03 分配
大きい。倍もある体格の大人ふたりの目が、あたしを動けなくする。
見れば2人だけじゃない。奥には数人かもっと、10人以上が詰めていて、階層で一番広い部屋が、あたしたちの部屋みたく狭くしていた。
「子供か。いまごろきてもお前らの分はねぇ」
ひとりが不機嫌にそう言った。大事そうに、なにかを握っていた。
食べ物や生活道具は、階層や立場で決まった割合が分配される。
72は昆虫飼育&加工階層、71は畜産階層、70は農業階層。水は、回転つるべ縄が雲から運んでくる雫で、少ないながらもいつでも飲める。食べ物は73階にある最高管理階層によって厳密に管理。ここは、労役階層の中では序列が高いが、分配の時間はどこも同じで午前中。
イレギュラーなふるまいがあったのだろうか。
こんな夜更けに。
分配は欲しいが遅かったらしい、だが好都合だ。わずかな量の差でいさかいがおこるのが分配。そっちに意識がむいてるなら、あたしたちに執着してこないかも。
「おばさんのとこに行きたくて、でも
そこまで言ったところを、別の大人がさえぎった。この女性はよく覚えてる。母さんと仲がよくて、いつも通路で話し込んでいた人だ。
「折坂さんとこの子よね。まず、礼を言わせて。ごちそうさま」
「へ?」
「貴重な栄養なの。わかるわね? ここじゃ誰もがこうなる。私もこの人も」
手のひらを広げて見せてくれた。肉のかたまり。
「いったん最高管理階層に渡してから、分配になるんだけど。供給階層には特典があるの。足一本それか内臓。どっちかもらえるのよ」
階層には数羽のニワトリがいる。毎朝産み落とすタマゴを順番にいただくのだ。牛や豚を飼う話もあったらしいが畜産階層のような豊富なエサがない。10人以上で分けられるような肉など、ないのだ。
供給源。足か内臓。
母さんが、今朝、死んだ。
階層で供給された肉というのは。
「……うっく。母さん」
胃液と、涙がこみあげた。
女性の、疲れて悟りきった瞳。あたしの首に手をまわしてくる。
ゆっくり。ゆっくり。
「あなたたち。子供はね。大人の庇護がないと生きていけないの。いつか痩せそぼって通路の端っこで死んでいくの。不憫よね。不憫なの。だから可愛そうになるまえにね。食べてあげる!」
あたしはその手を振り払った。ショルダーバッグを肩から外すと、力の限りふりまわした。大人の力にかなうはずがない。けど女性を、ひるませることができた。
「大地、逃げて! 言った場所に!」
「わかった」
大声で叫んで弟を逃がすと、入口とは逆の奥まで飛びこんだ。階層管理室には、管理のための、さまざまものがそろってる。緊急の水、燻製などの食糧、銃やナイフなどの鎮圧武器。そして、低層と中層の
子供の体格は、こういう、人だらけのどさくさには有利だ。隣りの部屋にたどりつく。壁にかけてある中層
「子供よ! 追って」
「待て誰かが捕まえる。疲れて倒れたのを探してもいい。無駄な体力を使うな」
逃げる背後で、大人たちが言い合ってる。とりあえず追ってくるつもりはないようだ。上層へいく階段で待つ大地と合流。あたしたちは、急いで駆け上がる。
「違うよ、ちいねぇ。オバサンは下だよ」
「上にいく。ウワサで聞いたんだ。自由な町があるんだって」
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