吸血鬼の独白

やざき わかば

吸血鬼の独白

俺は人間で言うところの吸血鬼だ。ヴァンパイアとも呼ばれている。

呼び名に「鬼」が入っている時点で理解できると思うが、人間からは恐れられている。


確かに、基本的には不老不死だし、血も飲む。

だが人間は我々に対して、いろいろと間違ってた認識をしていることを、理解してもらいたい。


そもそも、我々は人間の食料で普通に生きていける。


血など単なる嗜好品に過ぎない。一ヶ月に一回くらい「あーちょっと血呑みたいなー」と思うレベルで、別に毎日呑まないと死ぬわけではないし、必要不可欠なものではないのだ。


人間の血である必要もないから、要するに生の牛肉を極レアで焼いてもらえればそれで満足したりもする。個人的には血を呑むより牛肉のステーキが好きだ。


考えてみると良い。我々吸血鬼は数が少ないとは言え、それでも世界中で暮らしている。


そんな我々が一日三食、人間の血をわざわざ首元にかじりついて呑むとすると、人口なんて今よりももっと少ないはずだ。首元にかじりついて血を呑むということは、首の動脈に穴を開けているわけだから確実にその人間は失血死する。


たかだか一食のために人間一人を?

しかも別に全身の血を呑むわけでもないのに?


大体今は輸血用の製剤がある。手に入れるのは苦労するのだが、まぁ人間が質の良いウイスキーを手に入れて喜ぶのと同じことだ。大抵の吸血鬼は製剤を購入するルートを持っているので、いちいち人を襲う必要はない。


製剤の存在しないほどの昔だと、例えば恋人や伴侶が間違って切ってしまった指先を舐める程度で満足していたと聞いているので、今は贅沢な時代になったと言えるだろう。


場合によっては「吸血鬼は人間を食う」という話もある。それこそとんでもない話だ。


人間に置き換えて考えてみよう。例えば人間である貴方は、人間とそっくりそのまま同じ見た目をしているけれども、「これは家畜である」とされる動物がいたとして、その人間そっくりの動物を食えるか?


吸血鬼は人間と見た目はほぼ、というか完全に同じである。

見た目同じの生物は、もはや我々と同じではないか?

何故見た目同じの生物を「これ食料だから」つって食えるのか?


少なくとも俺には無理だ。


「吸血鬼は太陽を浴びると灰になって死ぬ」のも失笑モノだ。

君たち人間は死ぬとき灰になるのか?火葬されない限りそんなことはないだろう。


ただ、太陽は確かに苦手だ。眩しいし暑いし。我々は人間よりも暑さに弱いのだ。


遺伝的に眼の色が薄いので眩しいのも苦手だ。でもまぁ、帽子を被ったり薄着になれば普通に外出は出来る。要するに「極度の暑がり」程度なのだ。理由は知らないが。


ニンニクに弱いというのも呆れる話だ。ラーメン食うときはニンニクマシマシである。ステーキの上には是非チップを乗せていてもらいたい。居酒屋行ったらニンニク揚げは大抵頼む。


個人的には大好物だ。アヒージョなんかもう最高だ。

玉ねぎはカレーには必須だ。是非きつね色になるまで炒めてもらいたい。


祝福された銀の弾丸が効くという噂などは、もはやわけがわからない。

別に我々は反宗教ではないし、普通にクリスチャンもいるし、ムスリムもいるし、仏教徒もいるし、なんなら俺は神道に帰依している。無宗教もたくさんいる。


心臓に杭を打つと死ぬ?

そんなもん、どの生物だって死ぬだろう。


まぁ、残念ながら我々は心臓が破壊されても死なないのだが…。


ただ、コウモリに変身できる、身体を霧に変えられる、不老不死である、というのは事実である。人間にとってはそれだけでも異端であり異色であり異様であるので、恐怖を覚えるのも無理はないだろう。


実際、大昔には数人の同胞が「世界を征服するぞー」など訳の分からないことを言って、実際に実行したらしいが、無事人間により殲滅させられたそうだ。


不死であり、殺すことが出来ない。それならそれで、人間には打つ手などいくらでもあるのだ。頑丈で空気穴ひとつもない場所に監禁するなども、対策のひとつだ。


我々がいくら人間に叛旗を翻したとしても、人間には勝てない。そもそもそんなことをすると、人間社会に溶け込んで暮らしている他の同胞に迷惑がかかるので絶対にやめてほしい。


先程、輸血用製剤入手のルートがあると書いたが、俺もそうだが大抵は滞在している国の医療機関で、不老不死の研究に協力している。


その見返りに製剤を融通してもらっているのだ。他の職業に就いている同胞ももちろんたくさん居る。つまりちゃんと働いているわけだ。


そう、我々は普通にそこにいる。

普通に人間として、職業に就いて働いている。

貴方たちが気付いていないだけだ。


我々吸血鬼の特性を活かした職業に就く同胞も少なくない。警察、軍人、傭兵、探偵、ヒーローなど。普通の会社員やフリーターになってる同胞も大勢いる。


我々は人間と同じ、「人間社会の構成員」なのだ。


ただひとつ、普通の人間と絶対的に違う部分がひとつだけある。

それは、「早く死にたい」「誰かに殺してほしい」ということだ。


我々は不老不死、もう何千年、若輩者でも数百年は生きている。

もはや生きていることがうんざりなのだ。


ああ、フィクションの世界のようにヴァンパイア・ハンターが実在してくれれば良かった。


そしたら我々は吸血鬼というだけで、「悪しきモノ」として駆除されるだろう。それは物凄く幸せなことだ。終りがあるから、短い生を精一杯満喫するのが生物だ。


自ら死を望む生物なんて、我々以外にいるだろうか。


吸血鬼は、貴方たち人間よりも「ある意味」弱い存在であるのだ。

あまりいじめないでもらいたい。

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