第3話 今日からこちらで

「初めまして!田舎の伯爵家から参りました。ヴァレンティン・クリスティアン・ヘドマンです。今日よりこちらでお世話になります!」

と僕は侯爵家の旦那様、ロベルト・ヴィクトル・カッレラ様に頭を下げた。


金髪で赤目の僕は美少年と呼ぶに相応しく、メイド達は可愛らしいとの囁き声が聞こえる。


「頭をあげよ。ヴァレンティン。まだ12だと言うのに奉公に来るとは感心だ」

髭を携えた、まだ40そこらの侯爵様に恭しく礼を取る。


「うちは、上に、兄が3人おりますので、伯爵家と言えども、僕は早々に自立したかったのでございます。


兄二人も僕と同じ年に奉公に出ましたし。こちらには叔父の、アッサール・シーグフリッド・ヘドマンから、ご紹介を賜りましたので、喜んで勤めさせていただきたいと思います」


「ああ、彼は君のことをよく話していたね。君の叔父上らしいね。彼は信頼できるうちの料理長だから私も歓迎しよう」

と侯爵様はあっさり僕を受け入れてくれた。


「部屋に荷物を置いたら、うちの娘達を紹介したい。一番下の娘にはまだ従者をつけてないからね、君に従者となって貰いたい」

と侯爵様が仰られて、僕は了承し、お姉さんメイドさんに連れられて、僕が今日から暮らす部屋に案内された。

個室で特に問題ない部屋だ。カーテンは分厚い。ベッドも普通のもの。


「…ここが僕の部屋かあ」


「気に入った?」

と連れてこられたメイドさん…。かなりの巨乳で歩くとユサユサ揺れる、マリアン・ファンヌ・プローマンさんが言う。まだ18歳くらいの彼女だが、僕の容姿に見惚れているみたいだ。


「流石アッサールさんの甥っ子ね。可愛いっっ」

叔父さんも美形だからモテるだろうなぁ。


「ありがとうございます。後で叔父さんにも挨拶に参ります」

と言い、荷物を置いて、一旦部屋を出て、また旦那様の元へと向かう途中、マリアンさんが屋敷のあちこちを紹介して回った。


「侯爵様には娘さんが三人いらっしゃるのですね」


「ええ…。上に二人の姉、長女カトリーナ様16歳と次女ティルダ様14歳がいらっしゃるわ。二人とも美少女だからね!三女はパウラ様よ」

とウィンクするマリアンさん。


「パウラ様はどんな方ですか?」

と言うと顔を曇らせた。


「パウラ様…ね…。ちょっと…。ちょっと変わってらっしゃるのよね。お部屋に引きこもっている事が多いのよ。人嫌いなのよ。家族以外とは会話すら、ままならなくて、いつも扉の下から筆談してるのよ。


普通なら女性の使用人達が身の回りの世話をするけど、パウラ様だけはそれも自分でするって言って聞かなくて、部屋の扉を閉ざしたままなの」


「人嫌いですか。パウラ様も美少女なのですか?」


「……実はパウラ様は養女なのよ。元々は孤児院にいたのよね。本当の親に虐待されているのを教会が保護して、それで人嫌いになったのだと思うけど、哀れに思った旦那様と奥様が養女に迎え入れたのよ。去年のことね。


でもそれから旦那様と奥様くらいしか会話をした事がなくてね。上の二人の姉達は正直パウラ様には冷たいわ」


「そうなんですね」


「パウラ様は大人しい娘様で人見知りと人嫌い、声が小さく、容姿は白髪に毛先は黒く、アメジストのような紫の瞳をしていて、雪のように真っ白なお肌をしているわ。顔はそこまで悪くもないみたいだけど、顔に実の両親から付けられた傷があり、片目は見えないの。


だから貴方もあまり傷のことには、ふれないであげて?確認は奥様と女のお医者様がされていて、身体にも無数の傷跡が残り、今も毎月に一度は、お医者様が診察に来られる時だけ部屋を開けるのよ」


「虐待なんて可哀想ですね…。酷い親もいるんですね」


「まぁ、あまりふれないであげて。その話は」


「わかりました」

と言い、旦那様の待つ部屋へと向かった。

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