陰キャの俺を除くクラスの男子全員を惚れさせたアイドル級美少女が嘘告してきたので“だが断る“し続けたら、ヤンデレた

東夷

第1話 学園のアイドル

 俺は靴箱を開けた。俺は何度この行為を繰り返したのだろう。


 まだ三十回くらいか、高校に入ってから。


 不登校にもならず、苦行に良く耐え頑張ったその三十回目の記念日に事件が起こった。


 上履きの上にピンク色の洋封筒が入っていて、三角型の開封口の頂点にはご丁寧にもハートマークのシールで封がされてある。封筒をくるりと返すと表にはいかにも女の子らしい丸っこい文字で鈴城経世すずしろけいせいさまと、俺の名前が書かれてあった。


 しくもゴールデンウィーク明けである。


 なにか他人から恨みを買うことでもしただろうか?


 最近では飢えそうになり、食べたら殺すと殺害予告がされてある付箋ふせんをはがし、致し方なく手をつけた妹の愛菜まなの楽しみにしていたパティシエール・キョウコ特製のとろとろ生プリンをありがたくいただいたことくらいだ。


 開封すると殺害予告が入っていたら、どうしよう? わざわざゴールデンウイーク前から準備していているなら、俺の死は確実で死んでも愛菜は俺の屍を拾ってくれないかもしれない。


 ――――おまえ死ねよ。


 ここは暗殺教室ならぬ暗殺学校なのか!?


 はっとして振り返ると見たくもないちょっとオラッた男子たちのじゃれ合いで言い合ってただけで、俺はほっと胸をなで下ろした。


 赤と紺の制服を着たかわいい百合リコリス・リコイルのじゃれ合いしか、オラ認めん。


 ――――マジだりぃ。


 ――――放課後、カラオケいくぅ?


 朝、登校する生徒たちがざわつく騒がしい学校の玄関で、俺は誰にも知られることなくさっとブレザーのポケットの中にかわいらしいラブレターに偽装された殺害予告状をしまい込もうとしたときだった。



 ――――伊集院さんだっ!



 日々無気力に生きることを旨とする俺が言うのもなんだけど、さっきまでだるいだの、たりいなど言ってた男子生徒たちが死んだ魚の目から、キモいくらいにキラキラ……いやギラギラと瞳を深海魚のように発光させ色めき立った。


 ゴールデンウイーク前にクラスの男子たちがクラスの女子についてアンケートを取ったことがある。


 かわいい女子


 隣の席に来てほしい女子


 朝起こしにきてほしい女子


 一緒に登校したい女子


 彼女にしたい女子


 バックハグしながらゲームしたい女子


 ブルアカのコスプレしてほしい女子


 もうおまえって子は、と言いたい女子


 電車で居眠りして、もたれてきてほしい女子


 頭なでなでしたい女子


 朝チュンしたい女子


 俺の嫁にしたい女子


 寝取りたい女子


 寝取られたい女子


 不倫旅行したい女子


 ただの思春期男子の欲にまみれたその数々のアンケートすべてでランキング一位を獲得していたのが、俺たちの目の前にいる学園一のアイドル級美少女、伊集院梨衣いじゅういんりえその人である。


 ちなみに女子の間で行われたアンケートで無気力で陰薄かげうすそうな男子部門で一位に輝いたのが俺らしい。これじゃ視線誘導ミスディレクションが使えなくなってしまうじゃないか!


 そんなことよりもホンモノの輝きを放つ伊集院についてだ。


 紺のブレザーにチェックの入ったプリーツスカート、女子たちはみんな同じ制服を着ているというのに伊集院だけはひときわかわいく見える。


 彼女がただ歩いて、靴箱から上履きを取り出す。それだけで見惚れるほど絵になっており、周りにいた男子だけでなく、女子までも彼女に目を奪われていた。


 その美しい黒髪はふぁさーっと風になびかせながら、椿みたいなシャンプーのCMに出てきそう。シャンプーを泡立てて髪を両手で挟んで洗ってる姿が、ぴったりの女の子。


 大きな瞳にくっきりした二重まぶた、長くピンと立ったまつ毛に、鼻筋が通っている上に高い鼻。


 恋人同士がじゃれてほっぺたをつんつんすると柔らかく押し込まれるけど、離すと瞬時に戻るようなつるつるで白く透き通るお肌。


 もちろん、プロポーションの素晴らしくブラウスの胸元辺りのボタンとボタンの間は大きく実った果実のために引っ張られ、僅かに隙間が開いてしまうほど。


 まあ俺のつたない表現力を最大限に使い、言い表すならば宇宙一かわいいと思う、たぶんだけど。


 そんな宇宙規模のアイドルの前にちょうどクラスメートで坊主頭の玉田が通りかかる。


 一生役に立たないデータであるが玉田の名前は欣二きんじで、アンケートの下二つの発案者は彼だった。そんな特殊性癖と容姿も相まって、あだ名はタマキン……。


 ある意味ではキラキラネームだ。


 アイドルを輝かすミラーボール……じゃなかったゴールデンボールに向かって伊集院が天使みたいな微笑みを浮かべて、あいさつした。


「おはよ、玉田くん」

「い、伊集院さんっ! おはようございます」


 その小鳥がさえずるような美声に一瞬驚いた玉田だったが、襟元のネクタイを慌てて直し、キラッと白い歯を見せながら伊集院にあいさつを返す。


 すると……。


 伊集院は玉田の仕草がおかしかったのか軽く握った手を口元に当て、くすりと笑った。


「て、天使さまぁぁぁぁ……!」


 歩く公然わいせつ物は天使を笑わせたことで天に召されるんじゃないかってくらい号泣しながら、彼女の前で跪いて頭を地に伏せようしている。



(どうか、おパンツ見せてください)



 と玉田の仕草にアテレコすると非常にしっくりきてしまった。


 だが玉田が特殊性癖の持ち主だから、ああなるわけでもなく、ほぼクラスの男子は伊集院の前ではまたたびを与えられた猫みたいにふにゃふにゃに骨抜きにされてしまう。


 俺はどうなのかと言うと……。


 俺にだけ見える眼帯をした彼女が心の中で呼びかけた。


【ククク……前々々世よりの同志経世、我と異世界にて覇道を歩まんか? 奈落の深層が我らの再臨を渇望かつぼうして、右目がうずき仕方ないのだ】


 俺にだけ彼女の真実なる声が聞こえ、そして厨二トークを交え親密度マシマシになる……わけがない。


 そもそも彼女は眼帯をしてないしな。それに目が痛いなら眼科へ行け。俺は腕のいい目医者を知っている。



 黒木目医者メ○サ



 滑ってしまったが俺は彼女の伊集院という名字に厨二病の真祖というシンパシーを感じるくらいで、カーストという目の前に見えない絶対障壁が存在している彼女のゾーンは、俺にとってまさしく異世界だ。


 俺はこの理不尽極まりないが、うまいプリンのある現世でメガニケに微課金しながらスローライフを堪能できれば充分満足である。


 ああ、忘れてた。


 ラブレターに偽装した殺害予告が来てるから近日中に転生するかも。


 どうか転生しても、無気力で生きられますように。


 俺が草葉の陰ならぬ壁から二人のやり取りを見守っていると伊集院と仲のよい金髪ギャルの水上真莉愛みなかみまりあが彼女の肩を叩いて声をかけていた。伊集院ほどでないにしろ、水上も相当な美少女である。


「梨衣、なにしてんの? って、玉田……こいつマジキモじゃね?」


 オタクに決して優しそうでない水上は、まるで汚物でも見るかのように玉田を見下す。まあ彼は底辺だし、そもそも伊集院に祈りを捧げてる最中なので、アイポイントが低くて当然だ。


 水上がポケットから手のひらを出すと伊集院は笑顔でポンと手を当て、あいさつを交わす。


「真莉愛ちゃん、おはよー!」


 伊集院の屈託のない笑顔での仕草に、つり目でマイルドヤンキーっぽい水上は微かに頬を赤らめていることを俺は見逃さなかった。



(こういうのでいいんだよ、こういうので)



 朝から尊すぎる百合エネルギーを補充した俺は、今日で人生が終わろうとも一片の悔いあり。


「ね、真莉愛ちゃん、手つながない?」

「ば、馬鹿野郎……ちんたらしてると遅れっぞ」


 尊すぎて鼻血でそう……。


 伊集院のひとことで水上の白い肌が真っ赤に染まってしまった! 照れ隠しからか、水上は伊集院を罵倒しているがまったく敵意は感じられない。


「うん、そうだね」


 伊集院が同意すると二人は教室へ向かって廊下を歩いてゆく。伊集院がちょっかいで水上の頬を人差し指で触れ「あひゃっ」と水上の容姿からは考えられないようなかわいらしい声をあげていた。


 玉田はというと、放置プレイのまま。


 願わくば、彼女たちが男ども結ばれることなく百合が成就じょうじゅしてほしい。


 俺はごちそうさまと手を合わせたあと、教室とは反対方向に向かった。


「二つで四百円ね」

「はい」


 上手いけど、ちょっとだけズレるイントネーションがかわいらしいお姉さん。髪をシニヨンに結んだ蘭々さんに五百円玉を渡して、お釣りに百円を受け取った。


 いまから父母の多大なる愛と妹、愛菜の俺をさげすむような目で見下してくる人生に感謝して遺書をしたたねばなるまいと思い、廊下の突き当たりにある購買部にて便箋びんせんと和封筒を購入していた。


 購買部の壁掛け時計を見ると朝のホームルームまで五分ほど時間がある。教室で開封すると“なおこの手紙は自動的に対消滅する“されても困るので購買部横の通用口から外に出て、小さな階段に腰かけながら開封していた。


 俺は読んで、その内容に驚く。


―――――――――――――――――――――――


 あのね、突然のことでびっくりさせちゃってごめんなさい。


 実はね、わたし鈴城くんのことずっと見てたんだよ。


 じっと席に座って過ごす姿がなんか落ち着きがあって、他の男子にないものを感じちゃった。


 最近ね、夢に鈴城くんが出てくるようになったんだよ。いつも寝る前になると夢の中でキミに会えないかな~ってね。


 でも、そうそう出てきてくれないの。そんなとき学校に来て、鈴城くんの姿を見れるとスゴく安心するようになってきてる。 


 どうしよう、わたし……キミのことが……。


 どうしても伝えたいことがあります。


 今日の放課後、体育館裏で待っています。


                 伊集院梨衣


―――――――――――――――――――――――


 信じられない!


 殺害予告でなかったからだ。


 それに手紙も消滅していない。


 いわゆる正真正銘のラブレターというものだ。


 しかし放課後はどうしても外せない大事な用事があり、どうしたものかと悩んでしまうのだった。


―――――――――――――――――――――――

カクヨムよ、私は帰ってきたぁぁぁーーーー!!!


お久しぶりです、垢BANの悪夢こと東夷です。


いや実は3月初めに「おまえ、えっちな小説を書きすぎ、勘弁ならん」と要約しましたが、だいたいそんな理由で運営さまから前アカウントは抹消されてしまいました。


これもすべて作者の不徳のいたすところ、応援していただいた読者の皆さま並びにカクヨム運営さまに多大なるご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。


また作者の砕け散るところを見たい方は、フォロー、ご評価を入れつつ読んでいただけるとうれしいです。


■お知らせ

新作書きました!

【エロゲのクズ主人公に義妹を寝取られ、飛び降りるキモオタデブな友人キャラに転生した。あれ、俺ヒロインたちの排卵日まで把握してるっ!?】

https://kakuyomu.jp/works/16817330659308761329

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