害悪追放委員会
登場人物
・害悪田悪太郎……害悪追放委員会委員長。ありとあらゆるものを害悪と判定する。
・ふぇみ川ふぇみ代……害悪追放委員会評議委員。女権拡張主義者。
・右島右也……害悪追放委員会評議委員。国粋主義者。
・作者……この話を書いた男。こんな下らない物語を考えた捻くれたメガネの愚か者。
・観客(もしくは読者)……この話を見ている。こんなくだらない作品に時間を費やしている。
・粛正ロボット……害悪判定されたものを熱線で消滅させるロボット。自分では何も考えられず、量産され何らアイデンティティーを持たない。
(その他、名も無き害悪追放委員会評議委員、被粛正者、開票ロボット、多数)
害悪追放委員会関連法案の成立により害悪追放委員会が発足された日本。同委員会によって各地に設置された害悪追放ポストに投稿された議題について話し合い、害悪判定がされると粛正される。それによって、犯罪者、貧乏人、外国人、オタク、動物愛護団体、ツイ廃、食肉者、ヴィーガン、引きこもり、金持ち、ゲーム会社、なんちゃってコメンテーター、等々数えきれないほどのものが消滅させられた。
1
場所 害悪追放委員会議場
(舞台中央に害悪田、その左右にふぇみ川、右島、モブ評議委員ABCが座っている。続いて開票ロボット舞台袖よりあらわれる。)
害悪田 本日も委員会を始めます。
開票ロボット 各地ヨリ投稿サレタ議題ヲ持ッテキマシタ。
害悪田 よろしい、順番に読み上げたまえ。
開票ロボット ハハ、ソレデハ。マズ一ツメ。「少年漫画」デゴザイマス。
害悪田 「少年漫画」か。
開票ロボット ハイ、イカニモタコニモ。
ふぇみ川 少年漫画、なんと恐ろしい響き、少年と入っているとは。これは気分が悪くなってきた。オロロロロ。
モブA 確かに。
右島 少年はともかく、少年漫画は良くない。すぐに日本人以外が出てくる。
モブB その通り。
害悪田 友情、努力、勝利を建前に暴力を振るい、エロを行う。全くもって害悪極まりない。
モブC 流石、良いことをおっしゃる。
ふぇみ川 そう、少年漫画なんて女を性的にしか見ていない。あんなものを子供に読ませたらどれ程の悪影響が出ることか。オロロロロ。
害悪田 では、そろそろ評決を出しましょう。「少年漫画」が害悪と思われる方は拍手を。
(一同、拍手。)
害悪田 満場一致で「少年漫画」は害悪と認定します。害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 さあ、粛正ロボット、「少年漫画」を消滅させよ。
(舞台袖より粛正ロボットが現れ、一度頷くと再び舞台袖に引っ込む。その後大きな音と共に少年漫画と少年漫画家が消滅する。)
害悪田 よろしい、次に行こう。
開票ロボット ハハ、ツヅイテハ「喫煙者」デゴザイマス。
害悪田 「喫煙者」‼
開票ロボット ハイ、イカニモタコニモ。
ふぇみ川 あのタバコなんてものを吸っている奴らとは。タバコを吸っている男は大抵臭くてマナーが悪くて女性に暴力を振るうものです。ああ、考えただけで気持ちが悪くなってきた。オロロロロ。
モブA まったくもって
右島 あれは健康被害が酷い。外国人が吸うのは勝手だが、日本人がタバコで早死にするのはよろしくない。それに日本は禁煙が進んでいないなんて諸外国からバカにされるようなことがあってはいけない。
モブB いや、いいことをおっしゃる。
害悪田 迷惑はかけてないとか他より税金を多く払ってるとかよく分からない理屈をこねくり回す。肺も頭もニコチンにやられているような人間たちだ。
モブC さすが委員長。
害悪田 では、評決を。
(一同、拍手。)
害悪田 満場一致で「喫煙者」は害悪と認定します。害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 粛清ロボットよ「喫煙者」を消滅させたまえ。
(舞台袖より複数の粛清ロボットがあらわれ、一度頷くと、一台を残して舞台袖に引っ込む。残った一台がモブABCに向けて熱線を放つ。)
モブABC ぎゃあ。
(モブABC消滅する。粛清ロボット引っ込む。)
害悪田 本日の委員会はこれにて閉会します。
2
場所 害悪追放委員会議場
(舞台中央に害悪田、その左右にふぇみ川、右島が座っている。続いて開票ロボット舞台袖よりあらわれる)
害悪田 それでは本日も委員会を始めます。
開票ロボット 各地ヨリ投稿サレタ議題ヲ持ッテキマシタ。
害悪田 よろしい、では読み上げたまえ。
開票ロボット ハハ、ソレデハ。マズ、「ピーマン」デゴザイマス。
害悪田 「ピーマン」か。
開票ロボット ハイ、イカニモタコニモ。
ふぇみ川 マンと入っているのが気に入らない。ピーウーマンでも何ら問題はないはずなのに。マンが入った食べ物なんて恐ろしい。オロロロロ。
右島 あれは日本に自生していたものではない。外国からもたらされた品種を栽培しているのだ。あんなものを食べたら日本人の頭はスカスカになってしまう。
害悪田 あんな苦いものを食べるなんて害悪極まりない。本当にピーマンは苦くて仕方ない、あんなものを育てているピーマン農家も害悪だ。
ふぇみ川 まったくもって。
右島 その通り。
害悪田 そろそろ評決に入りましょう。「ピーマン」を害悪だと思う方は拍手を。
(一同、拍手)
ピーマン農家 お待ちを!
(舞台袖よりピーマン農家あらわれる。害悪委員会一同ピーマン農家を見つめる)
ピーマン農家 ピーマンは栄養が豊富なのです。どうかご再考を。
害悪田 何者かね。
ピーマン農家 私はピーマン農家でございます。ピーマンを栽培することで生計を立てております。
ふぇみ川 何と。やはり男が栽培していたか。汚らわしい。
ピーマン農家 お願いでございます。ピーマンが害悪判定されたら私の家族が路頭に迷ってしまいます。
右島 我々の関知するところではない。それはピーマンを育てていた君の責任だ。
害悪田 その通り。害悪なものを栽培し流通させていたなど許しがたい害悪行為だ。見逃すわけにはいかない。
ピーマン農家 そんな。
害悪田 粛清ロボットよ、「ピーマン」を消滅させよ。
(舞台袖より粛清ロボットがあらわれ、一度頷くとピーマン農家にむけて熱線を放つ。)
ピーマン農家 ぎゃあ。
(ピーマン農家消滅する)
害悪田 「ピーマン」は害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 よろしい、では次を
開票ロボット ソレガイインチョウ。
害悪田 何かね?
開票ロボット 本日ノ議題ハイジョウニナリマス
害悪田 ナント‼ 本当かね、そんなことが。
開票ロボット マコトニ遺憾ナガラ
害悪田 嘆かわしい事だ。委員会諸氏よそうは思いませんか。
ふぇみ川 おっしゃる通りです。
右島 世間にはまだまだ害悪なものが存在しているはず。
害悪田 我々はこれまで数多くの害悪を排除してきましたが、それで十分なはずがない。
右島 まったくだ。
ふぇみ川 私たちは全ての害悪と男尊女卑を無くしたとは到底思えません。
害悪田 その通り。我々の崇高なる戦いはまだ道半ばです。開票ロボットよ、今後はより一層徹底した意見の収集を行うのだ。
開票ロボット カシコマリマシタ。
害悪田 今まで目を向けてこなかったような意見が必要だ。害悪に対する新たな視点が。より深くより広く意見を募るのです。
開票ロボット オオセノトオリニ。
害悪田 ひとまず本日の委員会は閉会にします。
3
場所 害悪追放委員会議場
(舞台中央に害悪田、その左右にふぇみ川、右島が座っている。続いて開票ロボット舞台袖よりあらわれる)
害悪田 それでは本日も委員会を始めます。
開票ロボット 各地ヨリ投稿サレタ議題ヲ持ッテキマシタ。
害悪田 おお、さっそく意見が集まったか。
開票ロボット ハイ。
害悪田 すばらしい。では意見を読み上げたまえ。
開票ロボット ハハ、ソレデハ。マズハ「観客(もしくは読者)」デゴザイマス。
害悪田 「観客(もしくは読者)」かね。
開票ロボット ハイ、イカニモタコニモ。
(一同、舞台より観客(もしくは読者)の方を向く。)
害悪田 おお、何たる害悪な面構え。このように害悪な者達を見逃していた自分が嘆かわしい。
ふぇみ川 まさにあんな人々は女を虐げるに違いない。そのような人々に見られていたとは。
右島 それどころか国を売りさえするだろう。
(観客(もしくは読者)よりヤジが飛ぶ)
観客(もしくは読者)A 無礼だぞ。
観客(もしくは読者)B 失礼な言い草だ。
観客(もしくは読者)C 登場人物が観客(もしくは読者)に向かって口出しをするとは信じがたい。
害悪田 このような下らない作品に時間を費やす人間など害悪極まりない。正常な人間であれば早々に観賞を止めているはず。こんな後半になるまでこの作品を見ているという事が観客(もしくは読者)の異常である証左。
ふぇみ川 ええ、その通り。このような人々議論の余地もなく害悪です。
右島 早々に消滅させるべきだ。
害悪田 皆さんの意見は分かりました。私も同意見です。では、粛清ロボットよ……。
作者 待て‼
(舞台袖よりメガネの小太りな男現れる。)
害悪田 何者だ。
作者 私はこの作品を書いた男だ。
ふぇみ川 男が作者だったなんて、恐ろしい。オロロロロ。
作者 貴重な観客(もしくは読者)を消滅させるなどという横暴を作者である私が許すと思ったのか。
害悪田 作者だろうと何者であろうと本委員会が害悪と認定したものは害悪他ならない。そして、観客(もしくは読者)は害悪と判定された。
作者 私は作者だ。つまり、この作品の行く末を決めるのも私だ。その私が止めろといっているのだ。
害悪田 関係ない。粛清ロボットよ観客(もしくは読者)を消滅させよ。
(舞台袖より粛清ロボットが現れ、一度頷くと観客(もしくは読者)にむけて熱線を放つ)
観客(もしくは読者)一同 ぎゃあ。
(観客(もしくは読者)消滅する。会場は舞台上を残して人が居なくなる。)
作者 何という事だ。
害悪田 害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 では、次の議題を。
開票ロボット ハハ、「作者」ニゴザイマス。
害悪田 「作者」か。
開票ロボット ハイ、イカニモタコニモ。
作者 観客(もしくは読者)の次は作者の私までもとは度し難い。作者としてこれ以上は看過できない。
害悪田 見たまえ委員会諸氏よ。どう考えてもこの男は害悪だ。
一同 まったく。
害悪田 作者というだけで作品を自分の思い通りにしようなど傲慢で不遜だ。
ふぇみ川 今まさに私達を虐げようとしています。
右島 それに我々の思想が間違っているように悪意をもって恣意的に文章を書いて話を進めているのもよろしくない。
害悪田 その通り。そして何よりもこの様な下らない作品を生み出したという事が何よりも害悪だ。本作の害悪の根源といっても過言ではない。
作者 なんだと‼ さっきから黙って聞いていれば登場人物の分際で作者に向かって意見するとは気に食わない。もういい、この原稿はボツだ。なかったことにする。
害悪田 そのような勝手は許されない。
作者 それは私のセリフだ。
害悪田 粛清ロボットよ「作者」を消滅させよ。
(舞台袖より粛清ロボットが現れ、一度頷くと作者にむけて熱線を放つ。)
作者 ぎゃあ。
(作者消滅する。作者が消滅したことにより以後この作品がどのような展開を迎えるか誰にも分からなくなる。)
害悪田 害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 本日の委員会は以上で閉会します。
4
場所 害悪追放委員会議場
(舞台中央に害悪田、その左右にふぇみ川、右島が座っている。続いて開票ロボット舞台袖よりあらわれる)
害悪田 本日も委員会を初めます。
右島 委員長、よろしいですか。
害悪田 どうされました。
右島 我々は観客(もしくは読者)のみならず作者も消滅させました。この会場にはもはや我々の三人しかおりません。
害悪田 そうですな。
右島 つまるところ、もう、全ての害悪を排除したといえるのではないでしょうか。
ふぇみ川 確かに私たちは課せられた役割を果たしたといっていいのではないでしょうか。
害悪田 皆さんがおっしゃりたいことは分かります。我々はほぼすべての害悪を排除したように思います。作者も消滅させてどのような結末になるかも分からない本作における害悪は全て排除したように思えます。しかし、結論を出すのは時期尚早です。まだ投書が、我々が排除すべき害悪があるかもしれません。我々の仕事が終わるときは全ての害悪を排斥したとき、つまり、議題が無くなったときなのですから。
ふぇみ川 さすが委員長。
右島 いいことをおっしゃる。
害悪田 では、開票ロボットよ。
開票ロボット 各地ヨリ投稿サレタ議題ヲ持ッテキマシタ。
害悪田 やはり、我々が戦うべき害悪はまだ残っている。
開票ロボット 本日ハコノヒトツダケトナッテイマス。
害悪田 よろしい、では読み上げたまえ。
開票ロボット ハイ、本日ノ議題ハ「害悪追放委員会」ニナリマス。
一同 ナント‼
害悪田 「害悪追放委員会」‼ つまり、我々のことかね。
開票ロボット イカニモタコニモ。
害悪田 皆さん、どう思われますか。
ふぇみ川 これは……。
右島 うむ。
一同 害悪極まりない‼
害悪田 こんな害悪を見逃していたとは。
ふぇみ川 私はこんなに自分を恥ずかしく思ったことはありません。
右島 今すぐ消えてしまいたい。
害悪田 このような害悪な委員会の存在を許していいはずがありません。なにもかもを害悪と決めつけ一方的に消滅させるなど害悪以外の何物でもない。
ふぇみ川 相手の意見など聞き入れず自分に都合の良い一方的な主張ばかりを繰り返しています。
右島 その上偏見に満ちた差別的な考えばかりだ。
害悪田 この害悪な害悪追放委員会がこの下らない作品の根源ともいえる。ありとあらゆる面から見てこの委員会は害悪だ。この委員会を考えた人間の顔が見てみたいものだ。さっそく評決を取りましょう。「害悪追放委員会」が害悪だと思う方は拍手を。
(一同、拍手)
害悪田 では、満場一致で害悪と認定します。害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 害悪‼
一同 害悪‼
害悪田 さあ、粛清ロボットよ「害悪追放委員会」を消滅させよ。
(舞台袖より粛清ロボット現れ、一度頷くと害悪追放委員会にむけて熱線を放つ)
一同 ぎゃあ。
(害悪追放委員会消滅する)
5
場所 舞台上
(舞台、静寂に包まれる。開票ロボットおよび粛清ロボットただ立ち尽くすのみ)
開票ロボット ……
粛清ロボット ……
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