自分探しの旅

私は大学を卒業してから、自分が何をしたいのかわからなくなっていた。就職活動もうまくいかず、親にも迷惑をかけていると感じていた。そんなとき、友人から海外旅行に誘われた。彼は「自分探しの旅だよ」と言って、ヨーロッパへ行こうと提案してきた。私は迷ったが、このままではダメだと思って、彼について行くことにした。


ヨーロッパへ着いてから、私たちは色々な国や都市を巡った。フランスのパリではエッフェル塔やルーブル美術館を見学し、イタリアのローマではコロッセオやバチカン市国を訪れた。ドイツのベルリンでは壁跡やブランデンブルク門を見て歴史の重さを感じた。スペインのバルセロナではサグラダ・ファミリアやガウディの建築物に感動した。それぞれの国や都市には独自の文化や風景があり、私は目を見張るばかりだった。


しかし、旅行が進むにつれて、私は不安になってきた。私は本当に自分探しの旅をしているのだろうか?私はこれらの美しいものや素晴らしいものを見ても、心から楽しめなかった。私はただ友人について回っているだけで、自分が何を求めているのかわからなかった。私は自分が何者なのかわからなかった。


ある日、友人と別れて一人で散歩しているとき、私は偶然にも哲学者ニーチェが住んでいた家に出くわした。ニーチェという名前は聞いたことがあったが、彼がどんな思想を持っていたかは知らなかった。好奇心から家に入ってみると、そこにはニーチェが書いた本や手紙や写真が展示されていた。その中で一つ目立つ言葉があった。「君自身に忠実であれ」


その言葉に引き付けられて読み進めると、ニーチェは自分自身を見つめ直すことや自分自身を超えることを説いていた。彼は社会的な価値観や道徳観に縛られず、自分だけの価値観や道徳観を作り上げることを勧めていた。彼は「神は死んだ」と言って宗教的な権威も否定しており、「超人」という理想的な存在像も提示していた。


私はニーチェの思想に衝撃を受けた。私は今まで社会的な価値観や道徳観に従って生きてきただけであり、「君自身」ではなく「他者」に忠実であっただけではなかっただろうか?私は今まで本当に自分探しの旅をしてきただろうか?それとも他者探しの旅だっただろうか

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