1月13日 インドカレー、イチゴのショートケーキ

 昨夜は、映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』を観た。随分前に観て以来、二度目の鑑賞である。

 モスクワに住む建築技師の男と、グルジア人の青年が、ひょんなことからキン・ザ・ザ星雲の砂漠の惑星プリュク、という見知らぬ場所に飛ばされてしまい、それはもう大変な目に合いながらも地球への帰還を目指す、というのがあらすじになるのだが、とにかく、不思議な映画である。異星での出来事はユーモラスで、不条理で、おかしくも不気味である。罵倒以外の全ての会話が「クー」という一言で成り立ってしまう社会で、あらゆる作法が地球とは異なる異文化の話でもあるし、高度な文明がありつつも荒廃した土地、階級と人種の差別など、描かれるものにはソ連への風刺が散りばめられている。この作品が作られた当時、ソ連の検閲はかなり厳しいものだったというが、それをくぐり抜けられるほど、まず奇妙さに目が行ってしまうということだろう。

 あまり良い言葉ではないかもしれないが、「共産趣味」という造語がある。共産主義を通ってきた国々の文化を愛好する趣味、といった意味合いだが、私にはややその気があるのを自覚している。歴史などに詳しくはないが、触れたときに感じる、旧共産主義の匂い、手触り、色。それがたまらなく好きになってしまうことがある。『キン・ザ・ザ』は一見、シュールでカルトな映画だが、その匂いに満ち満ちていて、意図していたりしていなかったりするダサさと、郷愁を誘うエモさと、熱さを秘めつつも努めて冷静で乾いた振る舞いをする空気感が、実にたまらない。劇伴音楽にも勿論反映されており、私の心が踊ってしまうのである。

 誰にでも勧められる作品では無いが、一度観れば「クー!」と言いたくなってしまうだろうことは間違いないはずである。


 明けて、本日。

 風が強く、雨が時折あられに変わるような荒天。


 夫が今夜、あるお宅に呼ばれているため、その手土産を買いに行かねばならないということで、そのついでにランチへ出かけた。

 昨日作ったブラウニーがうまく行けば手土産になるかと思ったが、大変美味しくできたものの、知らない人には生焼けと思われてしまう恐れがある仕上がりなので、店で買うことにしたのだった。


 ランチに選んだのは、宍道湖畔にある老舗喫茶店『あらびかコーヒー』。その名の通りアラビカ種の珈琲豆を自家焙煎するコーヒーが看板だが、カレーやシチューも人気だと聞く。

 家族経営らしい温かい雰囲気のある、昔ながらの喫茶店である。ランチセットから私は「インドカレー」を、夫は「ハンバーグシチュー」を注文した。

 先に提供された「ハンバーグシチュー」は、まん丸でみっちりとしたハンバーグにトマトがベースの甘めのデミグラスソースが、懐かしい美味しさ。

 私の注文した「インドカレー」は、別にナンと共に出てくるわけではなく、ごく一般的なカレーライスの見た目をしている。ルゥは小麦粉を使用せず、具材を煮込んで自然なとろみを出した粘度の低いタイプ。とろりと崩れた野菜とほろりと柔らかい牛肉がたっぷりと入っている。メニュー表で“二十人に一人は食べられない辛さ”という独特の表現がされていたが、食べてみるとしっかりスパイシー。しかし具材の甘みや旨味もあり、辛さが後を引かないのでとても食べやすく、美味しい。付け合わせの福神漬けと共に、トッピング用の胡桃があり、これがまた良かった。カレーにカシューナッツやアーモンドのトッピングはよく見るが、胡桃はあまり見ない。しかし胡桃の風味がこのカレーにとてもよく合っていて、香ばしさとコクを加えてくれる。インド感はあまり無いが、実に美味しいカレーだった。そして食後の珈琲も美味しいのは、とてもありがたいことである。


 その後、目をつけていたパティスリーで焼き菓子の詰め合わせと、間もなく夫の誕生日ということで生ケーキなども買って帰宅。

 初めて買った店だが、ここの苺のショートケーキがとても美味しかった。苺がトップに乗っていない珍しいタイプで、なめらかでフレッシュな生クリームが際立つ。そのクリームの下にはきめ細やかなスポンジと島根県産の苺。スポンジの断面には苺ジャムも塗られている。このバランスが非常に素晴らしい。特にスポンジケーキ。こんなに繊細な口溶けをするスポンジケーキはなかなか無い。あくまでクリームとスポンジは甘さ控えめで、サンドした苺の甘酸っぱさを際立たせているのも良い。苺ジャムを伸ばしているため、どこを食べても苺の味がちゃんとするのがまた嬉しい。

 これは手土産も美味しいことだろうと確信できた。自宅用の焼き菓子もつい買ってしまったので、これも楽しみである。


 明日はまた氷点下まで気温が下がるらしい。暖かくして過ごそうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る