7・そんなわけで…

 今、大賀尊は俺の家にいる。

 神様の証である尻尾をフサフサと揺らしながら。


「うまかったか?」

「ああ。やっぱりツナはいい」

「お前、神様のくせにお手軽だよなぁ」


 でも、そんなにツナ缶が好きなら、今後のメニューに加えてみるかな。うちのバイト先で出している「ツナとキャベツのカレー風味ホットサンド」なんて、意外とボリュームがあって腹持ちもいいし。って、神様も腹持ちを気にするかはわかんねぇけど。


「なあ、なんかリクエストある?」


 今日は買い出しの日だし、ってことで訊ねてみると、大賀はしばらく考えこんだあと「おにぎり」と答えた。


「お前が作った『おにぎり』を食べたい」

「それって……」


 喉のあたりで、言葉が詰まった。

 脳裏をよぎったのは、高校時代のあまり思い出したくないエピソードだ。

 あの件は、おそらく大賀も知っている。ただ、その上でリクエストしたのかまではわからない。俺にとっては苦い思い出だけど、大賀にはまったく関係のないことだし、特に深い意味もなくリクエストしたのかも。

 それでも、俺は出かかった言葉を飲み込んだ。


「おにぎりは──悪い、ちょっと」

「ダメか」

「朝はパン派なんだよ。だから、ごはん以外にしてくれ」

「……そうか」


 大賀の尻尾が、少し揺れた。それが何を意味するのか、俺にわかるはずがない。ただ、残念そうに眉を下げたあいつに、少しだけ心が痛んだ。

 ごめんな、ちゃちなプライドのせいで、お前のリクエストに応えられなくて。


「そうだ、『朝ラー』はどうだ?」

「『朝ラー』──とは?」

「朝のラーメン。あっさりめの味付けにしてさ」

「……さっき『朝はパン派』と聞いた気がするが」

「どっちも小麦粉を使ってんだ、同じようなもんだろ」


 カップスープの残りを食パンで拭いながら、これから一週間の献立について考える。


(どうせなら、うまいもんを作りたいよな)


 おにぎり以外の、なにかうまいもの。

 だって、せっかく「神様」に食わせるんだ。うまいやつのほうがご利益ありそうだろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る