第8話(4)姫様の奮戦
「シ、シモツキ……」
「……三将の無力化を確認しました」
ハヅキが機械的な口調で呟く。
「頼みの三将は倒れましたよ?」
「くっ……」
ナガツキの言葉にカンナは唇を噛む。
「さてと……」
「……」
両手を広げたナガツキに対し、カンナは馬上で薙刀を構える。
「おやおや、まだやる気ですか?」
「……黙って命を取られるわけには参りません」
「ふむ、生き物としての生存本能ってやつですかね?」
ナガツキが顎に手を当てて呟く。
「……わたくしはまだ無傷です」
「この状況ではそれもあまり意味が無いと思いますよ?」
「………」
「……ひとつ、お伝えします」
ハヅキが口を開く。
「?」
「先ほど、キサラギ様から伝えられていた……潜伏先でしょうか? 既にそちらにも兵を差し向けました」
「!」
「ですので、そこに逃げ込もうとしても無駄なことです」
「な、なぜ……?」
「私、耳の性能もよいもので。こそこそ話もしっかりと聞こえてきます」
ハヅキが耳に手を当てる。
「むう……」
「さすがハヅキちゃん、万事手抜かりが無いね~」
「メイドとして当然のことです」
近寄ってきたナガツキに対し、ハヅキが軽く頭を下げる。
「み、皆の命は保証してもらえないでしょうか?」
「‼」
「カ、カンナ様⁉」
カンナの言葉に、彼女の周囲にいた兵士たちが驚く。ナガツキがハヅキに尋ねる。
「……どうなの?」
「『殲滅せよ』といった類の指令は承っておりません。投降などはどうぞご自由に」
「そうですか、それを聞いて安心しました……」
ハヅキの回答にカンナが笑みを浮かべる。
「カ、カンナ様……?」
「皆、三将のことをよろしく頼みます……」
カンナは周囲を見回して、優しい声色で告げる。
「ど、どうされるおつもりですか?」
「無論、突破口を開きます!」
カンナは薙刀をナガツキたちに向ける。ナガツキは口笛を鳴らす。
「~♪ なんとも勇ましい限りだね」
「ならば……!」
「むっ!」
ハヅキが飛びかかり、強烈な蹴りを放つが、カンナが薙刀の柄で防ぐ。
「ほう、薙刀を器用に扱って……さすがでございます……」
「えい!」
「はっ!」
カンナが押し返すと同時に薙刀を振るうが、ハヅキは後方に飛んでかわす。
「くっ……」
「次は仕留めます……!」
「ふん!」
「むっ⁉」
カンナが薙刀をかざすと、破裂音がして、ハヅキが後方に吹っ飛ぶ。
「どうです⁉」
「なにもないところで爆発……不意を突かれてしまいました。ですが……」
「なっ……」
「まだまだ動けます……」
ハヅキが立ち上がったことにカンナは唖然とする。
「ふふっ!」
「! しまっ……」
ハヅキに気を取られていたところ、ナガツキが空からカンナに襲いかかろうとした。
「もらったよ!」
「ちぃっ!」
「うおっ⁉ ま、眩しい……」
カンナが薙刀を横にしてかざすと、薙刀が強い光を放つ。ナガツキは目を覆って、地面に転げまわる。カンナはため息をつく。
「ふう……ん?」
カンナがハヅキの方に目をやると、ハヅキも目の辺りを抑えていた。
「視覚に異常が発生……」
「ふっ、目が良すぎるのがかえって仇になりましたね……」
「学習しました……しかし、早期に正常な状態へ戻ります」
「ふむ、それは良くない知らせですね……」
「戦闘の継続は十分に可能です」
「それはご勘弁を……ここは仕切り直しと行きましょう。それっ!」
カンナが馬をナガツキたちとは逆方向に走らせる。兵士長が声を上げる。
「カ、カンナ様、我々はどうすれば⁉」
「投降すれば、命までは取られません!」
「し、しかし!」
「ですが、志あるものは!」
「‼」
「三将を連れて、わたくしについてきなさい!」
「ちょっと待った! 逃がさないよ!」
サツキが快足を飛ばし、カンナに接近してきた。
「せい!」
カンナが振り向き様に薙刀を上下に振るい、一条の雷を放つ。雷はサツキの体を貫く。サツキは苦しそうに倒れ込む。
「ぐはっ! こ、これがあったか……」
「はあっ!」
カンナが声を上げる。それからやや間を置いてナガツキが立ち上がる。
「……ようやっと見えてきたぜ! くそっ、お転婆な姫様め! 一体、どこに行った⁉ うん⁉」
ナガツキは呆然と立ち尽くすハヅキの背中を見つける。
「…………」
「なにをやっている! 早く後を追わないと!」
「どうやってでしょうか?」
「! こ、これは……」
ナガツキは驚く。地面に無数の大穴が空いていたからである。
「発光などの他に、発掘も出来たのですね……学習しました」
「くっ、まさか地中を逃げるとは! これじゃあ追跡するのは困難だ!」
ナガツキが地団駄を踏む。
「さすがは超人の国の姫様といったところだね……発想も常人離れしている」
サツキが体を起こしながら呟く。
「しかし、本当にどこに逃げたんだ?」
「皆目見当がつきません……」
ナガツキの問いかけに対しハヅキは首を傾げる。
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