第12話(3)フンミの本気

「ぎ、技量特化だと……」


「ああ、そうだ」


「と、飛んでいるのは一体どういうわけだ?」


「極めれば、空も飛べるはず……」


「いや、その理屈は絶対におかしいだろう!」


「だって飛べるんだから仕方ねえだろう!」


「まるで子どものケンカね……」


 カンナが呆れ気味で軽く額を抑える。タイヘイが立ち上がる。


「まあいいさ、かまいたちで切り裂くまでだ!」


「ふん!」


「なっ⁉」


 タイヘイが右手を振るって斬撃を飛ばすが、フンミは軽やかにそれをかわしてみせる。


「へっ!」


「むっ!」


「そらっ!」


「ぐはっ!」


 懐に飛び込んできたフンミの蹴りを食らい、タイヘイは後退する。


「ふふっ……」


「な、なんでだ……スピード自体はさっきよりも落ちているはず……」


 タイヘイは蹴られた胸のあたりを抑えながら呟く。


「……技量特化だと言っただろう? この型ならばお前の放つ斬撃をかわすことくらいわけないのさ」


 フンミが両手を広げて肩をすくめる。


「それならば!」


「おっ!」


「連続の斬撃はどうだ!」


 タイヘイが両手を素早く振り回す。


「ふふん!」


 フンミが連続して向かってくる斬撃をこれまたかわす。タイヘイは驚く。


「な、なんだと⁉」


「隙あり!」


「しまっ……!」


「おらおらっ!」


「がはっ!」


 再び懐に入り込んだフンミの蹴りを連続で食らい、タイヘイは後方に倒れ込む。フンミが笑みを浮かべる。


「連撃のお返しだ……」


「く、くそ……」


 タイヘイが半身を起こす。フンミが納得したように頷きながら呟く。


「なるほど、そのタフさが超人としての流れを汲んでいるっていうわけか……」


「な、なんで……」


「あん?」


「なんで斬撃を簡単にかわせるんだ……?」


「……お前の腕の角度などから軌道がある程度予測出来るからだよ」


「! そ、そんなことが……」


「出来るんだよ、技量特化……つまり、今の俺は達人の領域に達しているからな」


「腕の角度か……それはいいことを聞いたぜ」


「ん?」


「それならば、これならどうだ!」


 ガバッと立ち上がったタイヘイが両手をめちゃくちゃに振り回す。


「うぜえな!」


「ぐはあっ……」


 フンミがタイヘイの後方に回り、斜め下から脇腹を蹴り上げる。タイヘイがよろめいた後、膝をつく。フンミが淡々と告げる。


「言っても無駄だろうが、一応言っておく。お前の場合、ベースが人間のそれみたいだからな、腕の可動域にはどうしたって限界がある。その死角に回りこめばいいだけのことだ……」


「ぐ、ぐっ……」


「さらに付け加えるなら、お前は斬撃を放った後、けっして小さくはない隙が出来る。そこを冷静に突けばいい……」


「ご、ご指導ありがとうございます……って言うべきか?」


「そんなの要らねえよ、金ならもらうが」


「あいにく持ち合わせがねえ……」


「まるでいつもはあるみたいなこと言うなよ」


「ふっ……」


 タイヘイが笑う。フンミが両手を大げさに広げる。


「特別だ。サービスしてやるよ」


「それはありがてえ……なっ!」


「!」


 タイヘイが足を刃に変えて、斬撃を放つ。フンミがそれを飛んでかわす。


「当然、飛んで避けるよな!」


「‼」


「な、なんだと⁉」


 タイヘイが空中に向かって斬撃を放つが、フンミは天井ぎりぎりまで上昇する。斬撃はそこまでは届かなかった。フンミはタイヘイを文字通り見下ろしながら呟く。


「……この場所がアホみたいに天井の高い玉座の間で良かったぜ。お前の斬撃にも射程ってもんがあるようだ……」


「くそっ……」


「もしかしたら射程をもっと伸ばせるのかもしれねえが……いわゆる鍛錬不足ってやつだな」


「まあ、そういうのはこれで補えるから……な!」


「なにっ⁉」


 フンミが驚く。タイヘイが足の裏から強風を噴き出し、空に飛んできたからである。


「おらあっ!」


「ごはあっ⁉」


 タイヘイがパンチをフンミの腹に叩き込む。フンミの体がくの字に曲がる。


「もう一丁!」


「くっ!」


 フンミがタイヘイから離れる。


「遅えよ!」


「ぶはあっ⁉」


 タイヘイが素早く回り込み、フンミに強烈な回し蹴りを食らわせる。フンミが地面に激しく叩きつけられる。今度はタイヘイがフンミを見下ろしながら呟く。


「まあ、斬撃の射程を伸ばすってのは、良い考えだ。今度試してみるわ……」


「そ、そんなことより!」


「うん?」


「な、なんだよそれは⁉」


 半身を起こしたフンミがタイヘイの足裏を指差す。タイヘイが腕を組んで答える。


「ロケットブースターだ」


「はあ⁉ てめえ、『機』の流れも汲んでやがるのか⁉ 聞いてねえぞ!」


「そりゃあ言ってねえからな……」


 タイヘイがゆっくりと地面に下りる。フンミが指折り確認する。


「『人』、『獣』、『妖』、『機』のクオーターってことか……そんなやべえ奴がいるとは」


「やべえだろ、降参するんだったら今だぜ」


 タイヘイが腰に手を当てて胸を張る。立ち上がったフンミがひょうたんを飲む。


「ふん……ひっく」


「まだ飲むのか? ひょっとしてあれか? ヤケ酒ってやつ……か⁉」


 フンミの引き裂くような攻撃をタイヘイは食らって吹っ飛ぶ。


「……攻撃力特化の『白虎の型』……遊びの時間はもう終わりだ」


 フンミが虎の姿を模した構えを取る。

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