第33話 朝チュン

 んんん?


 なにか俺の腰辺りが重たい感じがする。また愛菜が乗っかっいるのかもしれない。


 まだ目覚ましも鳴っていないので無視して、狸寝入たぬきねいりを決め込んだまではよかったのだが、どうもおかしい。


 俺の腰の上でゆっくりと前後しながら、胸をまさぐってくる。


 愛菜なのか!?


 けれどもまたがっていたことはあっても、弄ってくるようなことはなかったぞ。


 目を開けて確認しようと思ったときだった。



 ん。



 唇に柔らかいものが触れる感触がした。それに加えて、シャンプーのいい香りが漂ってきており、俺はこの柔らかでくせになりそうな感触を知っている。


 目を恐る恐る開けると、俺の予想どおりだった。


 制服のまま俺の腰の上に跨がる伊集院が、ラブコメの幼馴染よろしくお目覚めのキスで起こしにきていたのだ。


「わっ!? なんで伊集院がいるんだよっ!」

「けいくんが私をお家に連れ込んで朝チュンえっちしたからでしょ?」

「嘘つけ! 桜ちゃんに車で送ってもらっただろ」


 最近、俺に対する虚言癖きょげんへきが強くなってきているように思えるのだが、気のせいか?


 だが大事なことなのだが、俺は伊集院に合鍵なんてものを断じて渡していない!


 愛菜なら玄関を開ける前に俺を起こしにくるはずだろう。


 訊きたくはない……訊きたくはないのだが、訊かないといけなかった。


「まさか家の鍵を開けて入ってきたとかじゃないだろうな?」


「うん! けいくんと私は結婚する予定で同棲してるんだから、合鍵持ってないとダメだよね。ついでにけいくんの鍵を私の鍵穴にじゅぽじゅぽ、ぐりぐりして、私の快楽への扉を開けてほしいの……ダメ?」


 かわいく人差し指を咥えておねだりする伊集院だったが、いろんな意味でアウトすぎる!!!



 これでもかと誉めちぎり、なだめすかした伊集院に外で待っててもらい、急いで支度を済まし、靴を履いて愛菜と鉢合わせてしまった伊集院とのやり取りがドア越しに聞こえてきてしまっていた。


「おはよう、愛菜ちゃん」

「むうっ! 伊集院さんはお兄ちゃんの何なんですか!? 本当に彼女なんですか?」

「うん!」


 なっ!?


 勝手に妹に俺の彼女だと主張する伊集院、外堀から埋めていく気まんまんな伊集院に俺はひとこと物申すつもりでドアを開け放った。


「おっぱいのカップの違いが魅力の決定的差じないことを教えてあげるんだから!」

「ひゃん!」


 火曜日のたわわ!


 朝とはいえご近所迷惑なので玄関先で伊集院と愛菜が揉めごとを仲裁しようとすると俺の目に飛び込んできたのは愛菜にバックを取られ、鷲掴みにして揉まれていた。


 これぞ、まさに揉めごと!!!


 息づかいを荒くして愛菜に揉んじゃだめぇと甘い声で注意しているが、むしろ伊集院の紅潮した顔が、いいぞもっとやれと言ってしまっているようだった。


 ようやく朝立ちも収まりかけてきたというのに、美少女二人が乳繰り合う光景に俺は海老のように背を丸めて俺は家の中になかに撤退する。


 くそっ!


 愛菜の奴、俺が片乳とはいえ伊集院の生おっぱいを見たことを知ってか知らずか、揉んでしまうなんて。


 頼めば伊集院は最後までいいよって言ってしまうかもしれないが、でもそうなったら俺は伊集院の彼氏にされてしまうだろう。


 伊集院の色香に惑わされないよう、決意を固め再度玄関の外へ出た。


「愛菜! またそんなことをして! 伊集院が嫌がってるだろ」

「お兄ちゃんなんか、おっぱいの角に顔をぶつけて死んでまえばいいんだよ!」

 

 えっ!?


 軽く伊集院を突き飛ばした愛菜は走り去り、俺が伊集院を受け止めようと身構えると、彼女のたわわの谷間に俺の顔が埋まってしまった。


「やっぱりけいくんも私とえっちなことしたかったんだね!」


 伊集院は怒るどころか、俺を母性愛の固まりのようなたわわにさらに押しつけるように両腕で俺の頭を抱えていた。


 伊集院のいい匂いがする……。


 物心ついて、かなりあとに母さんと出逢った俺は伊集院の胸元で甘えたくなってしまう。


 って、朝っぱらからマンションの廊下でエロいことしてたら、マズいと思いぐりぐりと伊集院の腕から抜けようとあがくと、


「ら、らめえぇぇ、そこ弱いのぉぉ」


 いでしまい大変だった……。



 運よくご近所さんに見られることなく、マンションから出られたが、俺は通学途中にしれっと隣を歩く伊集院を尋問していた。


「どうやって合鍵なんて作ったんだよ?」

「ん~、それはけいくんへの愛だからかな?」

「なるほど、愛鍵ってな! そうじゃなくて、複製方法だよ」


 思わず伊集院に乗せられそうになったが、そうはいくか。彼女はその手口を悪びれることなく語り始めた。


「うん、そんなの簡単だよ。けいくんが目を離した隙の輪郭を紙に写し取って、鍵の刻印などからメーカーの情報を収集。そこから得られた情報からブランクキーを取り寄せて、あとは写し取った形にシコシコと金ヤスリで削って、鍵穴に合うか微調整すればいいだけなんだからねっ」


「ねっ、じゃねえよ! 普通に住居侵入っつう犯罪だからな、それ……」


 伊集院はご機嫌で鼻歌を歌い、俺の言ったことを聞いていないふりをしている。登校中、他の生徒たちがいる前で伊集院を問い詰めれば、途端に俺は彼女を泣かしたクズ野郎として、簀巻すまきにして海に投棄されてもおかしくない。


 中村からの情報だけど、伊集院は中学校の頃の成績は男子たちに邪魔をされなければ、学年一位になってただろうことなので、頭はいいらしいのだが俺にとっては誤算でしかない。


「とにかく俺は伊集院がうちの鍵を自力で複製してしまうほどの行動力を持っていたことに驚く他ねえよ」

「そんな誉めなくても……」


 ぽっと赤く染めた頬に手をやり恥ずかしがる伊集院だったが、ここはガツンと言ってやった。


「誉めてねえわ!」


 ドアガードは父さんたちが出かけたときに解除されてるけど、ここまでのことをする伊集院なら紐なりなんなりの道具を用意してきたことだろう。


 まったく油断も隙もないったらありやしない。

 

「けいくんに誉められて、叱られるの……」


 伊集院は急にうつむき表情が暗くなると足取りが重くなったのか、並んで歩いていたのがゆっくりと遅れていった。


 しまった! 強く言い過ぎてしまったか?


 俺は彼女のことが心配で足を止め、振り返り伊集院を待った。


「大好きだよっ」


 沈んだかと思われた伊集院は駆け寄ったかと思うと、俺の腕に手をかけ、くるりと同じ方向を向いていた。俺と腕を組んだ伊集院は、さらに大きく回って俺に前を向かせてしまう。


「遅れちゃうよ、学校行こ!」


 天使すら裸足で逃げ出すほどの満面の笑みで同伴登校を促す伊集院。


 あうう、不本意だ。



 結局男子たちの突き刺さるような鋭い視線を浴びに浴びて、俺の心注目は裁縫さいほう道具の針刺し状態となりながら昇降口で靴を上履きに履き替えていると伊集院の様子がなにやらおかしい。


 いやおかしいのはいつものことか。


「えっ!?」


 ばっと靴箱から封筒を取り出すと表裏をささっと確認した彼女は一気に封筒を引き裂いてしまう。


 いやそれって、絶対ラブレターですよね?


「けいくん!?」


 マズいところを見られたかのように驚く伊集院だったが、俺は構わず訊ねた。


「いいのかよ、中身を見もせずに破いてしまって」

「私はけいくんにだけ見てほしいんです。なのにこんな不躾ぶしつけな手紙を寄越すなんて非常識にもほどがあります!」


 せめて返事くらいは、と言おうとしたが伊集院は本気で怒っているようで、俺は言うの躊躇ためらっている間にも、封筒をびりびりに破いてごみ箱へと捨ててしまった。


 これじゃ、俺だけにデレる氷令嬢みたいじゃないか……。



 昨日ガス抜きしたというか、俺が抜かれたような気がしないでもないが、朝のHRでは伊集院と桜ちゃんは特にことを荒立てることはなかった。


 クラスは浜田たちがいなくなったことですっかり様変わりしており、彼らにとって代わるグループが出てきて、相変わらず俺は玉田や太田とオタトークしながら陰キャとして過ごしている。


 ただひとつ違うことと言えば……。


「けいくん、お昼いっしょに食べよ」


 伊集院がすっかり俺の彼女面しており、陽キャグループだけでなく、クラスの男子全員から羨望と嫉妬の眼差しで見られてしまっている。


 昼食を食べようと誘ってくる伊集院に俺は諭すように告げる。


「気持ちはうれしいが、目立って仕方ねえよ。俺なんかに構わず、水上たちといっしょに食えって。あんま目立ちたくねえんだよ」

「ううっ……」


 おまけに伊集院の奴、あろうことかクラスメート全員の前で公開告白するとか、正気の沙汰とは思えないようなことを平気でぶっこんでくるから。


 マジで時雨姉ちゃんの運転よりもヤバいよ。


 俺は男子たちの鋭い視線にいたたまれなくなり、避難所に待避しようと愛菜の作ってくれた弁当片手に教室をあとにしていた。

 

 階段や中庭はどこもかしこもカップルや陽キャの溜まり場と化し、仕方なく便所飯を敢行するつもりで男子トイレに入ったのだが……。


 ――――わっ!?


 ――――えっ!?


 ――――なんで伊集院さんが男子トイレに!?


「伊集院、ここ男子トイレだぞ」

「うん、知っている」


 伊集院はさっきから片時も離れることなく、ずっと俺についてきており、彼女が入ってきたことに驚いて男子たちが用を慌てて足したあと、チャックも半開きのまま逃げるように出て行くのが不憫ふびんでならなかった。


 挟むんじゃねえぞ!


 俺が個室の扉に人差し指を当てて、彼らの前途を危惧きぐしてしると、伊集院はわけのわからないことを言いだしていた。


「けいくんしたいなら、したいって言ってくれればよかったのに」

「は?」


 伊集院の言葉に戸惑っていると、洋式の個室に体当たりするかのごとく、二人で入ってしまう。


 それと便座カバー!


 じゃなかった、便座に座らされてしまった俺に見せつけるように伊集院はスクールニットを手すりにかけ、手を休めることなくブラウスのボタンを素早く外し、俺になまめかしい肌を見せるようにゆっくりと脱ぎ始めた。


「なっ!?」


 朝はスクールニットを着ていたからまったくわからなかったが、見た目は清楚な印象の伊集院だったのにまさかの黒いブラジャーをつけてくるなんて……。


 いやそれよりも、もっと驚いたことがある。


 上半身を露わにした伊集院のおへそ辺りに視線を落とすと、蛍光色の紫ともピンクともつかない怪しいタトゥー……たぶん、シールだとは思うんだけど、淫紋いんもんのような意匠がスカートのウエスト周りから姿をのぞかせていた。


 俺が淫紋に目がいったことに気づいた伊集院はスカートまで脱いでしまい、俺に淫紋の全容を明かしてしまう。


「私、けいくんなしじゃ、もう生きていけない。彼女にしてほしい。セフレにして! えっちな関係になりたい。お嫁さんにしてほしい。けいくんの赤ちゃん産みたい。ずっとキミのそばに寄り添いたいの……。死ぬほど好き、生きてキミと一緒の空気を吸えることはもっと好き! ぜんぶ好き! 本当はスゴい子なのに無気力で実力を隠してるところも、私のことを一番誉めてくれることも、私が迫ると本当はえっちなこと大好きなのに私のことを大事に思って及び腰になるところもぜんぶ知ってる。だからぜんぶ好き! 絶対に離さないから」


「うえっ!? おっ!?」


 伊集院の絶対に俺を逃がさない宣言に戸惑っているとまるで淫紋に操られたかのように瞳をハートマークに変え、伊集院は俺の膝の上に跨がり俺のシャツと下着を脱がすと、ちゅっちゅっと胸元や脇腹にキスを落としていってしまっていた。


―――――――――――――――――――――――

経世と梨衣はこのあとどうなったんでしょうかwww

これ以上書くとお叱りをいただくことになっちゃいますので、ごめんなさいです。


自称経世の牝奴隷になっちゃった梨衣たんがよければ、フォロー、ご評価いただけるとありがたいです。

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