9月12日 レアチーズケーキ

 昨夜辺りから、とある漫画がネット上で話題になっていた。

 それは閉鎖的で保守的な田舎に居場所が無かった女性が、東京の男性と結婚する挨拶をしに故郷へ帰る、といった短めの話。タイトルを『東京最低最悪最高』という。そのタイトルの通り、私が東京を好きな理由が詰まっていると、私は思った。

 主人公の人格がかなり面倒で言動もよろしくなかったり、実際の土地をモデルにした田舎の描かれ方だとか、東京を不自然に貶したり持ち上げたりし過ぎではないかとか、議論を呼ぶポイントはいくつもあるので、我がタイムラインもなかなかの賑わいになっていた。実際に主人公のような女性がいたら私は距離を取るだろうが、あれくらいの面倒さを抱えた人間なんてそこここにいるし、珍しくはない。そしてああいう人間でも息ができて踊れるところが、東京の良さなのではないかと、私は思うのだ。


 私の父はいわゆる転勤族だったので、地方都市にも、辺鄙な田舎にも、そして東京にも住んだことがある。それで思うのは、やはり東京は特異な場所だということだ。

 常に何かが起き、新しいものがやって来てどんどん入れ替わっていく一方で、古き良きものも維持している。その体力は東京に集まる人々がもたらすものである。だからこそ文化も政治も経済も、東京が中心になる。それが余計に人を呼ぶ。その忙しなさと賑やかさが、自分を埋没させてくれる。誰かに干渉しない限り、誰にも干渉されない街。そういう場所でしか生きられない人間は確かにいるのだ。

 それは勿論良いことばかりでもなく、治安の悪い場所ができたり、消費の早さが尋常ではなかったりもする。消耗してしまう人もいるだろう。ユートピアなぞは存在しない。

 それでも私は、そんな東京が好きなのだ。伸ばす手があればたいていのものに届いてしまう街。私を平気で置いていく街。どこにも似ていない街。


 だからあの漫画はやはり、「東京」で無くてはならない、そう思う。


 夕飯には、ミールキットで太平燕タイピーエンを作った。以前書いたので詳細は省くが、やはり旨味たっぷりで美味しい。

 食後にはレアチーズケーキを食べた。といっても、パティスリーのものではなく、たまたま安売りされていたカップ入りのものである。蔵王高原産とデンマーク産のナチュラルクリームチーズに、ヨーグルトと生クリームを加えて作ったというもの。スプーンを入れてもぎりぎり崩れない程度の柔らかさで、ぷるりとしている。一口食べると、思いのほか酸味が強い。だが全体に濃厚でクリーミー、後味は大変まろやかである。そのままでも美味しいが、個人的にはもう少し酸味が穏やかな方が好みなので、アカシアはちみつを少しかけてみた。これが大正解。アカシアはちみつのクセのないさらりとした甘さと華やかな香りが、濃厚なレアチーズにとてもよく合い、酸味も抑えてくれる。夫婦でうまいうまいと言いながらあっという間に平らげた。


 今日は久しぶりに、水道からお湯が出るような日だったのだが、外からは鈴虫の声がする。窓の外だけでなく、ドアの外からもする。何故ここまで上がってきてしまったのだ、鈴虫よ。


 

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