからいいよね」

「ああ。こうやって手繋いでもいいしさ」

「ふふ」


 昨日はあのカップルを呪ったのだが、今日の俺は一味違う。


 この二人に幸あれ。


X X X


SSランクのダンジョン


「「「キオオオオ!!」」」

「っ!ぷるんくん!」

「ぷる!」


 SSランクのダンジョンに入るや否や、巨大な鷲3頭が俺たちを狙う。


ーーーー


名前:ダンジョンダーク鷲

レベル:343

属性:風

HP:150,000/150,000

MP:100,000/100,000

スキル:トルネード、鋼爪、鋼嘴

称号:裏切り者

説明:SSランクのダンジョンに生息するダンジョンダーク鷲。ダンジョンキング鷲に嫉妬し、叛逆を試みたがために自分の肉が非常に美味しくなるという呪いにかかってしまった。SSランクのダンジョンに生息するモンスターの中で普通の強さで、牙と嘴は非常に硬くて丈夫だが軽い。動きが早い。



ーーーー


 3頭の鷲はそれぞれトルネード、鋼爪、鋼嘴のスキルを使い、俺たちに襲いかかる。


 まるで戦闘機のような速さで、風は台風を彷彿とさせるほと強力だ。


 正直怖くはある。


 だが、俺はぷるんくんに防御幕と殺身成仁をかけてもらった。


 それと、


 俺は最強スライムの主人だ。


「「「キイイイイイイ!!!!」」」


 三頭の鷲は俺たちを殺す勢いで近づいてきた。


 だが、


「ぷっ!ぷっ!ぷっうううううううう!!!!!!」


 ぷるんくんの口から発射されるる塊が3頭の頭に直撃する。


 これは間違いなくスライム弾丸(最上)だ。


 三つの弾丸を食らった3頭のダンジョンダーク鷲は壁にぶつかり、その影響で衝撃波が発生する。


 その威力たるや、俺の心臓に直接伝わるほどの破壊力だ。


 衝撃波によって周りには砂埃が舞い、3頭のダンジョンダーク鷲はあえなく俺の前に落ちた。


 10メートルほどの大きさ。


 この前見たレッドドラゴンよりは小さいが、それでもなかなかの大きさである。

 

 うん。


 これはぷるんくんのための照り焼き用だな。


 あと、嘴と爪は秋月グループに買い取ってもらうことにしよう。


 俺は収納ボックスに3頭のダンジョンダーク鷲を入れた。


「よし!ぷるんくん!よくやった!」

「ぶるるる……」


 俺が腰をかがめてぷるんくんを撫でてあげたら、ぷるんくんが嬉しそうに体を震わせる。


 にしてもこのダンジョン、昔は本当に怖かったけど今は怖くない。


 ぷるんくんのお陰だ。


 俺とぷるんくんに悲劇と希望を与えたこのダンジョン。

 

 俺はこのダンジョンを攻略したい。


 悲しい過去に閉ざされて鬱になるより、ぷるんくんと花凛と新しい道を切り開く方がいい。

 

 そんなことを思っていると、


「っ!?」


 誰かが俺を見ている気がしてきた。


 視線を感じる。


 俺は向こうの岩の方へ目を見やると、そこには誰もいない単なる岩が見えるだけだった。


「ぷるんくん、今視線感じなかった?」


 ぷるんくんならきっと気づいたはずだ。


 だが、


「……」


 ぷるんくんは困ったように岩の方を見てため息をつく。

 

 なんか解せない反応だ。


 でも、ぷるんくんが戦闘態勢を取らないところを見るに、脅威ではなかろう。


 ぷるんくんに菓子パンを与えたのち、俺たちは最上級ダンジョン松茸を探しにあっちこっち回った。


 一つ気になる点は


 まだ視線を感じること。


「ぷるんくん、本当に大丈夫だよね?」

「ぷりゅ……」


 なぜかぷるんくんが俺から目を逸らしている。


 随分と答えたくなさそうだ。


 心のモヤモヤが消えずに最上級ダンジョン松茸を探す俺たち。


 途中で、最上級マナ草やいろんな野菜を採取したが、ずっと視線が気になったので喜ぶことはできなかった。

 

 俺がぷるんくんに視線を向けると、ぷるんくんはずっと気まずそうにしている。


 そして


「おお!最上級ダンジョン松茸だああ!」

「ぷるっ!」


 やっと最上級ダンジョン松茸を発見することができた。


 ここは松っぽい木々に覆われたとても広い森林。


 そして魔力の塊の数々が宙に浮かび、赤や青の光を届けてくれている。


 さっきまでは視線のことがずっと気になったが、彩音さんが喜ぶ姿を想像すると、視線のことはそんなに気にならなかった。


 花凛にも分けてあげよう。


「よし!いっぱい採るぞ!」

「ぷりゅ……」

「ん?ぷるんくん?」


 いつもは俺の掛け声に全力で答えてくれるぷるんくんは、ためため息をつきながら困り顔をしていた。

 

 そんなぷるんくんが俺を見て、ぷるっと体を揺らして『私は大丈夫ううう』とアピールしてきた。


 レッツ採集タイム。


 傘が開いたものは俺が食べるとして、秋月さん、彩音さん、花凛にあげるものは傘が開いてない良いものをあげよう。


 そんな感じで、最上級ダンジョン松茸を採集していく。


「……」

 

 視線なんか全然気にならないから!


「……」


 気にならない


「……」


 本当だよ


「……」


 うん……


「だあああもう!!気になってしょうがない!!!」


 俺は頭を抱えて叫んだ。


 そして視線を感じる方へ目を見やると、


 そこには松っぽい木がいて、ツノのようなものが見え隠れした。


「誰だよ一体!」


 俺は必死にツノが見える方へ走る。


 俺がツノのある松っぽい木についた頃にはすでにツノはなかった。


「どこ行ったんだ……」


 俺が周辺を見回すと、近い木にまたツノが見えてきた。


「こら!待て!」


 俺は大声をあげて追いかける。


「ぷる……」


 ぷるんくんは困り顔で俺の後ろをついていく。


 本当にすばしこい生き物だ。


 まあ、ここはSSランクのダンジョンだから全ての生き物が桁外れだよな。


 あのツノの生えた生き物の正体を暴くぞ!!


 そう意気込んだものの


「はあああ……ああああ……うええええ……しんどい」


 吐き気がも催されるほど走ったせいで、もう動けない。


 運動不足だろうか。


 いや、単にあの生き物が疲れ知らずですばしこいだけだ。


 ぷるんくんに命令して捕らえさせるのもありだが、あのツノを見ると無性にムカついてくる。


 それと同時に


 ぐううう……


 今度はぷるんくんじゃなくて、俺のお腹がなった。


 散々走ってエネルギーを消費したせいであろう。


 俺の空腹の音を聞いたぷるんくんは、急にドヤ顔をした。


 ぐうううううううううううううううううう!!


 どうやらぷるんくんもお腹が空いたようだ。


 俺は気を取り直して、ぷるんくんに話しかける。


「ぷるんくん、ここで昼ご飯食べようね。ダンジョンダーク鷲の照り焼きチキン作ってあげる!肉が美味しくなるという呪いにかかったわけだし、きっとみたいにめっちゃ美味しいと思うよ!」

「ぷるるるん!!!」


 おお、ぷるんくんが羨望の眼差しを俺に向けている。


 こんな視線を向けられたら、これは頑張るしかない。


 そう意気込んでいると、


 また俺の前にツノが見えてきた。

 

 一つ不思議な点は、そのツノは震えている。


「ぷるんくん」

「ん」

「ちょっと待て」


 俺はそう告げて、


 全力で走った。


 そして


 ツノを掴んで


 俺の方に引っ張り出す。


「ふにゃあああ!!」


 すると、そのツノを持つ生き物は奇声を上げた。


 どんな面してるのか、この目でとくと確かめてみようではないか。


 そう思って、俺の手の方を見ていると、


「え?」


 紫色の髪をしている女性が目を丸くして俺を見ている。


 ツノが生えた女性。


 黒いドレスを着ており、背は俺よりやや高め。


 胸……花凛の方が圧倒的に上だ。


 しかし顔はとても整っている。


 いや、今そんなことはどうでもいい。


 これ、どうすればいい?

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