第10話 奴隷市場

と、言う訳で人間国に初上陸した私は、見るもの全てが新鮮で口が開きっぱなしだった。


「アビステイル殿、ここが市場だ。大抵の物は揃う。あ、それは南国の珍しいフルーツだ。とても甘くて美味しいぞ。」


勇者は金色の丸い果物を一つ買って、小さくちぎって差し出した。


「ほら、食べてみろ。」


南国の珍しいフルーツなんて初めてだ。ワクワクしながら手を出すと、ひょいっと差し出したフルーツを引っ込める。


なんで?意地悪するの?


「ほら、口を開けて。」


ま、まさかの『あーん』か!!

コミュ障の私にはハードルが高すぎるっ!

しかし珍しいフルーツは食べたい!

今回を逃したら、もう食する機会はないかもしれない!

仕方がない、ここは腹を括って……


ぱくっ!


「流石、南国の珍しいフルーツですね。とても美味しいです。」


アランがシレッと言う。

ちーがーうー!なんでお前が食べるんだー!!


勇者も方眉が上がって、こめかみに💢のマークが浮き出ている…


「魔……アビス様、遊んでいる時間はありませんよ。ブレイブ殿、この奥にあるんですよね、奴隷市場が。」


うっ、そうだ観光で来た訳じゃないんだ。

キュッと口を引き締める。


「そうだ。この奥の倉庫にあるらしい。取りあえず、魔族の子供達がどのくらい居るのか確認しないとな。」


私達は賑やかな市場を通り越し、人がまばらになってきた場所を歩いていた。


「やぁ旦那。この先は市場は無いぜ?引き返した方がいいなぁ。」


ガタイのいい男が話しかけてきた。


「俺の主人が、市場に出回らない珍しい物が欲しくてね。」


勇者はガタイのいい男にニヤリとしながら、答える。なんだか悪役っぽいぞ。怖い。


「……どんな物が欲しいんだ?」


「例えば、角が生えてたり、肌が人とは違うもの…とかかな。」


「ついてきな。」


ガタイのいい男に連れられ、右に左に曲がりながら、細い路地を歩く。


着いたのは、一見程よい大きさの倉庫。


「珍しい物はなかなか値が張るっていうけど、大丈夫なのか?」


アランが懐から重そうな革袋を出す。


「ケケっ、問題ないみてーだな。さ、入りな。気に入るのがあればいいな。」


ガタイのいい男が、重そうな扉を開き私達を中へ促すと、外から閉めた。


「気に入ったものの番号を、奥の男に言いな。」扉の外から声がして、またケケケと笑いながら去っていく気配がした。


薄暗い中に大小様々な檻が置いてあり、異臭が漂っていた。


「くっ……この臭いは、媚香か。」


不愉快な臭いの中、檻の中を見るとそこには魔族の子供や、耳や尾のある獣人族の子供も居た。


「なんてことだ……」


檻の中の子供は、皆虚ろな目をしている。


「媚香?俺にはわからないが?」


「人間には嗅ぎとれない臭いだ。この香のせいで正気を保てなく、無抵抗にさせているんだな。」


ギリッと口を噛む。

こんな事がまかり通っていい訳がない。

無邪気な子供達を……


沸々と怒りが込み上げてくる。


「魔王様、いかが致しますか?」


「勿論、ここを潰すよ。」魔力が体から滲み出る。


「ん?あれは…どこかで見た顔だな。」


勇者が倉庫の奥に居る男二人を見て呟く。

背の高い男が、デップリした男に袋を渡している。

どうやら商談中らしい。


「ふざけるなよ、人間が……」


「待て!アビステイル殿!あの男が去ってからだ!」


今にも二人を攻撃しようと魔力を集めた手を、勇者がぎゅっと握り、後ろから抱き締める。


「うぎゃ!」


怒りで爆発しそうだったのに、恥ずかしさで自分が爆発しそうになる。


「(なななななななななななな何をするんだ!)何故止める。」


「あの背の高い男は宮殿で見た。王の側近だ。ここは敢えて逃がしてくれ。俺に考えがある。」


「(耳元で囁くな!動悸がハンパないんだよ!)……分かった。」


勇者はフードを深く被り、背の高い男が商談を終え帰る様子を見守る。


「おや、お客様。気に入った物はありましたか?」


デップリした男がニコニコしながら近づいてくる。


「ああ、みんな気に入ったよ。物じゃなく者だがな!」


デップリした男の体がドスンと音を立てて倒れる。


「魔王様、派手に行きましょうか!」













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