第50話 古代魔法の脅威①

「ユリアー‼」

 

瞼を開けると、眼前に涙と鼻水でくしゃくしゃなアヒムの顔があり、ユリアは驚いて目を見開いた。


「おおおおおお‼ 俺は猛烈に感動しているぞー‼」

 

雄たけびを上げ、拳を天に突き上げるアヒムを見、ユリアは眉を寄せてから、体を起こした。


「えっと、どういう状況だっけ?」

 

ユリアは目の前にある二つの顔に目を向けた。

 

ひとつは、目元を赤くして、拗ねたように視線を逸らすカイ。

もうひとつは、疲れた顔に、安堵の微笑みを浮かべたライナルト。

その背後ではアヒムが笑いながら涙を流し、「歓喜の舞だ! 神よ、感謝します!」などと口走りながら、踊り狂っている。


「とりあえず、傷は塞がって、体は回復したよ。まだ、どこか痛む?」

 

ライナルトの労わるような視線に、ユリアは恥ずかしくなって、視線を下に落とす。


「ぎゃっ‼」


真っ白だった服が、今や血みどろのどろどろだ。

血は苦手な方ではないが、さすがにこの量はいただけない。

 

ユリアは眩暈がして、ふらりと後ろに倒れそうになるも、すかさず伸びてきたライナルトの腕が受け止めてくれる。


「まだ、本調子には程遠いんだ。今は安静に」

 

ユリアはぐるりと視線を巡らせた。白く輝く七色の天井に、同じ材質の壁だ。


「あれ……ここどこだっけ?」

 

記憶が混乱していて、今どうしてここにいるのかさえも思い出せない。


「えっとね、」


「この青年が、弓に打たれたお前の体を治癒してくださったのだ‼」

 

いつの間に踊るのをやめたのか、ライナルトとカイの間からにゅっとアヒムの顔が出る。


「え? ライナルトが……治癒?」

 

きょとんとした顔で、ライナルトを見ると、彼は控えめに微笑んだ。


「え、でも……ライナルト、魔法なんて……いや、四大魔法に治癒魔法なんてない。どういうことなの?」

 

ユリアが問うと、ライナルトは困ったように視線を、周囲を覆う光のベールに向けた。

その光は今や薄まりかけていた。光のひだが徐々に色を失い、透明へと近づいていく。

灰緑色の双眸に、一瞬、寂しげな色が浮かび、けれどすぐに、誇らしげな輝きに変わった。


「女神の力なんだ。これが……俺の最後の魔法だ」


そう言って、笑ったライナルトは、とても晴れやかな顔をしていた。

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