第26話 枯れ枝男
赤色のスカーフから感知した魔力を辿り、森の中にひっそりと建っている屋敷に着いた。
もう何年も住人が暮らしていないであろう様子で、あちこちの窓は割れ、庭木が荒れ、より一層うっそうとした雰囲気を出している。
「アス、何人かの生体反応があるな。」
ほう、流石勇者だな。この微量で弱々しい反応が分かるとは。
「3人…くらいか、生きている反応があるな。乗り込むか?」
そう言って傾いていたドアノブに手を掛けようとしたら、そっと手を握られた。
「ここではレディーファーストなしだ。アスは俺の背中に。」
「はっ、魔王に対して言う言葉ではないな。私の後ろからついてくるがいい。」
面倒事はさっさと片付けるがよし。
がこっとドアを開け、中に入る。
昔は絢爛豪華であったろうロビーに、無数の足跡があり奥へ続いている。
「比較的新しいな。奥へ行くぞ。」
足跡を辿っていけば、地下への階段に着いた。
「ときに確認なんだが…。この屋敷はもう使われてはいないよな?誰も住んではいないよな?」
「そのようだな。なにかするつもりか?アス。」
「いや、壊した際の弁償などは、まぁ、その、問題にはならんよな?」
「壊すのか?」
「時と場合によっては…だ。空き家は犯罪を促進するだろ?この間の奴隷市場のような事もあるからな。」
子供や女性が犯罪に巻き込まれるのを見るのはイヤだ。ならその温床となる場所を無くせばいい。
地下への階段を降りていくと、格子のある部屋が並んでいた。
「地下牢か。貴族の屋敷らしいな。」そう呟くと、
「誰!?誰か居るの!?」
扉が壊れた牢の中に座り込んでいた、若い女性が叫んだ。
チラッと私の顔を勇者が見て、その女性に近づく。
「誰かに捕まって、この部屋に閉じ込められたのか?怪我は?」
「街を歩いていたら急に拐われ、気がついたらここに…。怖くて怖くて…」
しくしくと泣き出す女。
「あなたの他に誰か居るのか?」
「分かりません…。他に声が聞こえないので、私一人かもしれません。早くここから助けて下さい!」
はらはらと涙を流し、儚げな女性。
「自分で出ろ。」
「!?ひどいっ!そんな言い方!一人で出られなくて、困っていたんです!助けて下さい!」
冷たく言い放った私を睨み、勇者にすがろうとする。
「もうそういうのいいから、さっさと出てこい。」
勘違いしないで頂きたいが、決して私は同性に厳しい訳でも、無慈悲な訳でもない。
「ひどいです!助けに来てくれたのではないのですか!?怖くて足が動かないんです!」
「ほぅ。」
言うなり私は女目掛けて火球の魔法を放つ。
「!」
私が放った魔法は、女には当たらずボロい羊皮紙に吸収された。その女が咄嗟に出した羊皮紙に。
「ふん、吸収の陣が書いてあるのか。小賢しいな。」
「……貴様は魔王か。なんでブレイブと行動を共にしているんだ。」
ゆらゆらと女の周りが揺らぎ、黒い靄が覆うと、中から黒いローブを着た枯れ枝のような顔の男が現れた。
「残念だがバレバレだ。あんまり頭がよくないだろうお前。」
「きっ!貴様っ!私に対してなんてことを!まぁいい。余裕ぶっていられるのももう終わりだ。くっくっくっ…さあ ご自慢の魔法を打ってみろ!」
そういうと先程の羊皮紙を高々と掲げる。
「アス、すまないが程ほどにしてやってくれ。根はいい奴なんだ。」
勇者が私を見て、すまなさそうに言った。
ということは、この枯れ枝男は勇者の仲間の一人か?
「ではご要望通りに、火力を上げてみるか。」
メキメキメキと私の頭に深紅の角が伸びてくる。
気分が高揚してくる。体温が上昇する。
「あぁ、綺麗だな。アス。」
うっとりと見てるんじゃない勇者。
こういう時はむしろ私を止めないといけないんじゃないのか?いいのか?
「わ、私はもう昔のランバードではない!あの方の力を頂いて、魔術の最高峰を…」
どおぉぉぉぉん!
轟音と共に、少し火力を上げた火球が羊皮紙を突き破り、枯れ枝顔男に命中した。
「がっ…途中で…最後まで…言ってな…い…」
白目を剥きその場に倒れる枯れ枝。
「まったく、お前の禍々しい剣といい、こいつの似合わない趣味の悪い指輪といい…。人間国はいつから禁忌魔導具が気楽に手に入るようになったんだ?」
「俺の剣は国王に貰った。」
そっと勇者の剣に触ると、ブワッと黒い霧が涌き出て、霧散した。
「お前だから普通に扱えたんだな。普通なら取り憑かれてるぞ。」
「ま、害がなかったから使っていただけだ。案外手にしっくりくる。」
「お前の性格が暗黒寄りだからじゃないのか?やれやれだ。こいつはここに置いておいていいだろう。妹を探すぞ。」
「アス…一つ頼みがあるんだが…。」
「何だ?この枯れ枝をどうかするのか?担ぐのはイヤだぞ。」
「アスのその綺麗な角に触らせてくれ。」
「はっ!はあ!?バカじゃないかお前!触らせる訳ないだろうっ!ダメだ!ダメだっ!!そのうっとりした目を止めろ!こら!にじりよってくるな!」
「大丈夫だ、すぐ済む。ほんの少しさわるだけ、大丈夫痛くない。な?」
な?じゃないっ!!
私は奥の通路目掛けて走り出した。
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