ちょっとだけ怖いかも

ぐり吉たま吉

第1話 見てるだけ…



エレベーターで、5階まで上がり、鍵を開け、自分の部屋へ帰ってきた。


もう、外は日が落ちて、部屋の中も薄暗い。


玄関を背に、部屋の灯りのスイッチに手を伸ばす。



ふと、誰かの視線を背中に感じて、振り向いても、誰もいる訳が無い。


だって、独り暮らしだから…。



気を取り直し、灯りをつけた。


ベランダに出て、少し冷たくなった洗濯物を取り込み、床に座って、それをたたむ。


俯いた首筋を、ベランダの窓から、また、誰かに見られているような気がする。



外は暗く、ここは5階。


ベランダには誰もいなかった。


いる訳が無かった。


しかし、不安に思い、彼氏に電話する。


『もう一度、ベランダや押し入れの中を見てみろ。ほら、誰もいないだろ?気のせいだよ。まぁ、何かあったら、すぐ連絡しろよ。飛んでいくから…』


彼氏の言葉に安心して、買ってきた、サンドイッチとスープで夕食をとる。


テレビの番組はつまらない。


仕事で疲れているし、風呂へ入り、布団へ入ろう…そう思い、服を脱ぎ、熱い目のシャワーを浴びる。



ユニットバスには窓は無い。


湯気で曇った鏡を擦って、クレンジングで化粧を落とす。


目を瞑り、顔に触れていると、また、窓も無い、風呂場の壁から視線を感じる。


シャワーで身体を暖めたはずなのに、寒気がして鳥肌がたつ…。


目を開けて、確認できない恐怖と戦い、大急ぎで顔を洗い流し、壁を見る。


誰もいない…。


いる訳が無い。



それでも寒気は治まらず、視線を感じる壁を見つめながら、身体を洗う。



「誰もいる訳ない…。気のせい…気のせいよ…」


独り呟くと、感じていた視線が消えた。


「ほら、怖がっているから…」


しかし、また、目を閉じるのが怖くて、髪は洗わずに、風呂から出た。


音をたてて、浴室の扉を閉め、身体を拭う前に、消していた部屋中の灯りを全部つけた。



「ほら…誰もいないじゃない…気のせいよ…誰かいる訳が無い…」




浴室の鏡は、まだ、湯気で曇ったまま…。



曇った鏡の中に、うっすらと、指だけが写り、その指が、スーっと動いた。



曇った鏡に浮かび上がる文字…。




見てるだけ…。


大丈夫、今日は何もしないよ。


見てるだけ…。



今日だけはね…。



閉めていた筈の浴室の扉が、また閉まる音をたてた…。

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