第8話 やるせない思い
魔王こと、アビステイル・ザ・レッドフォードは自室の窓から領地を眺めていた。
「魔王様?どうかされましたか?」
「アラン、なんでこの世界は種族で分かれてるんだろう?」
アビステイルの前のテーブルに、お茶セットを用意しながらアランティーノは答えた。
「太古の昔、始まりの種族がそれぞれの進化を経て、それぞれの地域に適した姿になっていったと聞いております。我ら魔族は魔力がありましたので、不毛な地でも生きていけた……と。」
アランティーノは、慣れた手つきでトプトプトプとカップに紅茶を注いでいく。
アビステイルの好きな銘柄だ。
「元は同じなのであろう?それなのに何故諍いが起こる?」
湯気が立つカップを持ち、フーフーと冷ましながら不満そうに横目で美麗な側近を見る。
「グハッッ!流し目!……失礼しました。先々代から我が魔族国は他種国と友好を築いてきましたが、他国の王が代替わりしてからはなかなかきな臭くなってきました。嘆かわしいことです。」
「私は争いは好かん。しかし我が国の民が一方的に傷つくことは許されない。」
ゴクンと紅茶を飲み干して、立ち上がる。
「はい、魔王様。」
「地下牢へ行く。」
ザッとマントを翻し、部屋を出ようとすると、口に甘味が広がる。
「今日も自信作です。二種類のクリームたっぷりのシュークリームです。」とアランティーノが魔王の口にシュークリームをねじ込む。
「もぐっもぐっ、ん、旨い。」
「……勇者には負けません。」聞こえないくらいの小声で、アランティーノは呟いた。
「へぇ~。魔王って女だったんだ。可愛いじゃん。」
軽薄そうな青年が地下牢に入っていた。
その前に無表情でアビステイルは立った。
「何故子供を拐った?」
「決まってるじゃん、生活の為さ。奴隷商に魔族の子供は良い値で売れるんだ。ま、今回はヘマしちまったけど。」
ケケケと悪びれることなく青年は笑いながら言う。
「子供は何処へ?」
「簡単に言う訳ないだろって…………あ、あぁ、ああああああああああ!!」
青年が口から泡を吹き、その場に崩れ落ちる。
「ほう、やはり……か。」
アビステイルはクルリと踵を返し、牢番に
「埋葬してやれ。」
とだけ言い、険しい顔で地下牢を後にした。
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