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━━福島駅。


朝のホームで、人々が各配置されている停止線で列を作り、阿武急を待っていた。


そんな中、一人の少年がマスクの下からあくびをし、重たい瞼から涙が出そうになる。


ワイヤレスイヤホンから推しのvtuberの曲を流し、 通学バックを肩に背負いながら突っ立っている。


紺のブレザーにネクタイを締め、暗いチェック柄のズボンに、学生靴を履いている。


短髪で落ち着いており、どこにでもいる平凡な男子高校生である。


ふと隣の列に視線をやると、いつもと違う見慣れない女子校生がいた。


高校ウチと同じ制服…。


セミロングの黒髪に、前髪がパッツン。


通学バックを背負い、ちょっと短めのスカートを履いている。


眼鏡をかけて下を向いているせいで、顔までは確認できなかった。


別の列も気になり、周りをよく見渡すと、今まで見かけなかった少年少女が、自分と同じ格好をしていた。


よく頭が回らず、小さな疑問を抱いていると、向こうから声をかけられた。


「なっくん、おはよ~」


相手は彼より目線が少し高く、髪型はツーブロック。


眼鏡をかけ、同じ制服を身につけていた。


「おはよ━、未来くん」


なっくんとあだ名で呼ばれた彼、門村カドムラ 直樹ナオキも棒読みで挨拶を返した。


「なっくん、相変わらず眠そうだね」


直樹の隣にさりげなく立つ少年、友瀬トモセ 未来ミライは、気だるそうな彼に話しかけた。


「今季のアニメを全部見た後、配信を観ながらイラストを上げてたら、いつのまにか明るくなってたよ」


「通常運転で、何よりだよッ」


グッと親指を立てると、アナウンスが流れ、線路の向こうから電車がこちらに向かってきた。


「そういえばさ、聞きたいことがあるんだけど」


「何?」


「なんか見かけない生徒が、チラホラいるんだけど…」


直樹は、先ほどから気になっていたことを未来に尋ねると、少々困った表情される。


「なっくん、この前、入学式だったんだから、そりゃいるに決まってるでしょ」


それを聞いた直樹は、一瞬、間が開き、止まっていた思考が動き出した。


「あー、そっか。

新入生か」


「そう」


「後輩か」


「そうだよ」


直樹が反応する度に、頷く未来。


「すっかり忘れてた」


「うん、通常運転で、何よりだよッ」


悩みが解消した彼に、再度、グッと親指を立てた。


そんなことをしている間に、電車がゆっくり速度を落とし、目の前に自動ドアが現れた。


「そういえば、ビックニュースが入ったんですよッ!!」


「どうしたの?」


ドアが開き、列がぞろぞろと車内に吸い込まれていく。


「新学期早々、うちのクラスにねェ━━」


未来の話に耳を傾けながら電車に乗り込み、ホームにいた乗客は全員収まったのであった。




━━恵梁ケイリョウ町。


昔、城下町だったため、道が少々入り組んでおり、今では、近くに流れる広瀬川を中心に町が栄えている。


そんな広瀬川を渡る橋の上で、頭を抱えている少年がいた。


「はァ、やっちまった」


橋のど真ん中に銅像が建っており、少年は、その前でしゃがんでいた。


後ろは、刈り上げた黒髪。


慌ててたのか、軽く寝癖がある。


ブレザーの襟元からグレーのフードを出しており、Yシャツは第2ボタンまで開け、ネクタイを緩く締めている。


通勤ラッシュで車が往来する中、 銅像の脇に停めてある自転車に再度ため息を吐く。


どうやら、チェーンが外れたらしい。


何度直しても外れるし、最悪だ…。


しかも、微かだが、背中に感じる視線が痛い。


気になってチラッと振り向くと、向こう側の歩道から通りがかりの生徒が何人もこちらを見ていた。


目があったらまずいと思ったのか、とっさに視線をそらされてしまう。


その後に気だるそうにバックを背負い、朝が弱いのか、若干足取りが悪い女子も続いた。


スマホに夢中になりながらも、ゆっくり通り過ぎていく。


━━この状況、非常に恥ずかしい。


「朝っぱらからムッツリ発動してんなで」


すると、いつのまにか少年のそばに、自転車に乗った生徒がいた。


「なッ、ナベショーッ!?」


突然現れたナベショーこと、渡辺ワタナベ ショウの登場に、激しく動揺する。


ナベショーは、ベリーショートの黒髪で、黒のパーカー以外、少年とほぼ似た格好をしていた。


中腰でハンドルに両腕を乗せ、呆れた表情で少年を見下ろす。


「別に、ムッツリとかじゃ━━」


「そんなことより、チャリンコどうしたんだで?」


少年の言い分よりも、自転車の状態を気にする。


「なんかチェーンが緩んでるみたいでさ。

何度直しても駄目なんだよ」


だらんとぶら下がっている汚いチェーンに、落ち込む少年。


「修理に出した方がいいんでね?」


「いやァ、今月ピンチでさァ。

バイト代入るのもう少し先だし…」


そんな話をしていると、ナベショーがスマホを取り出し、表示画面を開く。


「そっかッ! しゃァねェなッ! そんじゃッ!」


「ちょい!ちょい!ちょい!ちょい!!」


テンポよく挨拶し、ペダルを漕ぎ始めたナベショーを慌てて制止させる。


「おッ、オイ、置いていくのかよ!?」


「ケータ。

時間青春は、待っちゃくれねえんだゼッ!!」


爽やかな表情で決め台詞を吐き、全力でペダルを踏み込んだ。


「えッ!? ちょッ、ナベショォォォォォッ!!」


全速力で小さくなっていく彼の背中に絶叫する。


朝からついていない長谷川ハセガワ 佳汰ケイタを残して…。




━━県立恵梁高等学校。


傾斜が激しい道を越えた先に現れるその高校には、50年以上の歴史があり、学年ごとに100人近くの生徒が在籍している。


通うだけでも困難なこの高校の校門をくぐり、昇降口の下駄箱で、上履きに履き替える生徒達。


その中でも、少々暗めのブロンドは、特に浮いてしまう。


七三のセミロングで、左のこめかみの生え際から耳にかけて、細めの編み込みをしている。


ブレザーの中に黒のニットカーディガン。


裾下のスカートの柄が少しだけ顔を出し、黒い靴下を履いている。


少女は、自分の下駄箱に靴をしまう際、ふと、入り口に目をやると、膝に手をつけ、くたびれている女子が目の前にいた。


一瞬驚いたが、ゼェゼェと息切れをする彼女に恐る恐る近寄っていくと、すぐ顔を上げたため、咄嗟に身構えてしまう。


「あッ、すいません」


さらっと謝罪を済まされるが、相手の血色は悪い。


少女よりも少し身長が小さく、独特の雰囲気を醸し出している。


今まで使われていなかった下駄箱を開け、淡々と上履きに履き替えはじめる。


ここ、2年3組ウチのクラス…。


そう思いながらも、伝える隙が見当たらず。


その時、相手がかけていた眼鏡のレンズに、うっすら少女の顔が反射した。


「職員室って、どこですか?」


唐突に尋ねられ、動揺しながらも指を指した。


つられてその方角の先を向いては、一言礼を言う。


「ありがとございます」


愛想なくそのまま自販機の前を横切って行った。


気になって下駄箱から様子を伺うと、階段のそばで辺りを見回している姿があった。


一人でキョロキョロしているシュールな画に、思わず鼻で笑ってしまう。


少女は、彼女に近寄っていき、階段に手を差して案内することにした。


2階に上がり、職員室のプレートが見えては、再度、少女にぎこちなく礼を言う。


少女は、笑顔で軽く手を振り、掲示板の前を通って去っていった。


窓の陽光を浴びる少女の後ろ姿に、つい見とれてしまったが、一つ疑問を感じた。


あの人、何で喋らないんだろう・・・・・・・・?━━。




━━2年3組。


「小賀坂さん、おはよ~」


教室に入ると、廊下側からの席から未来に声をかけられた。


少女、小賀坂コガサカ 志保シホは微笑み、手を振り返す。


すると、未来の隣の空席が気になり、指をさす。


「あ~、ケータはね、チャリのチェーンが外れて遅れるらしいよ。

ナベショーが言ってた」


ナベショーは、窓際の最後尾の席で他の生徒と話をしていた。


その時、ナベショーの隣に身に覚えのない机が設置してあることに気付く。


そして、 チャイムが鳴り、みんな自分の席に戻り始めたので、志保もすぐケータの後ろの席に着いた。


未来に手を伸ばし、あの席は何なのか指を差す。


「よくぞ聞いてくれました。

これからわかるよ。ねぇ?」


未来はすぐ後ろの男子に話を振る。


「そうそうッ! まッ、楽しみにしててよ」


お互いにニヤニヤしている様子から、あることを察した。


出入口の戸が開き、先生が教卓に立つと、出席簿を置いた。


「突然ですが、このクラスに転入生が来ることになりました」


いきなりの発表に周囲はざわつくが、先生は、構うことなく廊下で待たせている者に声をかける。


その者は静かに入室し、先生の隣に立ち止まった。


志保は、目を丸くしながら転入生の自己紹介に耳を傾けていると、廊下からものすごい足音が響いてきた。


そして、勢い良く戸を開けて、教室の注目を一気にかっさらった。


「すッ、すいません。

ぜェ、おッ、遅くなり…、あれ?」


汗だくで駆け込んできたケータは、いつもと空気が違うことに気がつく。


それをナベショーと未来は笑いを堪え、志保は呆れて軽く首を振っている。


「お~、ケータ。

改めて紹介するから」


ケータは、この状況が理解できておらず、ただ目の前にいる女子には、どこか見覚えがあった。


「今日からこのクラスの一員となった、ホシ 鈴音スズネさんだ」




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