第13話 学校とジンドーと
ジンドーが学校にいる。ぽっちゃり体型のジンドーが学生服を着こなしている……。ていうか中学生にしか見えない。
この事実を処理するのに私はかなりの時間を使った。その隙に柿原先生は告げる。
「じゃ、じゃあ、大福くんは、空いてる席に座って、そのぉ……界さんの隣でいいかしら?」
「わかったのである!」
放心する私をよそにジンドーは、大福仁斗くんは隣に座る。
大福仁斗?
名前からしてふざけているのか?
いや、大福くんの目は真剣そのものだ。
そのまま衝撃と共に、ホームルームは終わりそれどころか一時間目も終わりを告げた。
そして、一時間目休みの時、隣では質問攻めにされている大福君の姿が。
「なぁ、大福くんってさそれ本名?」
「本名なのである」
「マジかよ! 相当珍しいよな!!」
相当珍しいどころか、オンリーワンでは?
ぽっちゃり体型の仁斗くんに群がるのはクラスの男子達だった。
もはや私への関心はクラスから消え失せていた。
それはそうだろう。
「大福くん、ちょ、レイン交換しねぇ?」
「あ、俺も!」
「わはは! いいよ! なのである!」
見たところ、大福くんの気さくさと、話のうまさで、会話が弾みクラスの話題と関心を大福くんは掻っ攫う。
これがきっとジンドーの作戦、なのだろう。
実際、私への好奇の目線はなくなった。
ありがたい、私はこれで……気にすることなく学校生活を送れそうだ。
─────────────
そう思っていた。甘かった。
昼休みの時だ。
学食のパンを買いに行こうとしたときだ。
廊下の隅、彼女は私の視界の端に映った。
明田さん。
明田コノミさん。
遠くで、ボソボソと私を見て明田さんの取り巻きの数人の友人達が私を見て話している。
困った、ここの廊下を通り抜けなければ、パンは買いに行けない。
諦めるか? それもいいかもしれない。
怖い。
あの人の前に出ることが。瞬間フラッシュバックする、いじめの記憶が。
面と向かって調子に乗ってるなんて言われた、虫の死骸を下駄箱に入れられた、ありもしない噂を流された。
そうだ。すべてはあの人から始まった。
明田さんから。なんでかはわからない。
でも一つ言えることはある。
明田が起点になってるってことだ。明田さんが私を嫌ってからいじめは発生した。
だから怖い。
また目をつけられれば私は果たして、立ち直れるだろうか、足が震える。
もうやめにしよう、パンを買いに行くの。空腹なんて頑張って我慢すれば……。
と思った瞬間だった。
「パン買いに行こうぜ、なのである!」
「よっしゃ!」
「こっちだ、大福!!」
男子の群れが、私の近くを通り過ぎる、すると男子達に連れられる、ジンドーが私の隣を過ぎ去った。
一瞬だけど目が合う。
── 一緒にいこう?
そう言われている気がした。
私はジンドーの影に隠れるように、明田さんの前を通り過ぎる。
その時、ボソリとつぶやかれた。
「なんで学校きてんだよ……」
私はそのまま気にせずパンを買いに行った。
気にしないようにと言った方が正しいのか。
─────────────
結局、集中できないまま学校は放課後を迎えた。
幸い、私の興味はジンドーに全て持っていかれたおかげで、話しかけられることもなく、学校は終わった。
私は教室を出る。
二年三組、新しい私の教室。初めて来たのになんだかよくわからないまま一日が終わってしまった。
それがよかったのか悪かったのかはよくわからないでも、ただ一つ言えることは、私は今日、学校を乗り切ったということだ。
ほとんどジンドーの衝撃がすごかっただけかもしれないけど。
「じゃあなぁ! 大福!」
「うん! また!」
ジンドーはもうクラスメートと挨拶を交わしていた。相変わらずすごいコミュ力だ。
でもそのおかげで私は影でいられる。
誰にも気にされることもなく、下駄箱についたわたしは、靴を取ろうと下駄箱の扉を開けた。
わたしは目を疑った。私の靴がどこにもなかったのである。
おかしいと思った。
一体どこにいったのか、なんとなく誰がやったのかは予想がついていた。
明田さんか、それか取り巻きの人か。
「どうしよう」
私が悩んでいる時だった。聞きたくない声がしたのは。
「ねぇなんで学校きたの?」
私と同じブレザーとスカートそして、茶色く染まった髪。鋭い目つき。
私とは着ている服は同じだが、真逆の風貌の彼女。
明田コノミさん。
「どういうこと……ですか?」
「いや、なんで急に学校きたのか、気になっただけ、だってあんた忙しいんでしょ? パパ活とかでさ」
「そんなことしてません」
「別にいいけどさ、私あんたがどうなろうが、でも嘘はやめな、悪いことしたらちゃんとまた止めた方がいいよ」
なんだ急に、私は、ただたじろぐしかなかった。なんでこんな嘘を。
いやそんなことは分かりきっている。
この人は私を徹底的に排除したいんだ。
何故かはわからない始まりだってこの人とは接点なんかなかったなのになんで。
疑問が尽きることはない、そして目の前の明田さんは私に詰め寄ってくる。
だめだ泣きそうになる。そんなこと、知ったことじゃないと明田さんは、私に言い続ける。
「また、調子に乗ってるみたいだからさ、教えといてやるけど……あんたの居場所なんかここに──」
「フォォォォォォォォ!!」
そんな緊迫した空間で奇声を上げながら、私たちの間に割ってはいる奴が一人、そうそんな奴一人しかいない。
「おやぁ、お取り込み中みたいであるな」
ジンドーだ。
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