山の陰に暮らす
灰崎千尋
三月
3月21日 チーズトースト
島根に住んでいる。
縁もゆかりもない土地に、夫の転勤についてくる形でやってきた。間もなく一年が経つ。正直言って、あまり私と相性が良くない。
その前は東京にいた。あそこには何もかもがあった。楽しいことも苦しいことも、少し手を伸ばせば届くところにあって、時に容赦なく私を巻き込んだ。素敵なことばかりで無くとも、私には東京の片隅が心地よかったのだ。
島根には人がいない。犬猫もいない。灯りもない。湖はある。魚もいる。神社もある。きっと、ここを気に入る人も多い。だけど私には合わなかった。本当に残念なことに。
その島根に、もう一年は住むことになった。その間のことを、なんとなく書き留めておこうと思う。これはそうした日記である。
今日は祝日なので、遅く起きてチーズトーストを焼いた。
土日に大阪へふらりと旅行しに行って、その時に買ってみた「食パン工房 春日」の食パンを使う。昨日はシンプルにバターやピスタチオクリームを塗って食べた。さっくりとした耳にふわふわの白い生地、噛むほどに小麦の香る美味しいパンである。シンプルだけれど飽きのこない味わいが良い。こういう食パンを、島根ではまだ見つけられていなかったりもする。
オーブントースターもあるのだが、フライパンで焼くことにする。コウケンテツがYouTubeで教えてくれたやり方。
フライパンの上にシュレッドチーズを四角く敷いて、火をつける。全体がゆるく溶けてきたら、その上に食パンを乗せ、ぐりぐりと軽く押し付ける。チーズの端が少し固まってきたら頃合いだ。こんがりと焼き色がついたら一度取り出し、フライパンにはバターを放り込む。火を消して、予熱でバターを溶かしながらパンの裏面にじんわり染み込ませたら、できあがり。
トースターでつくるチーズトーストとはひと味違う、香ばしくてリッチなブランチ。黒胡椒と蜂蜜もかけてしまおう。
私がトーストを作る間に夫が淹れてくれた珈琲を啜りながら、二人向かい合って齧る。「大阪は楽しかったけど、まだ疲れが残ってるよね」ということで、あとは何にもしない日にした。
ここはまだ寒いから、こたつの中でこれを打ち込んでいる。島根も昨日桜が咲いたというけれど、これも花冷えというのだろうか。
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