白銀の魔法使い ~古代魔法と四つの鍵~
雨宮こるり
プロローグ
全ての大地は、全知全能の神が創造された。
神により生み出されし五つの大陸は、それぞれ神の子らの守護下に置かれた。
東の国ヤマトは、勇敢なる火の神ファイエル。
西の国イーリアは、高潔なる水の神バサエル。
南の国タムは、聡明なる風の神ヴェンツェル。
北の国シェリアンは、偉大なる地の神ボードゥエル。
中央大陸エンガリアは、祝福の女神セングレーネ。
地上には光が満ち、そこに息づく全ての命あるものは、等しく神に愛される。
◇◇◇◇
——あなたは天使なのよ。
幾度となく繰り返される母の言葉。
——あなたは特別な子。
屈みこみ、目線を合わせながら、優しい微笑みを向けてくれる母の顔には、充足感と喜びとが入り混じり、それを向けられる少女も満たされ、誇らしい気持ちになった。
——お兄ちゃんやお姉ちゃんよりも高貴な存在なのね。だって、あなたはとても勉強熱心で、信心深いもの。
年の離れた兄や姉と比べられ、末っ子の自分が優れていると言ってもらえるのは、何とも良い気分だった。自分が特別なのだと思うと、不思議な高揚感が湧き上がり、背筋がしゃんと伸びるような気がしたのだ。
今まで以上にたくさん聖典を読もう。
毎日お祈りして、少しでも神様のお役に立てる人間になろう。
そうしたら、父さまも母さまももっと喜んでくれる。
幼い少女は純粋だった。
父母の言うことを素直に受け入れ、神様や両親に喜んでもらえるよう努力していたのだから。
けれど——いつまでも無垢な子供ではいられない。
少女はいつしか、「神様」を信じられなくなった。
開け放たれた窓の前に立ち、時折吹き込むひんやりした風に、白銀の長い髪を弄ばれながら、すっかり成長した少女は碧い瞳で夜空を見上げていた。
「私は……信じられない。神様って、あんな人じゃない」
思わず、零れ出た言葉に目を見張りながらも、少女は自分の気持ちに正直でありたいと願った。例えそれが、決別を意味していたとしても。
その夜、少女は「神様」を捨てた。
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