ひとつの石ころ

夕暮れ時、海岸で石ころを拾っていた少年がいた。彼はその石ころがとても美しく、何となく心惹かれたのだ。


しかし、少年はその石ころを手放そうとしなかった。なぜなら、その石ころが自分の手の中で輝き、暖かく感じられたからだ。


そんな少年の手に、ある日、老人が触れた。老人は少年に問いかけた。「君は、その石ころを手放せるかい?」。少年は答えた。「いいえ、手放せません。この石ころが好きだから」。


老人はうなずいた。「でも、それはただの石ころだよ」と言った。少年は答えた。「でも、この石ころには私の思い出が詰まっているんです」。


老人は静かに、自分が持っていた小さな袋を取り出した。袋にはたくさんの石ころが入っていた。老人は袋を開けて、そこにある石ころを取り出して、少年に見せた。「これは、私が拾った石ころの一つだ。私はここに来るたびに石ころを拾っていた。それぞれに思い出が詰まっていた。だけど、今、私にとってはただの石ころなんだよ」。


少年は考え込んだ。自分の手の中の石ころが、いつかはただの石ころになってしまうのだと知ったのだ。彼は、その石ころを海に返す決心をした。


石ころを海に投げ込むと、波にさらわれていった。少年はその後、海岸でたくさんの石ころを拾った。でも、今度は海に返すことを忘れなかった。それ以来、彼は石ころに惹かれることはなくなったが、彼には新しい思い出ができた。

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