ハイエルフ転生!~地球から愛をこめて~
wAo
ハイエルフと3人の魂。
1-1・私と私の始まりのお話。☆
私はエルフである。
広い草原に横たわって上空を見上げると、そこには天に届くほどの巨大な世界神樹が魔力を放出しながらその枝葉を大きく広げている。
あの世界樹は私の母樹だ。
さやさやと揺れる木の葉の間から漏れ落ちるやさしい陽の光が母樹の根元を飾る可憐な花々をキラキラと輝かせていて、母樹の魔力から生まれたばかりの精霊の子供たちが花びらのベッドですやすやと眠ったり、隠れたり、ピョンピョン飛び跳ねたりして自分の住処を見定めている。
私はそれを横目で眺めながら、うとうとと眼を閉じる。
陽光を遮るように、顔の上空辺りに魔力を薄く広げて波立たせ、浮かばせておく。そうすると、強い光もまるで水中から見上げたような柔らかい光になる。
魔力。
この世界には魔力がある。
ハルカが(『魔法って本当にあるんだ…!』)と言ったのを思い出して、思わずフフ、と声が漏れてしまう。
ハルカというのは、私の中にいる人間の名前。
魔力っていうのは不思議な力のことで、魔力はハルカのいた世界には無かったのだという。
手や足や道具を使わなくても何でもできる、便利な力だ。
手を伸ばさずに物が取れるし、火種が無いところでも発火できる。
どんな場所からでも水が出て来るし、風を操って空中に浮くこともできる。
(『うぅわ~!!こんなの、お伽噺の世界だよ。最高か!』)
そう興奮したハルカが言うのを何度も聞いた。
「お伽噺って何?」
私がそう聞くと、ハルカは(『お伽噺っていうのはね…』)と教えてくれる。
心地いい、優しい声の、私じゃない私。
あの日から、彼女は私の心の声にいつも答えてくれる存在になった。
目を閉じた瞼の裏で温かな優しい光を感じながら、ハルカと始めて出会った日のことを思い出してみる。
――――――――――――――――
あの日。
目を閉じているのか、開いているのか分からなくなるほどの闇の中で、私は横たわっていた。
最初に聞こえたのは、ハルカが叫んだ声だった。
(『わ、テレビの真っ暗な画面がっ!
急に映像を写し出しましたよぉ…!?
って、なにこれ、まぶしい!そりゃそうだよ!暗すぎだったんだから…もう!きっつい。目ぇ、開けられん。しぱしぱするぅ~!
しかし、目が…目がぁ…っ!!ってやるほどではない!待ってなさい、テレビジョン!!』)
私は目を瞬かせた。
ここは真っ暗な部屋の中なんだな、と思う。
あの女の人はどこにいるんだろう。一人で話す声は聞こえるけど、ここには光が無い。
(…何か光ればいいのに)
私がそう思うと、ゆっくりと自分を中心に光が漏れだすのがわかった。チラチラと零れる光の粒は一つ一つが見えない程に小さい。指で追いかけると、ひらりと舞って逃げていく。
身体を起こすと、光も一緒に動いた。
私は嬉しくなって、くるりくるりと腕を回した。
目の前を見ると、黒い箱がある。
私はぐるりと周りを見渡した。
他には何も見えない。
ただ、自分の手や足がうっすらと光って見えるだけだ。
(『どれどれ、やっと目が慣れてきましたよお客さん!
これで長かった暇を潰せるかなぁ…って、このテレビ、どうやってチャンネルとか音量とか操作するんだろ…?』)
どこか遠くで、さっきと同じ声が聞こえた。
私はその場所を探しながら目を彷徨わせて、床に手を当て、耳を当てた。
(床の下から、聞こえるような?)
私は口に手を当ててから、んん、と息を吸った。何を聞こう。なんて声をかけよう。あの人が吃驚しないように声をかけるには、どうすればいいのかな…
(あなたはだれ?とか、どこにいるの?とか?)
(人と話すの、緊張する。)
チャンネル、音量、テレビ…。分からない。
「…テレビって何?」
これが、私が初めて発した、ハルカへの言葉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます