8月3日 親子丼

 わけのわからない暑さである。

 水道から出てくる水が、遂にお湯になった。もちろん、湯沸かししていない状態である。料理用の温度計があるので測ってみると、40℃だった。もはや風呂である。ガス代がかからなくて済むから大助かり、そんなわけはない。馬鹿の水温である。

 まぁこれについてはおそらく、集合住宅である我が家は一度タンクに貯めてから各家庭に配水されているタイプで、そのタンクが日々照りつける太陽にさらされているからであり、山陰のせいではない。しかし流石に、どうかしている。


 だからというわけではないが、無性に親子丼が食べたくなった。ちょうど肉と卵がそこそこ安い日である。体調は正直、あまり良くない。だが親子丼欲の方が勝った。外へ出るには色々と勇気がいるが、麦茶をがっと飲み干して買い物へ行った。

 帰宅後、汗をどうにか落ち着かせてから調理を始める。

 料理を一口に含んだ時、その具材の大きさが揃っている方が美味しい、という話がある。それに則って作る親子丼は、多少手間はかかるがその分美味しくできるのだ。

 丼物の場合はつまり、なるべく米粒の大きさに揃えるということになる。鶏もも肉の皮を剥ぎ取り、丁寧に筋を取りながら、小さな角切りに揃えていく。流石に米粒と全く同じ大きさにすると肉の質感が失われるので、1〜2センチ角程度。手間のほとんどはここにかかると言って良い。皮はスープにしても良いが、今日は暑いので、こちらも細かく切って丼の具にしてしまう。これは包丁よりキッチンバサミの方が早い。

 鍋に丼つゆを作る。出汁に醤油とみりん、砂糖を合わせて、弱めの中火で煮立たせる。ここへ鶏肉を入れ、再び沸騰したら素早く丁寧にアクを取り、弱火で炊いていく。火の通りも均一になる。

 卵は贅沢に、一人分に二個使う。卵とじの場合は溶きすぎず、白身と黄身が分かれている程度の方がぷるんと仕上がる。軽く煮立たせた具材にふわっと回しかけ、蓋をして少しぐつぐつとさせてから火を止める。この時、少し黄身を残しておいて、予熱で白身がちゃんと白く固まるくらいまで火が通ってから、残りを加える。こうすると良い具合のふわとろ玉子になるのだ。


 出来上がった親子丼は、我ながら良い出来である。

 丼を揺らせばぷるぷると震えるくらいの卵と、甘辛い鶏肉、そして炊きたてのごはんを匙にすくって一口。やはりこのバランス、一体感が素晴らしい。丁寧に細かく切った鶏肉はふっくらと柔らかく、コク深い味わい。とろりとした玉子と丼つゆが混じり合って、鶏肉とごはんを繋ぎ合わせる。しみじみ味わって良し、一気にかきこんで良し。ここに玉ねぎを加えるなんて無粋の極みである。

 ここ最近使っている山陰の醤油が甘み強めなので、全体に甘めの仕上がりだが、これはこれで美味しい。


 久しぶりにしっかり料理した気がする。この調子で色々となんとかしたいものである。

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