七月

7月1日 チョップドサラダ

 七月になってしまった。

 今年が半分終わったらしい。

 こうして山陰で暮らす日々も確実に終わりに近づいている、ということである。


 そんな七月の始まりは、最悪と言って良い一日だった。

 昨夜の雨は日付が変わる頃が最も強く、異常な蒸し暑さも相俟って、ここはアマゾンの熱帯雨林かと嘆きたくなるような有り様。体調が良い訳はない。目を閉じていても頭の中がぐわんぐわん揺れるようで、心もゆらゆら不安定になる。薬を飲んでどうにか浅い眠りについた。


 インターホンの音で目覚める。

 荷物の受け取りをするまでは良かった。ドアを閉め、リビングまで戻ってきたところで意識がふっと飛びかける。内臓がねじ切られるような痛み。私は寝床に倒れ込んで、夫に介抱されながら呻いているしかできなかった。ここまで悪化するのは随分と久しぶりである。ロキソニンプレミアムのおかげでどうにか痛みはおさまったものの、気力体力はゼロどころかマイナスである。食欲もありはしない。


 ドリンク剤を飲んで蹲るだけだった午後。夕方になってようやく、少し動けるようになった。そうして空腹を思い出した。しかし家にはろくなものが無く、夫も外出中である。

 久しぶりに、出前館を使うことにした。Uber Eatsは一応存在しているが、配達員が足りていないので使えやしないし、対応店舗は出前館とほぼ同じである。

 しっかりと弁当や丼を食べられる気はせず、ファーストフードは重い。麺類は宅配で食べるものではないし、カレーは昨日食べて胃もたれした。そこで、周辺で唯一のサラダ専門店に注文した。私の記憶が確かならば、昨年できたばかりの店である。

 チョップドサラダとは、文字通り具材を全て“みじん切りされたchopped”サラダのことである。ルーツはイスラエルのサラダだが、ニューヨークで大胆にアレンジされたものが広がったらしい。

 私が確かに若者だったころ、「サラダ専門店なんてしゃらくさい。気取った奴らが行くに違いない。本当はがっつり肉とかラーメンとか食べたいくせに」などと思っていたことを覚えている。だがじきに、私もサラダ専門店のお世話になるようになったのだ。体は確実に衰え、野菜を求めはじめる。油どころか炭水化物も重く感じる日にはありがたい存在なのだ。今日のように。

 今回食べたのは「アーバンワイルド」という不思議な名前の、おそらくこの店のオリジナルメニューである。具材はホウレン草、雑穀米、グリルドチキン、フェタチーズ、ローストブロッコリー、林檎、クルミ。そこにバルサミックビネグレットドレッシングが添えられている。鉄分が足りない気がしているのでちょうど良い。

 おそらく黒のバルサミコ酢を使ったドレッシングは、茶色くどろりとして、正直言って見た目はよろしく無い。だがこの風味が野菜によく合い、なかなかに美味しい。みずみずしい林檎や鶏肉にバルサミコ酢は相性が良いし、そぼろ状のフェタチーズはふんわりとまろやかで、香ばしいクルミがほどよく味を引き締める。それぞれの食感も面白く、それをスプーン一つで食べられるのが良い。

 決して安くはない(東京と同じ値段)が、今の私には必要な一皿だったので、満足である。


 さて、ここまで下書きに書いたのを、私の不手際で一度消してしまったのだが、どこまで蘇っただろうか。悲しい。今日はやっぱりろくでもない。

 明日こそはどうか、多少マシな日であるように祈る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る