エコーとナルキッソス:反響する愛

エコーはかつて、山々が彼女の声を反響させる谷間で、その美しい声で神々を楽しませていた。しかし、彼女の最大の欠点は、話し始めたら終わりが見えないことだった。このため、ゼウスの妻ヘラの怒りを買い、エコーは自分から言葉を発することができなくなり、他人が言ったことを繰り返すだけの存在になってしまった。


一方、ナルキッソスはその美しさで知られる若者で、多くの者が彼に恋をしたが、彼は誰に対しても心を開かなかった。ある日、エコーはナルキッソスを見て一目惚れし、彼について行ったが、ヘラの呪いのために自分の気持ちを伝えることができなかった。彼女はナルキッソスが話す言葉を繰り返すことしかできず、ナルキッソスは彼女を無視して去っていった。


心に深い傷を負ったエコーは、自分を見失い、ついには声だけが残り、彼女の存在は山々に反響するエコーとなった。ナルキッソスもまた、自分の美しさに取り憑かれてしまい、水面に映る自分の姿に恋をし、それが自分であることを理解できずに、その場を離れることができなくなった。彼は最終的にその場で命を落とし、彼の名を冠した花、ナルシスがそこから咲き誇った。


この物語は、自己愛と無償の愛の悲劇を描いている。エコーの愛は、彼女自身の声を失うことで、永遠にナルキッソスに届かない愛となった。一方でナルキッソスは、自分自身以外の美に目を向けることができず、真実の愛を知ることなく終わった。


山々は今もエコーの声を反響させ、ナルシスの花は自己愛の象徴として咲き続けている。エコーとナルキッソスの物語は、愛の多様な形と、その形が人の運命に与える影響を教えてくれる。自己に溺れることなく、他者を理解し、受け入れることの大切さを、この物語は静かに語りかけている。

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小話シリーズ(失踪済み) おもろいやん星人 @gura250

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