第6話 国王

「申し訳ありません、まだ勇者達からの討伐達成の連絡はありません。」


煌びやかな一室で、人間国の宰相であるレジデントは冷や汗をかきながら平伏していた。


「…ふむ。で、そなたは討伐の連絡が無い間、優雅に娘の婚約式をしておったのだな。なんとも余裕よの。」


コデゴテと両手に指輪をつけた男が、豪華な椅子に座り、膝に乗せた猫を撫でながら言った。


「も、申し訳ありません!決して魔王討伐を軽んじていた訳ではございません。娘の婚約式はゼノン公爵からの要望で早急にとの…」


「宰相、そちは国王よりも公爵を優遇すると?」


「滅相もございません!勇者達には逐一報告を入れさせておりまして、準備に時間がかかると…」


ハッと吐き捨てるように国王は笑い、レジデントを見下ろしながら嵌めていた指輪の一つを投げつけた。


「いまさら、準備もなにもあるものかのぅ。魔剣をくれてやったというのに不甲斐ない。その指輪を勇者に渡せ。そして魔王を倒すのだ。早急にな。」


「はっ!仰せのままに。」


◇◇◇◇◇◇


遅くに王宮から帰ってきた父を、心配して待っていた娘が出迎える。


「お父様!あぁ、ご無事でなによりです。」


「レジーナ、今帰った。ロキシアル君とのデートは楽しかったかい?」


「そんなことより、また陛下から無理難題を押し付けられたのでございましょう?今度は何を?」


「……滅多な事を言うものではないよ。勇者に指輪を与えると預かってきただけだ。」


「………陛下は本当に魔王を倒すおつもりなのですか?今まで平和だったのに、何故…」


困った笑顔を浮かべ、愛娘を部屋に誘導する。


「陛下には陛下のお考えがある。私達は一臣下として、その思いを支える義務がある。」


「しかし、陛下は狂気に捕らわれているようです!もう何年も魔族からの侵略もなければ、諍いもなかったのに!それを急に!」


「レジーナ、それ以上はいけない。今は陛下を信じ、思いに寄り添う事が私達の責務だ。例えそれが狂気じみていても……」


そう、ここ何十年も他国間との戦争は元より、小競り合いすらなかった。

しかし先代国王が急逝され、現国王カノーシュに代わった途端、国内に魔族からの実害が報告されるようになった。

子供が魔族に拐われたとか、行商人の馬車が魔族に襲われたとか、辺境の村が突然攻め入れられたとか……

中には『カノーシュ国王は呪われているからだ』と国王の是非を問う声が多数挙がるしまつ。その民の不満を解消すべく、勇者と呼ばれる特別なギフトを持った人間を探し、魔王討伐を命じた。


この世界には(人間族)(魔族)(獣人族)(妖精族)の4つの国がある。

人間族は他の3種族に比べ、能力が低い。そこで創造の神は人間族に“ギフト“と呼ばれる特別な力を授けた。

それぞれ4つの国はお互いに不可侵の誓いを立て、交流も最小限に留めていた。

誓いを立てても、小競り合いはどうしても起こる。

しかし小競り合い程度。大きな問題にはならなかった。

そう、いままでは………。










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