Fight10:共闘

 現在の所メダルの数はマーカスが3個でリディアが2個となっている。この島にどれだけ『敵』が放たれているかは分からないが、グラシアンの口ぶりからしてメダルの数が足りなくなるという事はないらしい。


 指針もないのでとりあえず森の中を通る遊歩道へと出て、その道を伝っていく2人。警戒していたが、道を歩いている間に『敵』の襲撃はなかった。


 遊歩道の先は再び森が途切れて開けた場所になっていた。アスファルトで舗装された広いスペースに何台もの車(当然全て廃車だろうが)が停まっている。その先にはスーパーマーケットのような大きな建物が見えた。ここはその『駐車場』という事のようだ。


「……これは元からあったのかしら? それともグラシアンが一から造ったの?」


「立地的にマーケティングが考慮されてるようには見えんな。まあ金持ちの考える事はよく分からん。よほど暇を持て余しているらしい」


 その『スーパーマーケット』を見たリディアが唖然として疑問を漏らすが、こんな所にスーパーが元からあったはずはないので、グラシアンが造らせたという事だろう。しかもご丁寧に打ち捨てられた廃墟風味になっている。



「……それとどうやら早速のお出迎え・・・・のようだ。随分接客に熱心な店らしいな」


「……っ!」


 廃車の陰から男達が姿を現した。『敵』だ。3人いる。全員が武器を持っていて、1人は警棒、1人はナイフ、そして1人は長柄のスレッジハンマーを持っていた。


(3人か……! 厄介だな)


 マーカスは素早く敵の体格や持っている武器などから判断して作戦・・を決めた。


「お前は俺の後ろに下がって援護しろ! 絶対に離れるなよ!?」


「わ、分かったわ!」


 本来ならマーカスが2人を受け持って、その間リディアにもう1人を抑えていてもらうのが良いのだが、敵の数の方が多いのでマーカスが1人と戦っている間に敵は必ずリディアを2人掛かりで襲うという行動に出るはずだ。それを防ぐにはこうするしかない。


 まずは一番危険なナイフ男からだ。1人潰せれば後は一対一に持ち込める。マーカスが敵に向かって進むと、リディアもその後ろを追従してきた。きちんと言われた事は守っているようだ。あるいは彼女もそれしかないと判断したか。



 幸い敵はただ集団でいるだけで、連携などは何も考えていない様子だ。最初に接近してきたスレッジハンマーの男が武器を振りかぶって全力で叩きつけてくる。威力は大きいだろうが軌道は見切りやすい。


 マーカスは半身を逸らすようにしてその振り下ろしを回避する。本来ならそのまま反撃したい所だが、生憎横から警棒男が襲いかかってきた。だが……


「させないっ!」


 リディアがそのしなやかな脚でローキックを繰り出して警棒男を牽制する。それによって男の動きが停滞する。


「ナイスアシストだ!」


 マーカスはその隙にハンマー男を牽制しつつ、ナイフ男に突進する。自分がこちらの標的と悟ったナイフ男は慌てて後退しつつナイフを振り回してくる。だが幸いというかナイフを持った相手とは事前に戦っている。


 マーカスはナイフの当たらない距離から身を屈めるようにしてローを放つ。強烈なキックが男の下腿部にヒットし、ナイフ男は痛みから呻いて前屈みになる。一瞬でも躊躇ったり動きが遅れれば凶器による反撃を許す事になる。


 マーカスは躊躇なく男の顔面に全力のストレートを叩き込んだ。ナイフ男が鼻血を噴き出しながら昏倒した。鼻の折れる感触もあったので手応えは充分だ。彼は急いで振り返った。



 リディアはハンマー男の牽制もしてくれたらしく、あわや二対一になりかけていた。このままでは彼女が危ないが、当然それを見過ごす気はない。


「よくやった!」


 マーカスは叫んでからハンマー男に打ち掛かる。男は慌ててマーカスを迎撃してくる。リディアにはそのまま警棒男の抑えを任せる。


 ハンマー男が武器を横薙ぎに振るってくるが、マーカスは半歩後ろに下がってそれを避ける。スレッジハンマーはまともに当たったら恐ろしい武器だが、威力が強い半面速度と取り回しが犠牲になる。冷静に軌道を見切る事さえ出来れば対処は難しくない。


 男が今度は縦にスレッジハンマーを振り下ろしてくる。マーカスは冷静にそれを躱すと、男は振り抜きの勢い余って体勢を崩す。


「ふっ!」


 マーカスは下から掬い上げるようなボディブローを男の脇腹に突き入れる。男が体を折り曲げて苦悶の呻きを上げる。しかしマーカスは容赦なく追撃し、体を折り曲げて無防備な男の顔面目掛けて膝で蹴り上げた。



 再び鼻が折れる感触と共に、男が物も言わずに崩れ落ちた。彼はそのままリディアの方に向き直る。彼女は警棒男の攻撃を躱しつつ、カウンターのローキックで男の脚を集中攻撃していた。その作戦は功を奏し、男の動きが明らかに鈍くなっていた。


「はぁっ!」


 リディアは一気に勝負を決めようと畳み掛ける。彼女の拳や蹴りによるラッシュに警棒男が怯む。リディアはそのまま男に止めを刺そうとハイキックを仕掛ける。だがその時警棒男も破れかぶれに反撃してきた。


「……!」


 リディアもその動きに気づいたが、今さら攻撃を止める事は出来ない。彼女のハイキックは見事男の側頭部を蹴り抜いたが、男の警棒も彼女の左肩辺りに命中した。


「ぐ……!!」


「リディア! 大丈夫か!?」


 ハイキックで見事に敵を倒したリディアだが、最後に一撃をもらってしまった。左肩を押さえて片膝をつくリディア。マーカスは急いで彼女の元に駆け寄る。


「くっ……へ、平気よ、これくらい」


「無理するな。メダルを回収してくるから少し休んでいろ」


 脂汗を流して苦痛に顔を少し歪めながらも気丈に振る舞うリディア。幸いというかナイフやスレッジハンマーが当たった訳ではないので軽傷なのは確かだろうが、念のため少し休ませておく。リディアもそれには逆らわなかった。


 マーカスは倒した敵の懐を漁って3つのメダルを回収した。今現在の所持数はマーカスが3個でリディアが2個だ。なので3つのメダル配分としては……



「ほら、お前の分だ。持っておけ」


 彼はそう言ってリディアに2つ・・のメダルを渡した。彼自身は1つだけ入手する。


「……どう考えても逆だと思うのだけど?」


「かも知れんな。だが3人の敵相手にあれだけスムーズに勝てたのはお前の助力があってこそだ。そういう意味では俺たち2人・・の勝利と言えるわけで、配分に関して決まりはない」


 マーカスが2つもらうと5個になって、このステージをクリアしてしまう。彼はリディアを1人で置いていく気はなかった。それをするなら最初からこのような同盟は組んでいない。


 メダルはこれで互いに4つずつになるので、後2つ集めればいいだけだ。そう難しいことではないはずだ。


「……一応礼は言っておくわ」


 リディアはそれ以上拒絶する事なく素直に2つのメダルを受け取った。休んでいる間に彼女もある程度回復したようなので2人は再びメダル探しを再開した。

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