不死の輩





そこは間違いなく街だった。これまで幾つか来訪した村とは、明らかに規模が違う集落。それはかなり、中央に近づいて来たという証座であり、また、発展が進んでいっているということはつまり、人の数が多いという事でもある筈だ。



であるのに。この街には、活気はまるでなかった。

それは初めて辿り着いた村よりも、余程、余程。



「なまじ、王都に近いから故だ。

この街の有様はな」



「それがダメなの?」



「発展による叛逆を恐れるあまり、街が栄えるような全てを禁じているのだ。その末路が、この街だ」



「…でもイドはここに用事があるんでしょ」



「ああ。栄える物が禁じられた街。それらが生き延びるにはどのような事をすれば良いか。考えれば、自ずと分かってくる筈だ」



そう言われても、クシーには分からない。事前知識が全く無い為、イドどころかそこらの人々にとっても当然であることが、彼女にとっては常識で無いのだ。そうして首を傾げる彼女を見て、イドはふむ、と顎に手を当て思案する。



「そうだな。いっそ、その目で見てみるか?この街の探索だ」


「……そんなことしてる余裕あるの?」


「無い。だが、貴様がその目でこの世を見る事は、必要性と理由がある。だからそれくらいの時間は取るさ」



「ふうん。でも、そんなのしなくても…」



「いいや。むしろ見て欲しいのだ。

お前が見て、どのように思うか。それを知りたい」




この目で見る。その強調は、彼にとっての何かへの復讐なのか。そう考えて、しかしそれとは違く感じた。


これは、なんだろう。ある種の、この世を見てほしいという自虐じみたものなのだろうか。何も知らない竜へ、伝聞でなく、その目で人の世の醜さを感じ取って欲しいというような。


そうして、この場で初めて思い至る。



(そうだ。私はイドが何に復讐をしたいかすら、知らないんだ)



あの時。復讐に力を貸せと、言った。不利益になる事ばかりをしている事から、王都に根差した何かについてを憎んでいる事も、よく分かる。


だがそうして、存在するかも確かでない竜との契約を結んでまで、何をしたいのか。あの時はそんなシンプルな事さえ、興味が無かった。ただ自分を殺してくれさえするならば、それだけで良かったのだから。



「…クシー。どうした?」



(…今は…)



今は、どうだろう。無関心ではない。共に旅しているから思わざるを得ないだけか、はたまた彼そのものに関心を抱いているのか。何にせよ、前まででは考えられなかった事だった。これが、感情が人らしくなる、ということなのだろうか?




「クシー。…気が乗らないなら、やめにするか?」



「……ごめん。他の事を考えてた。

ううん。せっかくなら見ていきたい」



「そうか。それなら良かった」



ホッとしたように、ため息をつく騎士。

その姿をなんとも言えない心持ちで見つめる。

この男は時たま、本当にあの狂った者と同一人物なのか?と問いたくなるほどに温厚な様子を見せるのだ。




「では、貴様一人で行くか。

それとも、俺も着いていくか」



だから、その発言はクシーにとって意外なものだった。その、いつもは過敏なほどに保護をしてくるその姿を知っているからこそ。



「私一人でもいいの?てっきり、心配だから一緒に…なんて言うと思ったのに」



「そうも思ったが…

契約で大まかな貴様の位置くらいなら分かる。

何より、今の貴様なら自衛は出来るだろう」



自衛、と彼が言うのは、人の姿のまま、身体の一部のみを竜とするあれの事。この街に来るまで、幾度となく『実技』を踏まえて練習してきた。確かに今となっては、自由自在とまではいかなくとも、ある程度自由には出来るだろう。




「…それなら、一人で行く。

イドだって、色々と準備があるでしょ」


「ああ、気を遣わせてしまったか。すまない」


「ううん。一人になりたいのもあるから」



「そうか」



「うん。そう」




そうして、二人は別行動へと移る。

片方は市街地へ、片方は路地の裏へ。


少女の目は虚のまま。しかしまたそこには確かに、ほんの微かではあるが、好奇の心が浮かんでいた。






……




閑散とした路地の裏。

人々は皆その目から光を失い、ただ佇む。ぐらりと力尽き斃れる人を見るのはこれで何人目か。


その中で明らかにクシーは『浮いて』いたが、それに関心があるように目を向ける、そんな余裕すらも無い者が殆どだった。




「なあ、そこの子。ちょっと良いかな。道聞きたいんだ!」




そのような声をかけられたのは、そうしてあてもなく街の様子を見ていた時の事だった。


軽薄な声だった。

それは上滑りするような、それでいて心に溶け込むような親しみが持てるような音であり、そしてまた、好感の持てる形をしていた。

見た目もまた、好感を持ちやすい。白色に染め上げたハード・レザーを着込み、刃部分に鞘を被せた短槍を背負う。白色の巻き毛を揺らし、ぎこちなく、整った顔を笑顔に歪める。


そんな、爽やかで軽薄な男だった。


それが小走りでこちらに近づいてきて、そして話しかける様子。それにクシーは、うんざりとした気持ちと。



(…?なんだろう)



…何かよくわからない、既視感を感じた。

当然、会ったことなど無いのに。



「ああ、よかった。ようやく話せそうな子が居たや!いやもう、ここら辺道すげえややこしくってさ。道を聞こうにもまともに話せそうな人も居ないしで困ってたんだ!」



「…」



「…あれ、返事できる?さっきちゃんと歩いてたよね?無視しないで貰えると嬉しいんだけど」



「……何」



「あ、よかった。やっぱり喋れるよね。うん、その単純に言うとさ。この辺りの道を教えて欲しいんだって。もう迷っちゃって迷っちゃって、すごい方向音痴なんだ俺」



「…私も来たばかりだから分からない」


「え」




そう答えると、愕然としたように口を開ける男。

少女はうんざりしたように顔を逸らし、ため息を吐く。




「本当?」


「本当」



「えー…そうか。じゃあ仕方ないかなあ…」




そう、がっかりと立ち去ろうとするその男の背中。

それを見て、一瞬迷い。やめておこうかと思ってから。



「待って」



竜が引き止めた。せっかくならばと、何か見なかったかと。この街の産業。後ろ暗い、暗部とも言えるようなもので思い当たるようなものは無かったかと、そう問いてみたのだ。


それを聞くと、男の表情は、するりと変わる。

笑顔、軽薄は消え。ぴりと張り詰めた顔に。




「…一つ、あるっちゃある。

けどそれを見てどうしたいの、キミ」



「…連れに、この目で見た方がいいって言われた。

だから、見てみたい」



「…連れ?

ふむ、本当なら追い返すところだけど…」



「……」




「…その目。成る程、理由があるみたいだね。

なら、いいよ。俺が案内しようか」



「…あなたが?」



予想外の返答に、そう言葉が出た。

男はそれに頷く。顔にはまた、軽薄な笑み。



「ああ。どうせ俺が迷ってるのは変わらないし、キミ一人だけそんな場所に送り出すのも忍びない気がするしね」



そう言うや、先導するように後ろを見ながら歩き出すその騎士。



(……)


クシーはこの男が、人攫いか、女衒であったりするかもしれないとも思った。あまりにも怪しいと。


だがそうであったのならば殺してしまえばいい。考えるのも面倒臭くなり、そう、半ば投げやりに考えて、クシーはそれに着いていった。







……




おぞましい。

素直にそう思った。


嬌声というよりは、悲鳴に近しい。そんな声があらゆる所から聞こえた。そしてこの光景が、先程よりさほど奥ばった場所でないということが、更におぞましさを増させていた。これは、この光景はもうそろそろで、表に出るようなものなのだと。



「…この街には娼館が無いんだ。

その意味が分かるかな」



案内してきた男は、クシーにそう語る。

今となってはよくわかる。

この光景を見てしまった今となれば。


娼館の必要が無いのだ。

やれることの全てを禁止され、また、なまじ中央に近いせいで、監視も厳重。そのような所では、やれる事が何もない。何をやろうともやれず、そして禁じられるのだから。


だからこそ、まぐわいしかやる事が無い。

そしてだから、子供が『余る』のだ。


その子供を売る事で、新たな快楽への切符を手にしていた。

生活を凌ぐための生き口。

当然、それに伴い死者は増える。疫病も蔓延する。

だから人そのものも少なくなる。



「俺が見た、後ろ暗いものってのはこれ。子供を売り払った、有様。キミのその…連れは、これを見て欲しがってたのかな」



「…わからない」



そうだ、わからない。

彼が見るべきと言ったものは果たしてこれか。

この街に、他にこのような醜いものがあるのか。



「なんにせよ、性格が悪いねえ。

こんなものをキミみたいな子に見せるなんて」



男がへらりとそう言った瞬間。

クシーの頭にかっと血が昇った。

何故そうなったかは彼女自身よく分からなかったが、それでも確かに、かちりと脳に怒りが来た。



「そんな事無い」



「っと、ごめんごめん。

キミの連れを馬鹿にするつもりじゃないんだ。

ただ単純に、趣味が悪いと思ってさ…」



「うるさい。もう、黙って」



「はは、こわいこわい」



そう、けらけらと笑うように馬鹿にする男。クシーはそれに、憤りのまま背中を向け、早歩きで場を離れようとした。

その背に、男が言い放つ。



「あれ、もう行くの?なら、ちょうどいい」



「キミのその連れに伝えておいて。

『また逢おうぜ』ってさ」





「…え?」



その言葉の意味を咀嚼できたのは、数歩の後。

また、とはどういう事なのか。 

連れに伝えるとは。

イドに伝えて、どうすればいいのか?



「…どういう意味…」



振り返り、問い直す頃には。

もうその男はそこには居なかった。ただ風が去ったように、どんよりとした路地裏の空気だけがそこにあった。



(……?)



疑念を感じながらも、契約印に集中した。イドは今、何処に居るだろうか。今はそれだけが気になって仕方が無かった。

そう考え、漠然とした不安を無かったことにした。





……




「…それで、私を売ってから。内部から巣ごと壊す。そういうこと?」


 

クシーが騎士を見つけたのは、そのすぐ後の事だった。

早速、見てきたもの、子を売る有様、それについてを話した。そしてそれを潰す事が目的なのかと。ならば、私がやる事、やれる事はそれかと、クシーは話す。


それをした騎士の反応は素っ頓狂なものだった。

きょとんとした、間があり、その後に言った。




「何を言っている?そんな事、するわけがないだろう。万が一にも貴様を失いたくない」


「え…そ、そう」



…これが、出会い頭に左腕を切り落とし、そのまま戦場に放り込んだ男の言うことだろうか。全く、碌でもない事だ。であるのに、その発言に少し高揚してしまう自分が、彼女自身不思議だった。



「ふむ。確かに、この街では子供が売られてる。だがそれはこの街に限らない事だ。何よりその産業はこちらとしては有り難いのだ」



「?どうして」



「まだ年端も行かぬ子供たちなど、労働力として使うにも難しい。であるのに、あまつさえ奴らは兵士にしてるからだ」


「つまりは、練度の低い兵士の作製を次々としてくれているのだ。不出来な兵は士気も、資源も食い潰してくれる。故に、ここはありがたく放置をする」



成る程、合理的で、そして残酷だ。

人の感情などを置いて、この男はいつでも、命を何かに使われる消耗品程度にしか思っていない。



「しかし…よくもまあ、そこまで辿り着いたな。俺は往来を歩く兵士の鎧や武器を見るだけを想定していたのだが」



「うん。案内してくれた変な人が居たの」



「む。人攫いじゃないだろうな。

付けられてないか?何か盗まれてはないか」



「…そう言うのじゃ、ない。ここに来たばかりだって言ってたし、そういうのではないよ。ただ失礼な、変な男だった」



「変な、か。ふむ、どんな奴だったのだ」



「うん。騎士だった。白い鎧の、槍を持った」





瞬間。空気が凍り付いた。

空気が冷たく、それでいて肌が焼け付くようだった。警戒、殺気、それら全て。それはただ、イドから発せられていた。



「…………」




何かまずい事を言ったのかと、聞き直すことも出来ず、固まってしまうほどに。ただ、何もできずになるほどに。




「………その男。何か言っていたか」



「え…『また、逢おう』って、伝えろって」



「……そうか。何処に居た?」



「まだ、路地裏に」



「そうか。わざわざ伝えてくれたのだ。

逢いに行こうじゃあないか。今、すぐに」



「え?ちょっと、待っ…待って!」




ゆっくりと歩き出すイド。後ろにいる少女を待ちはしないまま、有無を言わさず進む。竜はただ右も左も分からないままその背を追いかける。

ただ、それしか出来ないままに。






……




気付けば、またその路地裏へ。

おぞましい、嬌声が響く壊れた路地。


そこの奥に進めば、その姿はまだあった。

悩むように、迷ったままに。




「やあ、キミ。さっきぶり」 



「……ッ」



こちらに気付き掛けてくる、軽薄さを感じる声。

その声に、初めてぞっとするものを感じた。牙を向けられて初めて、捕食の対象になったと気付く兎のように。



そうだ。

何故気付かなかったのだろう。

どうして気付けなかったのだろう。

男に感じた、既視感の正体に。

気配というべきか、匂いというべきか。

獣臭。その、独特の香り。


この男のそれは、イドにそっくりなのだ。




「……久方ぶりだな、ニコ」



「よお、久しぶり。イド。

わざわざ逢いに来てくれるなんて嬉しいな」



声音は、二人ともごく優しかった。

旧友に出会ったかのような、そんなものだった。







……





瞬間の声音、距離。全てが、友人との邂逅と言われたら信じそうなものだった。


だがしかし、纏う気配だけが、それがそうでないと証明する。空気が歪みそうなほどの緊迫。今にでも、殺し合いが始まりそうな程に。



竜が汗をかいた。人の身体を真似てから、初めての経験だった。



緊迫が、世界を包む。

広がり、瞬きにその濃さを増して。




「いや」



最初に緊張を裂いたのは軽薄な男。

ニコと呼ばれた、その男の声だった。



「今日は、やりあうのはやめとこう。そんな気分じゃないし。何より、その子を守りながらじゃどうやっても勝負にならないだろ」




そう言われたと同時に。

互いから張り詰めた空気が解けた。

人知れず、クシーがため息を吐く。







刹那。

互いの首筋に刃が突き付けられた。




イドの首筋には短槍の刃先。

ニコの首筋には奇剣の剣先。


竜が驚愕したのは閃光じみた二人の動きでは無い。消え失せたはずの殺意の再びの発露でも、無い。


ニコの持つ、槍のその穂先。そこについた刃は、二股に別れ、音叉のようだった。イドの持つ奇怪な剣と、同じように。




「良いなァ。さすがイド」



「死ね」



両の身体の中央で、蹴りがかち合った。

反動で両者が同程度後ろに飛ばされる。

互いに体勢を整えたのは、同時。


巨大な剣を振りかぶる。

槍を構える。

瞬間に、火花が宙に咲いた。それぞれが構え、構える度に幾度も幾度も。

そしてその度に、ごきぃ、のような、ぎりい、のような。鋼で鋼を叩き絞め殺すような音が響く。


暫くの後。

ごきいん。その一際大きい音と共に、永劫に思えた咬合が止まる。別れた槍の穂先が、剣を捕らえていた。互いが互いを押し合う、鍔迫り合いじみた形。ぎりぎり、ぎちぎちと、鉄が擦れる音が響く。



(…今だ)



クシーは、その鍔迫り合いをしている瞬間こそ隙と感じた。目の前の男を撃ち殺さんとする。役に立たねば。イドだけに任せず、彼の役に。

目標はあのニコという男。尾撃を放つ。

これで、奴を射抜けば、終わる。


尾を、放



「撃つな、クシー!」



びくり、と反射的に止まる。血錆の男は、意を向ける余裕など無い筈なのに、こちらに顔まで向け、そう叫んでいた。

そこには確かに彼の、初めて見る焦りが有った。



隙だらけだった。

幾らでも短槍を刺し、殺す時間があった。

だがニコはそれはせず、ただそれを見つめていた。その、少女に警告をする騎士の姿を。

そこには驚きと、そしてまた、隠しきれないほどの失望がある。


 


「へえ。本当に、その子が大切なんだな」



「………そうだ」



「そっか。そりゃあ、いいことだ」



そう言うと、ふと、また殺意と張り詰めた雰囲気が消える。今度は先程のような、油断させる嘘でなく、真実のもの。

先程が出した玩具を仕舞ったような消え方であるとすれば、今回は泡が弾けたように消えた感触。そのように感じた。




「…なんか萎えちまった。今日はやめにしよう」



「……そう、するか」



「応。またな、イド」



「ああ。その時には俺が殺してやる」



「お、いいね。

今度逢ったら、次は死ぬまで殺りあおうぜ」




ニコはそう言いきると。最後にクシーを見て手を振る。そしてそのまま、背中を向けて路地の裏に更に迷い込んで行った。


迷っていた、というのも嘘だったのだろうか。何にせよ、その背中には、軽薄な雰囲気がまたゆっくりと漂い始めていた。


クシーには、それがただ怖かった。




「…追いかけなくていいの?」


「良い。今戦っても、恐らく奴には勝てん」




その発言の後に、ブチブチブチ、という音と共に鮮血が兜の隙間からこぼれ落ちていく。下唇を噛みちぎるほどに、噛み締める様。


ああ、そうか。

今の男が、復讐の相手なのだ。

もしくは、復讐の内の一人か。


だからこそ分かった。それほど憎悪を向ける相手であろうと、ここで見逃すということは、今戦えば勝てないという事が、紛れもない事実である事。


そして、そんな相手に隙を晒してでも、自分を止めて、守ってくれたという事。




「今のは、誰」



「ニコか。俺の仕事仲間だった」



「…それだけ?」



「それだけだ。それ以外を語る必要は無い。他に貴様が知るべきは、俺が殺そうとする相手だと云うことだけでいい」




好奇心。

やはり、前まではそう言われようとも、関心など全く浮かばなかった。だが今となっては、気になる。彼がどのような仕事をしていたのか。イドが何故、このような殺戮を働くようになったのか。


そして何よりも。

今、心にあるもやりとした感覚は何か。


答えは、出ない。






……




「……話を戻さねばならんな」



しばらくの後。

イドが、深呼吸をしてからそう切り出す。

そうだ。すっかりと忘れていたが、二人は『何を目的にこの街に来たか』、それについて話している最中だったのだ。



「街が生き残るためにはどのような事をすればいいか。つまりは、『直接下賜された仕事』。王城でやるにはあまりにも薄ら暗い仕事という事だ」



それを言うと同時に、イドは背嚢から何かを取り出した。腕だった。この街の衛兵の、肘から先。まだ腐っていないそれは先程取ってきたモノだろうか。




「見るべきは、この鎧…って言ってたっけ」


「ああ、その通り。触ってみても良い」



言われた通りに、触ってみる。

するとそこに、ぎょっとする違和感がある。


これは鉄じゃない。ましてや鉄の鎧の見た目をしてはいるが、その素材が、全くもって違う。それより硬く、そして柔らかい。

これには触った事がある。これは…



「……ゴーレムの、皮膚?」



「ほお、知っていたか。…その通り。

それを加工した物を此奴らは鎧にしている」



それが、下賜された仕事だと云うのだろう。

これをする事により、この街は。そして、後ろ暗い仕事を任せる事により、城は、ただ権威を守っているのだ。それが汚いものをただ押し付けるだけの、仮初のものだとしても。

だからこそ、今回の目標は。




「そうだ。此度の目標は、ゴーレム退治だ」



言い放つ騎士の、兜の奥の目が、ぎしりと歪む。

その目を竜は、じっと眺めていた。




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