第12話(2)足癖と酒癖
「は、速さ特化だと……?」
タイヘイが起き上がる。フンミが感心する。
「へえ、まだ起き上がるのかい?」
「あ、ああ……」
タイヘイがゆっくりと立ち上がる。
「タイヘイ殿!」
カンナが声を上げる。
「ふん!」
「む!」
「遅えよ!」
「がはっ!」
フンミが距離を詰めてきたことに対し、ガードを固めようとするタイヘイだったが、そのスピードに反応が追いつかずに、攻撃を食らってしまう。
「はっ、どうした?」
「くっ……」
「おらおらっ!」
「ぐうっ……!」
フンミが連続攻撃をかける。タイヘイはそれについていくことが出来ない。
「おらあっ!」
「ぐはっ!」
フンミの拳を受け、タイヘイが再び倒れ込む。フンミが鼻で笑う。
「はん、こんなもんか……」
「ぐっ……」
タイヘイが再び立ち上がる。フンミが肩をすくめる。
「そのまま寝ていた方が良かったんじゃねえか?」
「酒は一人で飲んでもつまらねえだろう?」
「お前さんじゃあ、酒の肴にもならねえよ」
「へっ、そうかい……」
「そうだよ」
「そのわりには……」
「あん?」
「とどめをさせていないな」
「……」
「何故だか分かるか?」
「……なんだよ?」
「速さに特化するあまり、一撃一撃の重さが軽いんだよ」
「ああん?」
「もっとしっかりと叩き込んでこいよ……!」
タイヘイが自らの胸をドンと叩く。
「特別武術師範の俺に対して指導とは……随分と傲慢な奴だな」
「これは余裕ってやつだよ」
「お望み通り、叩きこんでやるよ!」
フンミがタイヘイに迫る。
「はっ!」
「ぬおっ! なっ⁉」
フンミが転倒する。何事かと自らの脚を確認してみると、切り傷がある。次いでタイヘイに視線を移すと、両手が鋭い刃と化したタイヘイが立っていた。
「ちっ、仕留めきれなかったか……」
「な、なんだ、その姿は⁉」
舌打ちするタイヘイに対し、フンミが問う。
「これか? かまいたちだ」
「かまいたち?」
「簡単に言うと、風を操る妖怪みたいなもんだ」
「妖怪だと?」
「ああ、そうだ」
「人と獣のハーフじゃねえのか、てめえは?」
「え?」
「え?じゃねえよ、『妖』の流れも汲むとは聞いてねえぞ!」
「そりゃあ、言ってねえからなあ」
タイヘイはわざとらしく大げさに両手を広げてみせる。
「ちっ……俺を誘いやがったな?」
「ん?」
「しらばっくれんな、俺の動きを直線的に限定させて斬撃を放った……そうだろう?」
「……まあ、それくらいはすぐに気付くか……」
「タイヘイ殿! そんな簡単に手の内を明かしてしまっては……!」
「まあまあ、心配すんな、姫さん」
カンナに対し、タイヘイは片手を挙げる。
「しかし……!」
「ちょうど良いハンデさ」
「! ハ、ハンデだと? 舐めやがって……!」
「お、怒ったか?」
「ふざけんなよ!」
「おっと⁉」
タイヘイの前からフンミの姿が消えたようになる。フンミが叫ぶ。
「依然として、俺の速さを捉え切れていないことには変わりはない! 対して、俺はお前のその刃だか、鎌だかの軌道はもう見た! 終わりだ!」
「……よっと!」
「! ぐ、ぐはっ……!」
タイヘイの後ろに回り込んだフンミだが、斬撃を食らって仰向けに倒れる。片足を刃に変えて、後ろに軽く上げたタイヘイが笑う。
「……手の内は明かしたが、足の内は明かしてなかったんだな、これが」
「あ、足も変化するのかよ……」
「どうやらそうみてえだな、正直俺もよく分かっていなかったけど」
「くそが……」
フンミがゆっくりと立ち上がる。振り返ったタイヘイが首を傾げる。
「攻撃が浅かったか? だけど、もう動かない方が良いんじゃねえか?」
「ふん、まだだ……!」
フンミがひょうたんを取り、酒を飲む。タイヘイが顔をしかめる。
「うわっ……傷に染みるぜ?」
「ヒック! 余計な心配だよ!」
フンミが両手を広げてポーズを取る。タイヘイが首を捻る。
「……虫か?」
「違えよ! 鳥だ!」
「鳥?」
「はっ!」
「むっ⁉」
飛ぶように舞い上がったフンミがタイヘイの斜め上に接近する。
「そらそらっ!」
「ごはっ⁉」
フンミの蹴りを食らったタイヘイが後方に吹っ飛ぶ。
「ふん……」
「と、飛んでいる⁉」
カンナが驚く。フンミが空中に浮かんでいるからである。タイヘイが半身を起こす。
「くぞっ、本当に酒癖が悪いな……」
「そう褒められると……照れるな」
「褒めてねえよ!」
「そうか? まあ、技量特化の『朱雀の型』……とくと味わえ」
フンミが空中に浮いたまま両手を翼のように大きく広げ、あらためて構えを取る。
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