chapter3-5:記憶

写真をアルバムに収めて。

気に入った一枚は額縁に入れて壁に飾る。

「たくさん撮ったよねー」

「いつのまに撮ったの。と、言いたくなる写真もあるけどね……」

壁に掛けられた写真を眺めて。

あんなこともあった。こんなことをした。

と、思い出を振り返る。

写真の中の私達は、いつだって笑顔で、楽しそうで。

だからこそ、違和感を覚えたのだ。

家族で撮った写真。それに間違いはない。

それなのに。

「ねぇフォルちゃん」

「なに?」

「昔の写真と、お父様とお母様の写真ってどこだっけ?」

両親の姿が、どこにも見当たらない。

どちらかが撮っているのだとしても。

もう片方は、写真に写ってるはずなのに。

それに、幼い私達を写した写真も無いのだ。

不自然なくらいに、ここ数年の物しか飾られていないのだ。

「……どういうこと?」

フォルちゃんは首を傾げる。

聞かれてる意味が分からない。と言いたげで。

その表情の理由が、私には分からない。

「え……?いや、だってここにあるのは」

飾られた写真の中で笑う私達。

「私達しか映ってないじゃん。それも、ここ最近のものばかり」

言い聞かせるように、丁寧に説明して。

「お父様とお母様とも一緒に写真撮ってたよね?」

見開いたままの紫の瞳を見据え。

「この家に引っ越してくる前に、まとめてしまったんだっけ?」

もう一度問いかければ。

「家族で写真なんて、片手で数える程しか撮って無かったじゃん……」

信じられない返事が返ってきた。

その声は、怖がるように震えていた。

「見返した。と言うより、掃除のついでに出てきたくらいだし……」

思い出すように視線が逸れる。

「それに……」

口を噤んで、少し唸って、また口を開く。

「父さんなんて、居なかったじゃん。お兄ちゃんは居たけど……」

今度は私の時が止まった。

そんなはずはない。

あれは間違いなくお父様だ。

だって、お父様と、お母様と、私と……。

「誰の話をしているの?」

「それはこっちだって同じなんだけど……」

互いに描いてる両親、もとい『家族』の記憶が違うのだ。

一体、どうして。

こうも違うのだ。

見せていた一面が違うなんて言葉じゃ片付けられない、大きすぎる認識の違い。

肺に取り込む空気が、凍える程冷たく思えた。

「シール!!」

「フォルタ!!」

そんな空間に、慌てた声。

驚いて振り返れば。

「あぁ、ごめんね。うちが一人にしたから」

そう言いながら、サキねぇは私を抱きしめて。

「もう大丈夫だからな。怖かっただろう?」

インズイはフォルちゃんを抱き寄せた。

言葉の意味が、またしても分からない。

ただ、抱きしめてくれる体温が心地いいのだけは分かるので。

「苦しいよーサキねぇー」

「インズイ。いい加減、手、離せ。痛い。暑い」

そんなことを言いながらも、抱きしめ返すのだった。

この流れなら、聞けるのでは。

「ねぇ、サキねぇ」

「どうしたの?」

「私達の両親って、どんな感じだったっけ?」

一瞬、息を呑んだ様子を見せたけど。

サキねぇは、どこまでも優しく微笑んで。

「小さいときに死んじゃったから、覚えて無いよ」

丁寧に私の髪を撫でて。

「シールは、その時のショックで一部記憶がないんだよ」

額にキスを落としてくれる。

「フォルは小さかったから、覚えて無くて当たり前だろうけどね」

その言葉の流れのまま。

インズイは、フォルちゃんの腰を抱き寄せたまま囁いた。

おかしい。

絶対に、何かを隠してる。

フォルちゃんと目が合って、互いに頷く。

「……そうなんだね。なんか、悪い話聞いちゃったな」

「まぁでも、覚えてないってことは、その程度の事だった。って、事だもんね」

何でもないように、自然な感じで言葉を繋げば。

「酷いこと言うなぁ」

「小さい頃だから仕方がないよ」

曖昧に笑いながらも、こちらのペースに呑まれてくれた。

言葉巧みに、話を変えて、場所を変えて。

買い物帰りの話から、いつも通りの話に落ち着く。

【契約担当】の私に、口先で勝てるなんて思わないで欲しいし。

【拷問担当】のフォルちゃんに、誘導されるのは当たり前なのだ。

真相を突き止めなければ。

好奇心は猫をも殺す。なんていうが。

これは、知らなければならないことなのだ。

それはきっと。

私達姉妹が、「似ていない」と言われる問題の解決にもなるはずだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る