第56話 帰路②

 青の広間にいたときのこと。

 魔導書は消失させてしまうべきだということになり、カイが魔法で火をつけたのだが、全く燃えなかった。他にも、破ろうとしたり、叩いたり、つねったり、あれやこれやと試したのだが、うんともすんともいわなかたった。

 半分になってしまったのが嘘だと思われるくらいだ。

 何かしらの魔法がかかっているのだろうということで落ち着いたが、それならば猶更なぜ裂けたのか、首を捻るばかりだった。


「俺は、エンガリア王国のエターニア大聖堂に預けるのが良いと思う」


 ラルフはユリアの腕の中にある魔導書の片割れを細めた目で見ると、迷いなくそう言った。


「え? どうして?」

 

 ユリアが思わずライナルトを見ると、ライナルトは眉を上げ、肩を竦める。


「俺の知る限り、あそこにいる聖女が一番力がある。古代魔法などという得体の知れない魔法を処理できるのはあそこくらいだと思うが。それに、だ。イーリアにあるより、エンガリアにある方が、ゴッドフリートの手に届きにくいだろう。異邦人、お前の意見は?」

 

 水を向けられたライナルトは困ったように眉を寄せた。


「そうだね……エンガリア人としての意見を言わせてもらうと、聖女様の力は確かに強いけど、古代魔法をどうこうできるかはわからないな。でも、まあ、あの少年から離すという意味では良いかもしれないね。エターニア大聖堂の結界はなかなかなものだし、ちょっとした封印なら施してくれるかもしれない。……そうか。俺が預かればいいんだよね」

 

 ライナルトはユリアに手を差し出した。


「ユリアちゃんが持っているより、俺が持っている方がいい。このまま、エンガリアに運ぶよ」

 

 ユリアは差し出された手に目を落とし、胸の奥が疼くのを感じた。

 まるでお別れのようではないか。

 ライナルトは、このまま一人でエンガリアに帰ってしまう。

 今の今まで、ライナルトと離れ離れになる可能性など考えていなかったユリアは、戸惑い、動揺した。胸の中に鈍い痛みが広がっていく。


「やだ……」


「?」


「私が、私が自分で持っていく! エンガリアのエターニア大聖堂に‼」


 ユリアの声が荷馬車内に響き渡った。



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